全世界を敵に回しても
それから一時間後、ナギとレーヴァは兵士達と王族や僕達客人が見守る中、訓練場に対峙していた。この決着により、一国の首長が決まるとあって魔法中継をされて今や、全世界の人々の関心となっていた…
レーヴァはナギさんを見てニヤリと笑った「フン、こんな小娘…一瞬で捻り潰してやるわ…」自慢の両刃剣を鞘から抜くとナギに向かって構えた…「失礼ながら…国王様…真剣を使っても良いとの事…それ故に手加減は出来かねますが…」ソーディア王は淡々とした口調でレーヴァに返した。「心配要らぬ…思いきりやるがよい…ナギも国王職に就くと決めた時から覚悟は出来ておる…」
僕もティナと手に汗を握ってハラハラしながら様子を見守っていたその時、後ろから僕達を呼ぶ声がした…「優也くん…ティナさん…」「まあ、アイさん…そうよね、私達が呼ばれているんだから勿論、ミラールからも…」愛ちゃんは頷いて「実は私も数週間後に戴冠式を控えているの…高齢の父や母に変わって…ね…ティナさんや優也くん、そしてナギさんに出席してもらおうと思っていたけど…この闘いの結果次第では…どうなるでしょうね…」僕は愛ちゃんの言葉を聞いて…そしてナギさんのほうに改めて向き直った…
「姫、お覚悟を…どうりゃあああ!」
レーヴァは宙を舞いながら振り下ろした剣がナギに襲いかかる…
しかしその剣がナギに届く事は無かった…
レーヴァは宙を舞ったまま止まってしまった…「くっ!」地面から現れた長い根が彼の剣に巻きついてそれを握っている彼を宙吊りの状態にしていた…
皆、ベヒモスを優也達みんなで撃退した事は知っていても、ナギ達王女や優也に伝説の魔法使いの守護霊が付いている事など知る由も無かった…
「隊長に続け!」数人の一番隊の衛兵がレーヴァとナギに割って入った…
「お前達…」「隊長…我々も同じ覚悟でございます…」燃えるような紅い瞳でナギは無数の木々を自分のの周りに呼び寄せた…「何人でも構いません…かかって来なさい!」
兵士達の剣の刃を木々の枝が受け止める…
そして更にナギに向かって襲いかかろうとしている兵士に向かってナギは木々の葉を刃へと変える…無数の刃は木々から飛び出して兵士達の足元へ突き刺ささった…兵士達はナギに近づく事さえ敵わなかった…
兵士達は全員うなだれてナギを見つめる…
「こ、これが姫様…超えている…我々は勿論、ムラサメ様をも…」
「もうよろしいですか?私は貴方達とは闘いたくない…」ナギの言葉を聞いて兵士達の中には涙する者もいた…「我々は…我々は何の為に鍛えて何の為に闘っていたのだ…」兵士達はガックリと肩を落とした…
レーヴァは剣から手を離し、ナギの前に歩んで、そして跪いた…
「姫…完敗でございます…」
ナギは悲しそうに頷いて、後ろを向いて立ち去ろうとした…
「完敗なのはお前のほうだがな…」レーヴァは隠していたナイフを逆手に持ってナギに襲いかかった…
「クロノ!」ヴァルプルギスモードに変身した優也はレーヴァのナイフを左手で受け止めた…白い手袋が優也の血で赤く染まっていく…そして右手でレーヴァの頬を拳で思いっきり殴りつけた…レーヴァは二、三メートル後ろに吹っ飛んだ…それを見ていた全世界の人々が優也の行動に釘付けになった。
「完敗なのはやはり貴方達のようですね…
クックックッ…揃いも揃ってこの馬鹿野郎どもがぁ!」
ナギの瞳と同じ…優也の燃えるような紅い瞳と怒りの迫力に兵士達は後退りして怯んだ…
「これが…これが全世界最強のソーディア兵士がやる事かよ…こんな…細くて、可憐な姫の為にこそ男なら命を賭けて守るべきなんじゃないのか?国民の総意だ?本当にこの国に…この世界にこんな事を望んでいるヤツがいるならオレは全世界を敵に回しても姫を…ナギを守る!」
レーヴァもガックリとうなだれた…もう、姫に襲いかかろうとする者は誰も居なかった…
ナギは一瞬涙ぐんだが、その涙を指で拭ってフーッと大きく息を吐いて全国民に向けて言い放った。「これより前国王より私が国の全ての指揮権を受け継ぐ…異論のある者は申し出よ!」
少女のように可憐な姫の姿はもうそこには無かった…若き日のマサムネ、弟のムラサメに勝るとも劣らない猛々しさを燃えるような紅い瞳に秘めた新女王…ナギの誕生に全国民が喜びに沸いた。
優也はレーヴァに歩み寄って右手を差し伸べた…「す、すみませんでした…」涙ながらに優也を見つめるレーヴァに対して優也は口を開いた…「ナギさんは君達を心から頼りに…誇りに思っている…何の為に闘うのか?その信頼に応える事…己の誇りの為に闘うんだよ…」
変身を解いた優也のその笑顔を見てムラサメは笑った…そしてソーディア王に「やっと分かったわ…父ちゃん!ワイはこのままでは姉ちゃんにも…そしてあの兄ちゃんに至っては足元にも及ばへん。ワイは旅に出て自分を見つめ直すわ…」ソーディア王…マサムネは父親の顔に戻ってムラサメの言葉に深く頷いた…
ナギは続けた…「では、私の国王になって最初の仕事…ここにおるジュエラ王国の優也殿に我がソーディア王国の騎士の称号を与える…異論のある者はあるか?」
魔界の全世界の人々が優也とナギを認めた…割れんばかりの人々の拍手と喝采に包まれる中、優也は「えっ?騎士?僕が?…またそんな大役…無理だよ!」
ムラサメとマサムネは顔を見合わせて「そやかて、全世界を敵に回してもナギを守るて言うたしな…な、父ちゃん!」「うむ、婿殿…ワシもしかと聞いたぞ…何ならこの際、ナギの婿殿になっても…」「ちょっ、おじ様…それは無理!ダーリンは私のダーリンだからね!」ティナが僕を抱きしめて奪還する…
困った僕の顔を見てナギさんは一点の曇りもない空と同じような笑顔を見せていた…




