避難民
俺達、パーティー"自衛隊"が乗った16式機動戦闘車は、再び城塞都市タースを目指して、朝日を背に浴びながら街道を驀進する。
操縦席に座るナークは、街道上の運転も96式装輪装甲車で慣れたのだろう、全く危なげなく16式機動戦闘車を操縦している。
俺は、砲塔の車長席から上部のハッチを開放し、周囲を警戒しながらの進行だ。
暫く街道を進行して行くと、前方に馬車や大勢の人々が、こちらへ向かって来るのが見えた。
双眼鏡を使って詳細を確認してみると、武装もしておらず小さな子供連れの人も居る。
荷馬車の多くは、家財道具と思われる荷物を満載している馬車も見られ、どうやらタースからの避難民の様だ。
俺は、少し速度を落として前進する様にナークへ伝え、念の為にアンへも重機関銃M2の銃座で待機する様に指示する。
俺の斜め前方にある砲手用ハッチから、アンが身を乗り出して重機関銃を準備し始めた。
避難民の人々は、16式機動戦闘車に驚いている人も居れば、こちらへ向かって手を振ってくる人も居る。
俺達は、16式機動戦闘車を避難民の集団の前で停止させ、俺は先頭で荷車に乗った商人風の男性に尋ねた。
「貴方達は城塞都市タースからの避難民の方々ですか?」
「はい、多くの人がタースからの避難民ですが、私共はスベニの商人でございます。爆裂のジョー様」
「そうでしたか、スベニの方でしたか。無事で何よりでした」
「はい、ジョー様のお陰で、城門の扉が破壊され、傭兵軍の警備も無くなったため、夜明けと共に脱出して参りました」
「なるほど。ご存じならば教えて欲しいのですが、バンカー公爵家や大公家を攻撃していた傭兵軍は、まだ撤退していませんか?」
「いえ、多くの傭兵が逃げ出しましたが、半数以上は未だに居座っております。逃げた傭兵達は、殆どが北西門から西へ逃げた様でございます。傭兵達の中に、スベニでジョー様の噂を知っている者が居た様で、スベニ方面では無く西へ逃亡したと聞いております」
「貴方方は、どの門から脱出されてきたのですか?」
「私たちは南門です。北東門や北西門には、未だに傭兵軍が居りますが、南門は放棄された様でございます。逃亡する傭兵も多くは南門から逃げて行きました」
「そうですか。情報、ありがとうございます。今、スベニから救援隊が、こちらへ向かってきています。一両日中には第一陣が到着するでしょう。自分達は、これからタースの傭兵軍を鎮圧に向かいます。気をつけてスベニまで移動してください」
「おお、スベニから救援隊が来てくれるのですか。有り難い事です。では、タースの住民による避難は、一時的な事で済みますでしょうか?」
「大丈夫です。自分達が傭兵軍を必ず鎮圧します。ですので、あまりタースからは離れない方が宜しいでしょう」
「聞きましたか?タースの民の方々。これから、あの侯爵城を一撃で破壊したスベニの冒険者、爆裂のジョー様が、傭兵による反乱軍を懲らしめてくれるそうですぞ!」
「「「「おお~!」」」」
「私は昨夜の爆裂魔法で侯爵家の城が崩れるのを目撃しました。あの爆裂魔法を放った方とは……ぜひ、我らの住むタースの街から傭兵共を撃退して下さい!」
「「「お願いします!」」」
「皆さんのご期待に添える様、我々"自衛隊"はこれからタースへ進撃します。この辺りであれば、危険は無いでしょうから、適当な場所で避難キャンプを設営してください」
「判りました。ジエータイの方々のご武運を女神様に祈っております」
「ありがとう。では、我々は進軍します。皆さんは街道上から動かないでください」
スベニへ戻る商人や、タースからの避難民に話しが聞けて良かった。
昨夜の傭兵軍への攻撃で、少なからず傭兵軍の指揮系統に乱れが生じており、しかも逃亡兵も出ているのなら俺の予想どうりの展開だ。
しかも、南門が傭兵軍から放棄されたのも好都合だ。
避難民は、南門へ殺到しているはずだから、俺達はタースから脱出した城門の北東門へ再び戻れば、避難民を避けて街中を進撃する必要も無くなる。
「ナーク、街道を右へ避けて、草原を進行する。前進!」
「……了解。草原を北東門へ向けて前進する」
「アンは、そのまま重機関銃の銃座にて、周囲を警戒」
「判ったよ、ジョー兄い」
「少し車体の振動が激しくなるので、ミラは注意してね」
「はい、ジングージ様。大丈夫です」
「ベル、主砲へ榴弾を装填しておいてくれ」
「はい、了解でしゅ、ジョー様」
俺達は、タースからの避難民で混雑している街道を避け、草原を突っ切りタースの北東門へショートカットの最短距離で進行を続けた。
既に草原の彼方には、城塞都市のシンボルとも言える巨大な城壁が、その姿を現している。
双眼鏡で確認してみると、城壁の上部には見張りの傭兵が居るのも確認できたので、既に俺達の乗る16式機動戦闘車は敵に気づかれているだろう。
もう少し城壁に近づいたら威嚇射撃を行い、俺達がタースへ戻ってきて再び街の中へと進撃し、再度の攻撃を行うという警告を行おう。
少しでも敵の戦闘意欲を消し去り、逃亡の道を選ぶ傭兵を増やせば、それだけ犠牲者は減る。
「アン、もう少し近づいたら城壁の上に居る見張りを、重機関銃で攻撃してくれ。命中させなくても構わないから、派手にやってくれ」
「判ったよ、ジョー兄い。でも、撃つからにはアタイは当てるよ」
「……それで構わないけど、傭兵と住民だけは間違わないでね」
「当然だよ、ジョー兄い」
既に、俺の目でも城壁上の傭兵の姿が視認できる距離まで近づいた。
アンには、俺が双眼鏡を使っていた距離から、同じ様に視認出来ていたのだろう。
城壁上にいる見張りは、全てが武装した傭兵軍の兵士だった。
ババババババババババッ!……。アンが重機関銃M2を発射して、城壁上の傭兵達を全て掃討する。
目前には、北東門が見えてきたが、案の定木材と土嚢によってバリケードが築かれていた。
俺は、アンに砲塔内へ戻る様に指示を出し、主砲の発射準備を行わせる。
停止してからの射撃でも良いのだが、ここは行進間射撃だ。
「アン、行進間射撃だ。バリケードの中央を狙え」
「了解だよ、ジョー兄い。任せてよ」
照準をバリケードに合わせると共に、主砲が下方へと下がって行き、ナークは16式機動戦闘車の進行速度を緩める事は無く、バリケードへと直進させる中、アンが主砲のトリガーを引く。
主砲の105mmライフル砲から、ズドーンッ!と発射音が轟き、目前の北東門へ築かれたバリケードが、ドッカーン!という破裂音と共に爆散した。
積まれて居た土嚢や、木材のバリケードと共に、周囲に居た傭兵が爆発と一緒に吹き飛んで行った。
「ナーク、そのまま街中へ突入」
「……了解。このまま前進する」
「ベル、次弾も榴弾を装填」
「了解でしゅ。榴弾装填しましゅ」
俺は、未だに車長用ハッチから砲塔へ身を乗り出したままだが、傭兵軍からの攻撃は皆無だった。
飛び道具である弓と、遠距離攻撃が可能な魔法攻撃さえ警戒すれば、特に危険は無いだろうと思えたからだ。
しかし、そんな俺の安易な考えが甘かったのだ。
進行する16式機動戦闘車の頭上から、突如多数の弓矢が飛来してきた。
16式機動戦闘車の鋼鉄製の車体には、何の傷を負わせる事も出来ない矢だが、生身の俺に対しては、そうでは無かった。
一本の矢が、俺の右上腕を貫いたのだ。
「うぐぅ、痛てぇっ!」
思わず叫び声を上げた俺に、車内に居る全員が声を上げた。
「大丈夫?ジョー兄い!」
「大変でしゅかジョー様?直ぐに矢を抜いてくだしゃい!」
「……毒矢だと危険だ。直ぐに治療を!」
「ジングージ様、直ぐに中へ!。回復治療を行います!」




