やらなきゃいけない事とかほっぽり出して現実逃避する事のなんと楽しい事か
近場の遺跡、という中々不思議な感覚を覚える場所。既にめぼしい物に関しては漁り尽くされ、空っぽの廃墟と言うにふさわしい空間。
そこで、ベイジルは一生懸命……逃げ回っていた。
「む、無理だろ! これ無理だろ!」
「がんばれがんばれいけるいけるだいじょーぶだってごすずんあきらめんなよー」
「ふざ、ふざけんなマジでっ! ぬぉぉぉ!」
D級の遺跡漁りに回されるスタンダードな仕事として、枯れた遺跡の怪物の駆除がある。
基本的には見回って終わりなんてことすらある、定期的な巡察依頼を受けたベイジルであるが、見事に大当たりを引いたわけで。
ある意味でそういった星の下に生まれているのではないかと思える程に、ベイジルは幸運がアレらしい。
そこそこ大型の、ベイジルより少し高くて、幅的には圧倒している現在追い回している側の怪物は、なんというか、カエルと豚のあいのこみたいな外見だった。
発見したベイジルがいきなり最初から当機をけしかけようとした為、とりあえず石ころで注意を引いてベイジルにけしかけた次第である。
スパルタ教育? はは、何をおっしゃるのか。万一死にそうになったら確実に助けられる充分な余裕があるんだからゲロ甘イージーモードでしょ?
走る速度は遅く、時折跳ねてベイジルを潰そうとする豚ガエルな訳だが、確かにスタンプされたら危険かもしれないが少なくともこの前の森で出てきた連中よりは危険じゃない。
「逃げてばかりではダメだぞごすずん」
「こっちはまともにっ! 剣を振ったこともっ! 無いってのにっ!」
だから訓練になるって話でしょうに。というか普通はその位特訓とかしてるんじゃないだろうか。まったくしょうがない。
飛び跳ねた豚ガエルの着地点の下に入り込み、着地前にキャッチする。勿論バタバタと暴れるがその程度で当機が落としたりするはずも無いんだよなぁ。
「じゃあとりあえず切りつける訓練に切り替えるぞごすずん」
「ぜー、はー、糞ぉぉぉ!」
大きく振りかぶって、掛け声と同時に思いきり叩きつけるように剣を振るうベイジル。もしこれが豆腐に当たったりビーム的なセイバーだったら大ダメージだったに違いない。
水辺に生息しているわけでもない豚ガエルは当然ながらカエルよりも豚、というか割合頑丈な皮膚を持っていて、名剣でもない十把一絡げの安物を適当に叩きつけたところで。
血が出る程度には切れたものの、ぶよんとはじき返される剣に身体を持って行かれるベイジル。
「ぬぉっ! 手が痛ぇ!」
「休んでる暇はないぞごすずん。今のと同じなら大体同じ場所に28回当てればまともなダメージになるぞごすずん……それだけだと死ぬまでしばらくかかるが」
「……馬鹿かお前、馬っ鹿じゃねぇの?」
「そこまで言うなら今から放すから頑張って一人で」
「すみませんごめんなさいそのままでオネガイシマス」
結局、ベイジルが豚ガエルを殺すまで、それから1時間以上かかるのであった。