1講:世界観の重要度
――では本論へと移ろうか。
解答
キャラクター>>>>シナリオ>>>>世界観
うむ。
世界観なんて小説を書くのにおいて本当はどうでもいい。特にライトノベルやなろうにおいてはそうだ。
ライトノベル、ライト文芸をキャラクター小説と定義したのは大塚英志(注1)であろうが、魅力的な登場人物なくして良い作品は書けない。
だが、小説を書きたいと思う人や演劇経験者ほどシナリオを重視しやすく、設定厨寄りのゲーマーは世界観を重視しやすい。
後者はわたしのことだな。
キャラクターの重要性を証明するものとして分かりやすいものが、小説ではないが日常系・空気系4コマ漫画(注2)であろう。その極地ともいうべき『けいおん!』を例に取るが、舞台は高校の部室を中心とするごく狭い範囲、シナリオもギャグも極めて薄い。
極端な言い方をしてしまえば、「面白くない」漫画である。実際、わたしはそこまで好きではない(もちろん嫌いでもないが)。同じ日常系でももう少し笑えるものが好きというだけである。なんなら『Quickstart!』(注3)は日常系でありながらわたしの最もお気に入りの漫画の1つである。
さておき、『けいおん!』は極端に言えばストーリー性、世界観の煩雑さ、それらを極限まで削ぎ落としたことによりヒットした作品である。つまり、キャラクターだけでメガヒットは作れるということだ。
シナリオについてはどうか。
『12人の怒れる男』(注4)という有名な作品がある。
これは世界観はなし(裁判所の1室がシーンの95%を占める)で最高のシナリオの作品だ。物語は脚本さえ良ければ世界観など不要という意見で引き合いに出される作品ナンバーワンであろう。
確かに世界観はない。だが、キャラクターが優れてないという訳ではない。というか、『12人の怒れる男』は特に陪審員3番のキャラクターが優れている作品だろう。キャラクターが一定以上のクオリティであり、シナリオが神がかった作品と考えている。
では最後、世界観についてはどうか。
キャラクターやシナリオが凡庸だが、世界観のみが優れているヒット作品というものをわたしは知らない。これだけでも世界観の重要度は低いと思っている。
ファンタジー作品についてはちゃんとした世界観が無いと書けないと思われる方もいるだろうか?
答えはノーだ。
『五竜亭シリーズ(ファンタジーRPGクイズ)』(注5)という作品がある。五竜亭という酒場でベテラン冒険者たちが新人に、自身の自慢や失敗を交えて「こういう状況だったらお前はどうする?」と質問してその答えを言う。そしてその解答に対して他のベテラン冒険者が賛成したり、自分ならこうすると自身の見解を示すという作品である。
つまり、舞台は酒場1つである。
もちろん世界観が全く存在しない訳では無い。五竜亭はユキリア世界のセルフィスの街近郊に存在するという設定はある。
とは言え、別にあれが別のファンタジー世界の任意の場所、例えば『ロードス島戦記』(注6)のライデンの街近郊であったとしても何ら問題なく話を進められる訳であり、世界観の重要性は限りなく低いと言える。
なろうにおいてはどうだろうか。
もちろん、世界観に優れたもの・独自性を魅せる作品もある。
だが一方で『なろうテンプレ』や『ナーロッパ』(注7)と揶揄されるようにテンプレの枠内でしかない作品が、ランキング上位にいたり、書籍化されたりしてはいないか?
わたしはテンプレ否定論者ではない。このこと自体は評価すべきことであるとも思っている。
つまり、世界観などさして重要ではないのだ。それを考える時間があったら、どれだけ読者に強く訴えかけるキャラクターを描けるかに心血を注ぎたまえよ。
その方がランキングで上位取れる可能性は高い筈だ。
以上、解散!
…………どうした。
それでもまだ聴講したいというのかね。
いや、本当にまずキャラクター練れ、次いでシナリオ練れというのだが、それでも世界観の話を聞きたいというのかね。奇特なる受講生よ。
……では次の講義を待つと良い。
次回予告
「世界観で最も大切なこと」
では問題。
タイトルそのままだ。もう少し正確に言うと、
「きみがオリジナル世界観のファンタジー長編小説を書く、あるいはゲームを作るとしたとき、その世界観で最も大切なこと」は何だと思うかね、考えてみたまえ。
注1
大塚英志
小説家、評論家。著作に『キャラクター小説の作り方』など。
注2
日常系・空気系4コマ漫画
あずまきよひこ著、『あずまんが大王』を祖とする、登場人物の会話を軸に、ストーリー性を伴わず、大きな事件などが発生しない、何気ない日常を描いた作品のこと。
その中でもかきふらい著、『けいおん!』はその他日常系作品よりも特にコメディとしての笑いも少ないがメガヒット作品であるため、日常系の極地である。
注3
Quickstart!
安達洋介による日常系4コマ漫画。TRPGをネタとしている。
注4
12人の怒れる男
1950年代のアメリカのテレビドラマ及び映画。これを原作とした舞台演劇も多い。法廷モノサスペンス、密室劇の金字塔。
陪審員3番は主人公(8番)と最後まで対立した登場人物のこと。
注5
五竜亭シリーズ(ファンタジーRPGクイズ)
富士見ドラゴンブックより出版されていた。冒険企画局編による全4巻。1989~1995年。
注6
ロードス島戦記
元は雑誌コンプティークに掲載されたTRPGの紹介記事(1986)であり、それを元にした水野良著のファンタジー小説(1988~)。日本におけるライトノベルの草分け的存在であり、金字塔。ライトノベルからのメディアミックスという手法が確立したのもこの作品による。
注7
ナーロッパ
なろうにおけるテンプレ的世界観が中世ヨーロッパ風世界観を自称しながら、知識不足や誤解により現実のそれと大いに異なることに対する蔑称。
蔑称でありながら、語呂が良いこともあり、蔑むニュアンスがかなり低いかと思われる。
次回講義は、なまどりの次話を投稿した後、来週半ばになるだろう。