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撤退勧告

 俺は、16式機動戦闘車を前進させ、大通りを真っ直ぐに進み出す。

 傭兵軍の追撃部隊は、アンの放った砲撃で、ほぼ全滅しただろうし、道路にも大きな損傷を与えているだろうから、進行方向の待ち伏せを注意すれば良いはずだ。

 傭兵軍の魔法使い部隊の魔法攻撃も、実際には大した威力も無く、96式装輪装甲車の防御力でも十分に対応可能だったので、俺達が先行しなくても問題ないだろう。


 念のために、待ち伏せを警戒する意味でも、16式機動戦闘車の砲塔を正面に向けて置くことにする。

 アンへ砲塔を180度回頭させて、俺達は先行する96式装輪装甲車の後へと接近した。

 今の地点から、タースの北東にある城門までは、10分ほど走れば到着するはずだ。

 そして、その途中には、傭兵軍に包囲されて籠城抗戦しているバンカー公爵の居城がある。


 一端、俺達は、タースから脱出して離脱するが、マリアンヌさん一家を安全な地点まで運んだ後、再びタースの街へと戻り、今度はバンカー公爵の家族を救出せねばならない。

 であれば、可能な限り今の内に傭兵軍の戦力を潰しておいた方が、籠城抗戦しているバンカー公爵軍の助けにもなるはずだ。


 幸い、北東の城門への道からは、殆ど寄り道をせずにバンカー公爵の居城へは行ける。

 安全を考えて、マリアンヌさん一家を乗せている96式装輪装甲車は、城門まで直行させた方が良いだろう。

 攻撃手段も、12.7mm重機関銃M2しか装備していなので、傭兵軍を攻撃するのも俺達の乗る16式機動戦闘車が1輛あれば事足りる。


『こちらマーベリック、チャーリー応答せよ。送れ』

『ザザザ…………マーベリック、こちらチャーリー。送れ』

『チャーリーは、そのまま目標まで直行せよ。マーベリックは別行動を行う。送れ』

『ザザザ…………了解。チャーリーは目標へ直行する。送れ』

『了解。目標の手前にて、敵の追撃を警戒しつつ待機していてくれ。送れ』

『ザザザ…………チャーリー了解。マーベリックも十分警戒して行動を。送れ』

『マーベリック了解。チャーリーありがとう。以上、通信終了』


 俺は、操縦する16式機動戦闘車を、前方に見えてきたY字路を左折させ大通りから外れ、マップ表示に見えているバンカー公爵の居城へと進む。

 少し直進して行くと、前方にヨーロッパの古城の様な、巨大な城が目に飛び込んで来た。

 城は、城壁に囲まれ、更に城壁の周りを堀が取り囲んでいる。

 城壁と堀は、マップ上で見ると完全な星形だ。

 これが、バンカー城か。


 バンカー城の城壁には、篝火が焚かれているが交戦状態では無い様だ。

 城門に有る跳ね橋も上げられた状態で、傭兵軍も堀と塀で阻まれているので、中々城の内部へと攻撃が出来ないのだろう。

 堀の周りの道路には、傭兵軍の物と思われるテントが幾つも張られており、バンカー城と同じ様に掘りの外側へ篝火も焚かれていた。


 傭兵軍は、見張りを残して、睡眠をとっているのだろう。

 俺達の乗る16式機動戦闘車のエンジン音や、ヘッドライトの明かりにも、兵士が気がついて騒ぎ立てる様子もない。

 俺は、見張りの注意を引きつけるために、そのまま傭兵軍兵士が寝ているであろう、テントへ向けて、16式機動戦闘車で減速せずに突っ込んで行った。


「敵襲だ!」、「いや魔物だぞ!」、「全員呼集だ、起きろ!」、「うわぁー!」、「ギャー!」


 傭兵達の叫び声が、車内にまで聞こえて来る。

 テントから辛うじて脱出した傭兵は、堀に飛び込む者も居た。

 もの凄い嫌悪感も有るが、これは戦争なのだと自分に言い聞かせ、非情になる様に努める。

 堀の外周にある道路を、16式機動戦闘車の速度を緩める事無く、数多くのテントを踏みつぶして行くと、前方に今度は大公家の居城が見えて来た。


 そして、その大公家の城の少し離れた左側にも、小さな城が見えている。

 バンカー公爵から貰らった地図によると、あの城が傭兵軍によって制圧された侯爵家の城だ。

 距離は、500m程ありそうだ。

 俺は、16式機動戦闘車を停止させて、アンへ砲撃の目標を伝えた。


「アン、あの左側の城の(ベルクフリート)を砲撃できるか?」

「やってみるよ。外したらごめんよ」

「いいよ、威嚇攻撃だから外しても問題ない。出来るだけ下を狙ってくれ」

「判ったよ。機銃発射!」


 アンが機銃を発射し、連続する発射音と共に曳光弾のオレンジ色の軌跡が複数城の塔へと飛んでいく。

 アンは、その曳光弾による軌跡を確認して、砲塔を少し左へと回転させ更に砲身の上下角を調整して、再び機関銃を発射した。

 弾道の微調整を機関銃で行うのは、砲手としては当然の作業だ。

 特に夜間の砲撃では、曳光弾による軌跡で弾道を確認し、砲撃の照準を定めるのだ。


「撃つよ、ジョー兄い」

「よし、撃て!」

「発射!」


 アンの発射した16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲が強烈な発射音を轟かせ、車体が振動する。

 砲身からは、目映い砲火が噴き出し、砲煙が俺の覗いていた操縦席の小さな覗き窓の視界を遮った。

 砲煙が晴れると、見えていた侯爵城の塔が105mm榴弾(りゅうだん)の直撃を受け、崩れ去って行く様子が見える。

 アンは、一撃で500m離れた遠距離の目標へ命中させて、塔を破壊したのだ。


「アン、凄いぞ!」

「アタイやったんだよね、ジョー兄い!」

「ああ、一撃でやった」

「アンちゃん、凄いでしゅ!」

「ありがとう、ベルちゃん」

「よし、ベル。次弾も榴弾を装填して置いてくれ」

「了解でしゅ、ジョー様」

「アン、目標を修正。塔の左側を狙え」

「了解だよ」


 俺は、ハンドマイクを手にとりパワー()アンプ()のスイッチを入れ、車外へ拡声器を通して話し掛けた。


『傭兵の反乱軍に告ぐ。直ちに装備を放棄してタースの街より速やかに撤退せよ。逃げる者は追わない。刃向かう者は今破壊した侯爵城の塔や、既に破壊した傭兵ギルド本部の様になる。次の攻撃は夜明けの後だ。それまでに撤退を完了しない場合は……こうなる』


「アン、撃て!」

「うん、発射!」


 アンの発射した2度目の砲撃は、塔の左側にあった少し高めの城壁塔へ命中して、それを破壊した。

 2度目の砲撃だったので、機関銃による弾道確認はしていないが、アンの砲術は完璧だった。

 狙い違わずに、侯爵城の城壁塔を撃破したのだ。

 俺は、傭兵軍への警告を終わりPAのスイッチを切る。

 この威嚇攻撃で、傭兵達が怖じ気づきタースから逃げ出せば、それで良い。

 だが、全員が逃げ出すとも思えないので、夜明けと共にタースへ戻り、傭兵軍との交戦は避けられないだろう。


 俺は、16式機動戦闘車をUターンさせ、進行してきた堀の外側の道路を再び逆方向へと戻って行く。

 既に傭兵軍のテントは踏みつぶして破壊してきたので、進行を邪魔するのは、傭兵軍兵士の死体か、動けない怪我人だけだった。

 死者や怪我人を再び()くのは、可能な限り避けたいので、速度を落として慎重に運転し、北東の城門へと向かう道へ戻り、待機しているナークと合流すべく再び速度を上げた。


 タース北東の城門前まで到着すると、ナークの運転する96式装輪装甲車が城門の手前で停車していた。

 こちらへは、傭兵軍の追撃部隊は襲って来て、いない様だ。

 俺は、96式装輪装甲車の横へ16式機動戦闘車を進め停車する。

 しかし、城壁の上にも、見張りの姿が見えないので、おかしいと思いナークへ連絡してみる。


『こちらマーベリック、チャーリー応答せよ。送れ』

『ザザザ…………マーベリック、こちらチャーリー。送れ』

『城壁に居た見張りはどうした?送れ』

『ザザザ…………弓と投石で攻撃して来た。重機関銃で反撃して鎮圧。送れ』

『……了解。お疲れ様。通信終了』


 なんと、ナークは96式装輪装甲車に装備されている重機関銃M2で、城門の見張りを殲滅した様だ。

 運転席から、銃座のある座席まで移動しての攻撃を自分の判断で行ったのか。

 ナークも、すっかり自衛隊員になってしまった。

 俺は嬉しい様な悲しい様な、ちょっとだけ複雑な気持ちになってしまう。

 しかし、直ぐに気持ちを切り替えて、ベルとアンへ指示を出す。








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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

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