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闇の魔結晶

 悪魔イニットの姿が消え、そして灰の中で蠢いていた黒いスライムを狩り、その黒いスライムが落とした漆黒の魔結晶。

 俺は、その漆黒の魔結晶を用心深く調べてみる。

 白い魔結晶と同様、スライムから落とされた結晶には、腐食作用などは無い様だが悪魔イニット自身が語った、邪気を発している可能性も有る。

 また、これまでの魔結晶はスライムの大きさに比例した大きさだったが、この漆黒の魔結晶はスライムの大きさに比べて遙かに大きかった。


 そして、魔結晶化したとしても、死んでいるとは限らない。

 何しろ悪魔なのだから、常識や他の魔結晶と同じだと考えるのは危険だ。

 俺は、魔結晶が生命活動をしているかどうかを確かめるべく、無限収納(インベントリー)へ収納してみる事にした。

 無限収納には、生命活動をしている存在は、収納出来ないという制限がある。


 これは、言い換えればウィルスや微生物なども収納出来ないため、食品を収納すれば同時に殺菌されるという便利な機能だ。

 しかも、収納した瞬間に時間凍結と同時に、エネルギーも凍結されるので温度も変わらないため、食品の劣化は、一切無いのだが、欠点としては、発酵食品などに含まれる乳酸菌なども消滅してしまう。


 俺は、漆黒の魔結晶を"女神様の加護"を発動し、無限収納へと収納していた。

 漆黒の魔結晶は、何も残さずに俺の無限収納へと収まり、収納リストを確認してみると"闇の魔結晶"という名称で保存されていた。

 そう言えば、白い魔結晶を収納してみた際には、"光の魔結晶"と言う名称で保存された事を思い出す。

 全く相反する名称で、色がそれを表していた。


 しかし、これで悪魔イニットは、完全に死んだ事が確認できた。

 俺は、側に居たギルさんへ悪魔族の事を尋ねてみる。


「ギルさん、悪魔族に関して知っていましたか?」

「いいや、ジョー。俺は聞いたこともないぜ。しかも、魔族が人族から進化したなんて話しも初耳だぜ」

「そうですか……ミラは、マーガレット司教から何か聞いた事ない?」

「はい、ジングージ様。勇者コジロー様が倒した魔王の一族は、魔族とも他の種族とも違う姿だったと聞いた事があります。ですが、悪魔族という名は初めて耳にしました」

「そうか……教会関係には、何か記録が有りそうだね」


 俺は、96式装輪装甲車の銃座へ陣取っているナークの方を向き、ナークへも尋ねてみた。


「ナーク、悪魔イニットが話した内容、聞こえていたよね?」

「……聞いていた。あたしも初めて聞いた。母や魔族の人からも、その様な話しは聞いた事も無い。魔族が元は人族だったなどと考えた事も無かった」

「そうか、魔族の中でも突拍子もない内容だったんだな……」


 どうやら、悪魔族の事は、スベニに戻ってからマーガレット司教へ尋ねてみるしか無い様だ。

 俺は、動画を記録していたスマートフォンの録画モードを停止し、確認のために再生してみる。

 悪魔イニットの姿や、俺と会話した内容は、全て克明に記録されていた。

 これを、マーガレット司教や、各ギルドの長、警備隊のビル大佐へ確認してもらおう。


 既に夜が明けて、朝日が眩しく俺達を照らしている。

 少しだけ休憩して、俺達はタースへ戻り、傭兵の反乱軍や闇ギルドを制圧しなければならない。

 ギルさん達"雛鳥の巣"の面々には、ここでマリアンヌさん夫妻を警護してもらえるだろう。

 96式装輪装甲車は、此処へ残して置けば、避難場所としても有効だし、食料や水なども積載してある。


「ギルさん、俺達"自衛隊"は、タースへ戻りバンカー公爵家の皆さんを助けます。ギルさん達"雛鳥の巣"は、ここで待っていてもらえますか?」

「ジョー、マリアンヌさん達の事は任せてくれて良いぜ。当面の食料と水さえあれば何とかなるぜ」

「はい、ギルさん。鉄の箱車を置いていきます。中には食料、水が積んであるので、自由にしてください。炊飯用の鍋などもありますから。鉄の箱車の扉の開閉方も、教えますから危険が迫った場合には、避難場所になります」

「助かるぜ、ジョー。スベニからは救援隊が出ているのか?」

「はい。間もなく、ロックが指揮者(コマンダー)ゴーレムで、此処へ到着します。その後に騎馬隊が大分遅れますが到着します」

「そうか、判ったぜ。此処は俺達で何とか死守するから、ジョー達はタースへ戻って、傭兵軍共と闇ギルドを片付けてくれ」

「はい、ギルさん」


 俺達は、96式装輪装甲車へと移動し、後部ハッチの開閉スイッチの操作方法と、上部ハッチの開閉方法などをギルさんへ教える。

 同時に、ベルとミラ、そしてハンナさんとガレル君には、朝食の準備を依頼した。

 アンとナークには、周囲の見張りを指示し、最後に広帯域多目的無線機(車両用)を操作して、移動中のロックへ通信を試みる。

 事前の打ち合わせでは、タースまでの移動時には、指揮者ゴーレムの胸の扉を少しだけ開けた状態で移動し、同軸ケーブルがコクピットへ引き込まれた状態で移動する手筈だ。


『こちらマーベリック。アイスマン、聞こえるか?送れ』

『ザザザ……こちらァィスマンです。聞こぇます。送れ』

『了解。こちらは作戦Cを完了。全員無事。繰り返す、全員無事救出だ。送れ』

『ザザザ……了解、マーベリック。良かった。こちらは、順調に移動中。ただ問題が1点有り。送れ』

『了解、アイスマン。問題とは何だ?送れ』

『ザザザ……こちらァィスマン。会長が二人強制同行して来てます。送れ』

『……了解。商業と生産か?送れ』

『ザザザ……そのとぉり。送れ』

『了解。仕方ないな。()は無事救出と伝えてくれ。送れ』

『ザザザ……了解。感謝すると泣ぃてぃます。……後、「小僧、待っとれ」だとの事。送れ』

『了解。残念ながら食事の後、ペンタゴン(・・・・・)へ戻り戦闘を再開。後ほどと伝えてくれ。送れ』

『ザザザ……了解。「ぐぬぬ」だそぅです。送れ』

『了解。以後はギル殿が、WAPCを臨時に管理するので、通話は通常会話で頼む。送れでは無く、どうぞ』

『ザザザ……了解しました。ギルさんですね。こちらは後1時間半程度で、合流できると思ぃます。マップにて確認してくださぃ。どぅぞ』

『了解、アイスマン。確認しているよ。あと、会長達の事は話さないでおくから、感動の再会をお楽しみにねと、伝えておいて。以上、マーベリック、通信終了』

『ザザザ……了解です。ぉ気をつけて、ご武運を。アイスマン、通信終了』


 移動中のロックの位置は、スマートフォンのマップ表示で確認できている。

 迷いの森を既に過ぎた地点なので、あと僅かな距離だ。

 それにしても、テンダーのおっさんが、無理矢理に指揮者ゴーレムへ同乗してくるのは、予想出来なくは無いが、まさかアントニオさんまでもが同乗してくるとは。

 娘と孫が心配だったのは判るのだけれど、戦闘に縁の無い商業ギルドの会長さんに取っては、危険な旅過ぎるだろう。


 ギルさんには、通信機の使い方は、先に渡してあるハンディー・トランシーバーと同じで、話す時にマイクのPTTボタンを押し、通話の最後には「どうぞ」、或いは「送れ」と付ける事をレクチャーした。

 TACネーム(コールサイン)などに関しては、話しがややこしくなるので話さなかった。

 単なる俺の趣味というか、やって見たかっただけの事だから。


 ハンディー・トランシーバーとの違いは、通信距離が違うということだけにした。

 本当は、他にも大きく性能が違うのだが、話しても理解はされないだろう。

 これは、俺達"自衛隊"のメンバーであっても、理解できない事だらけだったのだ。


 96式装輪装甲車へ待避していたマリアンヌさんとマーチンさんが、ハンナさんとガレル君に伴われて外へと出てくるが、まさか自分達と一緒に暮らしていたメイドが悪魔族であったとは、信じられない様子だった。

 そして、悪魔イニットが語った「食った」という衝撃の事実に、二人して涙を流している。

 悪魔イニットが死んで残った灰は、恐らくメイドの身体では無いだろうが、ギルさんや俺達は、その灰を地面へと埋め、亡くなったメイドさんへの弔いとさせて貰う。 


 ベル達が準備してくれた朝食を、マリアンヌさん、マーチンさんらと共に美味しく頂いたが、お二人の顔色は優れなかった。

 食後、再度マリアンヌさんとマーチンさんへメイドさんへの、お悔やみを兼ねて挨拶し、ギルさん達"雛鳥の巣"のメンバーへも、お二人と赤ちゃんの警護を改めて頼む。

 そして俺達は、再びタースの街へと戻るために、"自衛隊"全員で16式機動戦闘車へと乗り込んだ。

 操縦はナークが行い、アンとベルは変わらず砲手と装填手で、俺は車長席へと乗り込んだ。

 ミラは、戦闘室へ窮屈だが我慢して乗って貰う。

 さあ、傭兵と闇ギルドによる反乱軍を、一気に鎮圧してやろう。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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― 新着の感想 ―
[一言] 傭兵は昼間は不正規戦を仕掛けてくるから要注意だな! 一般人に紛れてのナイフ等の襲撃や弓での狙撃をアパートの窓から行うので要注意だよ?短弓は音がしないし、 吹き矢の毒攻撃も怖いよ?魔法は目立つ…
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