勇者再来
本日二話目です。
『バンカー公爵軍の皆さん、自分は自由交易都市スベニの冒険者で、ジョー・ジングージと申します。今回、縁あってスベニ滞在中のバンカー公爵閣下とエリザベス姫より、ご家族の救出を依頼され、援軍として駆け付けました。これより、自分の使い魔にてバンカー公爵閣下の親書をお届けしますので、それをご家族の方へお届け下さい。自分たちが信用に値するかどうかの判断は、その親書にて確かめられる筈です』
俺は、一端PAのハンドマイクを離し、ドローンのコントローラーを手にしてドローンを飛ばす。
ドローンの本体には、バンカー公爵より預かってきた羊皮紙を丸めた親書を括り付けてある。
ドローンは、特有の飛行音を発して空高く舞い上がった。
此処からであれば、ドローンのカメラを見なくても操縦は可能だが、城壁の上へ確実に着陸させるために、スマートフォンでドローンからの映像も表示させている。
ドローンからの映像には、城壁の上で攻防戦を行っていたバンカー公爵軍の兵士が映し出されているが、皆が疲れを隠せずに居る様子だ。
そして、ドローンを見つめる眼差しは、驚きと共に援軍が来たという安堵の表情をしている兵士も多かった。
俺は、慎重に城壁の上にドローンを着陸させて、ローターの回転を止める。
『今、そちらへ送ったのが自分の使い魔です。括り付けてある羊皮紙がバンカー公爵閣下からの親書ですので、括っている紐を外してご家族様へ至急、お届け下さい。宜しければ、親書を外した後、こちらへ向かって手を振っていただければ、自分の使い魔を回収します』
ドローンのカメラには、士官らしい装備をした兵士がドローンに括り付けられている親書を外しているのか、大きくドローンからの画面が揺れる。
直ぐに画像は安定して、城壁の上に士官らしい兵士が、こちらに向かって大きく手を振りながら大声で叫んだ
「スベニの冒険者、ジングージ殿。まず救援を感謝致す。バンカー閣下からの親書、確かに受け取った。間違いなくバンカー閣下の封蝋を確認致した。至急、奥方様へ届ける故、暫し待たれよ」
『わかりました。よろしくお願いします。自分達は、このままの位置から大公城を攻める傭兵軍への攻撃を続けます。奥方様やご子息様の判断に委ねますが、今この時こそが傭兵軍を鎮圧する機会です。城門の跳ね橋を降ろし、共に傭兵軍と戦いましょう』
「なんと心強い言葉。その言葉も奥方様へ伝えよう。では暫し待たれよ、御免」
城壁上の士官の姿が消えたのを確認し、俺はドローンのコントローラーを再び操作し、ドローンを浮上させて、こちらへと帰還させる。
ドローンは、俺の乗る16式機動戦闘車の砲塔まで飛行してきて、俺の操縦により砲塔の上へと着陸した。
ドローンに搭載されているGPSが機能していれば、自動で帰還する機能も使えるのだが、全てマニュアル操作での飛行だ。
俺は、戻ってきたドローンを車内へ回収し、コントローラーと共に16式機動戦闘車の後部にあるスペースへ格納した。
そして、アンとベルへ指示して、大公家の城を今も攻撃している傭兵軍へ向けての砲撃を指示する。
少し距離はあるが、16式機動戦闘車の主砲にとっては射程範囲な上、アンの射撃能力があれば全く問題は無い。
ベルが砲弾を装填し、アンが砲撃を開始する。
16式機動戦闘車の主砲105mmライフル砲が発射されると、バンカー公爵城の城壁に居る兵士達から同時に歓声が上がる。
そして、榴弾が傭兵軍に着弾し爆発すると同時に、再びバンカー公爵城の兵士から更に大きな歓声と賞賛の声が轟いた。
「凄い爆裂魔法だ!」
「こんな凄い魔法は見たことが無い」
「まるで、伝説の勇者コジロー様の様だぞ」
「勇者様の再来だ!」
「勇者様の操った"鉄の箱車"と同じだぞ」
「爆裂魔法も伝説と同じだ」
「勇者ジョー殿、万歳!」
「「「勇者ジョー殿、万歳!」」」
おいおい、今度は勇者かよ……勘弁してくれ。
俺は、勇者でも"女神様の使徒"でも無いし、ましてや悪魔の言う"選ばれし者"でも無く、異世界へ転生した未熟な防衛大を卒業したばかりの自衛官見倣いだよ。
"爆裂のジョー"と言う二つ名だって、如何にも中二病の呼び名で、恥ずかしくてスベニの街で呼ばれる度に赤面していたのだから、これで勇者なんて呼ばれようものなら、俺は街を歩けなくなっちまう。
もう、タースの街には絶対来ない事にしようと、密かに心に決めるのだった。
アンの砲撃によって、大公家の居城を攻撃していた傭兵軍は、投石器などの攻撃兵器を全て破壊され、弓兵や魔法使い部隊も沈黙した。
しかし、まだ傭兵軍の兵士は逃走せずに大多数が残っているのだが、既に戦意は失われている様で、その場に立ち竦み、こちらを見ている者や、その場に力なく座り込んでいる傭兵も多い。
双眼鏡で、大公家の城壁を見ていると、大公家の兵士達が戦意を消失した傭兵軍へ向かって、弓や投石、更には魔法攻撃を盛んに仕掛けていた。
その時、バンカー公爵城の城門に設置されている、巨大な跳ね橋がゆっくりと降り始める。
どうやら、親書を受け取った奥方か子息が、傭兵軍への反撃を決意してくれた様だ。
ゆっくりと降りて来る跳ね橋が堀を跨ぎこちら側へと接地すると、大勢の兵士達が歓声と共に跳ね橋を渡って来る。
兵士の先頭には、先ほどの士官らしい騎士が、笑顔で俺の方へ走り寄って来るのが見えた。
「ジングージ殿、奥方様と跡取り様より御伝言です。この度の救援、感謝に耐えない。傭兵軍の鎮圧、よしなにお願い致すとの事ですぞ」
「そうですか、それではこれより進軍して傭兵軍を共に鎮圧しましょう。既に大公家を攻めている傭兵軍は殆ど壊滅状態です。奴らを蹴散らして、黒幕の闇ギルドと傭兵軍の幹部が立て籠もる侯爵城を一気に攻めて、反乱軍を鎮圧しましょう」
「なんと頼もしいお言葉。それがし達も、お供いたします故、是非、陣頭指揮を願いますぞ」
「承りました。では直ちに進軍しますので、自分達に追従して来てください。ナーク、MCV発進!」
「……了解。発進する」




