ここをきゃんぷちとする。
あるいた。ついた。かった。
と、脳内で描写していれば勝手に目的地に着くのは物語の中だけなので、当機は山を下りて森を歩いている。
キャンプ地があるなどと抜かす青少年は先程からせわしなくあっちをきょろきょろ、こっちをきょろきょろといった有様で、もしかしたら道に迷っているのではないかという疑いが濃厚だ。
むしろ、獣道どころか何も通ったことはありませんが? みたいな藪の中に突っ込んでいくのは、確実に通った事の無い道だろうからして?
疲れる事も無ければ大概の状況で怪我どころか擦り傷一つ付かないハイスペックな当機はまあ寛大な心を持って不平不満も無く付き従っているが、正直大丈夫なのだろうか。
と思いながら歩く事実に数時間。天体の見えない以上明度でしか時間帯の把握が出来ない現状で、そろそろ夜ですよと言わんばかりの暗さ。
これはもう一度その辺で休憩するべきなのでは? と思う程消耗した青少年は、ようやくその足を止めた。
「お? 遂に諦めたか?」
「ちげぇよ馬鹿、着いたんだよ」
こっちは背丈より高い草ばかりで見えないってのに、馬鹿とは失敬な。まあ青少年に敬意とかそういった高尚なものを求めるのも可哀想だな。当機理解した。
「うわ、なんか糞腹立つ顔してるし……まぁいいや、やっぱり誰も帰ってきてないのか……」
藪を抜けた先に見えたのはどうやら森の外のようで、確かに簡単な台車のようなものや寝泊まりした跡のような物も見える。
2桁に行くか行かないか程度の人数は居たのだと思えるその痕跡は、つまり先程の施設に立ち入った者達の痕跡なのだろう。
これだけのろのろと歩いてきたにもかかわらず、誰も居ないとなれば考えられるパターンは多くない。
これが勘違いの多い空気読めない低スペックであれば、青少年を仲間外れにして帰ったとかそんな事を考えるのだろうが、当機はハイスペックなので?
恐らくは先程の粗大ゴミとか、他の要因とかで芸術に昇華されてしまったのだろう。当機に出会えなかった不幸だな。
「親しかったのかごすずん?」
「いや、別にそうでもないけどさ。良い人達だったからな……」
「ほーん。ごすずんは良い奴なんだな」
大して親しくも無い相手に良い人だったからとかそんな感じで悼むことが出来るのといい、名前の時の気遣いといい、性根は良い奴なのだろう。善人的な。
つまり命を助けてくれたし名前を付けてあげた当機を急に売ったり捨てたりといった事は無さそうである。マジ(都合の)良い奴。
「良い奴なんかじゃないさ。儲け話に誘ってくれた先輩が目の前で……そんな時に真っ先に逃げ出したんだぜ?」
まあ逃げてなかったら生きて無いんだろうしね? 仕方が無いんじゃない?
「いつだってそうだ。みんな死んじまって、俺ばかり生き残る……」
死ぬよりはいい事なのでは?
「……とりあえず、今日は此処で夜を越すからな」
突っ込みを入れた場合面倒なことになりそうだから空気を読んで黙ってられる当機。
正直疲れとは無縁のボディなので当機は休憩しなくてもよいのだが、やはり人間は休憩が必要だろう。