その感情の名前
「はぁ…」ナギは窓際で頬杖をついてソーディア王宮の向こうの森を眺めている…
森を見るとこの間のエメラルダの森の出来事を思い出す…
「ゴメンよ!悪いことをするつもりは無いからさ、許してよ!」優也の言葉がナギの頭に浮かぶ…
「オオカミ相手にあんな事言う人…初めてですわ…うふふ。」ナギは笑みを浮かべた…
中庭からそんなナギの様子を見ていた一人の若い男がいた…「姉ちゃん…」
次の朝…ソーディア王宮のダイニングフロアでは…国王とその家族が朝食の時間を迎えていた…「ご馳走様でした…」少量の朝食を残したナギはまた自分の部屋へと戻っていった…国王は最近食事をあまり摂らない娘…ナギの事を心配していた。
「ムラサメ…最近、ナギの様子はどうじゃ?」「ん?姉ちゃんか?あかんあかん!あれは誰かに恋しとる目やで…」「この間、ジュエラの森に出かけてからじゃの…誰か気になる殿方と巡り合うたのじゃろうか?」「姉ちゃんも適齢期やからな!幼馴染のティナちゃんはもう旦那さんもろうて子供までいるっちゅうのに…ま、相手は人間らしいけど…」「ムラサメよ…お前も人間はやはり我々より劣ると思うか…?」「父ちゃん…当たり前やろ!まず、魔法が使えんだけでも弱いのに、剣の鍛錬を小さな頃から学んでるワイにとったら人間なんて使いモンにならんな…」「…そうか…」
ソーディア王国に…いや、他にもあんなに優しい心を持った男性はいない…心からそう思ったナギは日を重ねる毎に頭の中の優也の存在が大きくなっていった…しかし恋という感情を持ったことが無かったナギは自分のその感情の名前さえ何なのか分からないでいた…
「ティナの旦那さん…もう一度会いたいなあ…でもティナに悪いかな?…ちょっとだけ家に遊びに行くくらいならいいかな?」
抑えきれない感情がナギの背中を押した…




