16式機動戦闘車
「召喚、16式機動戦闘車!」
先ほど、無限収納から召喚した96式装輪装甲車と車体はよく似た、やはり、8輪のタイヤを装備した大型トラックほどの大きな車体が、俺の目の前に現れる。
しかし、96式装輪装甲車と16式機動戦闘車が大きく異なっているのは、その車体の上部に戦車と同じ大型の主砲を持った砲塔を装備している点だ。
履帯で走行する戦車と違っているのは、8輪のタイヤで走行するという点だけの様にも見える。
砲塔に搭載されている主砲は、105mmライフル砲で、これは74式戦車と同等の火力を持っている。
事実、74式戦車と16式機動戦闘車では、使用する砲弾に互換性を持たせており、ゴムタイヤで走行可能な戦車と言っても過言ではない。
陸自の最新鋭戦車である、10式戦車に比べると火力や防御力、そして荒れ地での走破能力の面では劣っているが、一般道路を走行する場合の機動力では、逆に上回っている面もあるのだ。
俺は、96式装輪装甲車へも装備した、12.7mm重機関銃M2、そして新たに16式機動戦闘車専用装備として、無限収納に追加された74式車載7.62mm機関銃を召喚し装備する。
弾帯は、通常弾に加えて曳光弾の弾帯も召喚しておく。
夜間の戦闘になるだろうから、異世界の傭兵軍には、曳光弾が光の軌跡を残しながら飛ぶため良く目立った方が、より恐怖感が増すだろう。
勿論、通信用に広帯域多目的無線機(車両用)も召喚し、装備するのも忘れない。
「アン、ベル、MCVへ搭乗してくれ」
「ジョー兄い、判ったよ」
「はいでしゅ、ジョー様」
二人は走って、16式機動戦闘車(MCV)へ向かい、車体の上に乗り更に砲塔へと昇り、上部のハッチから砲塔内へと入り戦闘室へ搭乗した。
16式機動戦闘車の砲手は、勿論、アンだ。そして、体力的に人族より勝っているベルが装填手を担当する。
俺は、車長兼操縦を行い、更に通信士も兼務する事になる。
訓練時には、操縦をロックが行っており、俺は、車長を勤めていた。
10式戦車の様に、16式機動戦闘車には、砲弾の自動装填装置が無いため、3名での運用では、どうしても俺が兼務しないと運用が出来ないのだ。
俺は、16式機動戦闘車の車体へ昇り、車体前方の操縦席用のハッチから操縦席へと搭乗する。
16式機動戦闘車の操縦は、96式装輪装甲車と同様オートマチックで、しかも、戦車や重機と違い、一般車と同じハンドル操作で操縦するため、大型車の運転経験があれば、それ程難しくは無い。
16式機動戦闘車のエンジンを始動すると、570馬力のターボチャージャ付きディーゼル・エンジンが低いエキゾースト音を発し始める。
「アン、ベル。74式機関銃には、曳光弾を使用してくれ」
「了解だよ」、「了解でしゅ」
「よし、じゃあ出動だ!」
「「はいっ!」」
『マーベリックより、チャーリーへ。これより出動する。WAPCは、MCVの後方を離れず進行せよ。送れ」
『ザザザ…………こちらチャーリー、了解。出動準備完了。送れ』
『マーベリック了解。出動!』
俺の操縦する16式機動戦闘車は、城塞都市タースの城壁外周道路をゆっくりと進み出す。
エンジン音は、静まりかえったタースの街では、かなり大きな音だ。
更に城壁にも反響しているので、恐らく城壁の上で見張りを行っている傭兵達にも聞こえてしまっているだろう。
俺の直ぐ後方には、同じくエンジンを始動して進行を始めたナークが操る96式装輪装甲車が、つかず離れずの距離で後に続く。
どうせ、エンジン音で見張りに気づかれるのであれば、ゆっくりと走行する必要は無い。
俺は、アクセルを踏み込み、城壁外周道の石畳道路で加速をし、タースの南門へと進行した。
城壁の上から、仮に傭兵軍からの攻撃があるとすれば、恐らくは弓による攻撃か投石などだろう。
最悪のケースとして、想定されるのが魔法攻撃だ。
城壁の上からであれば、距離的には、問題なく俺達は射程範囲に入っている。
だが、これまで見た魔法攻撃では、最大火力の火炎弾攻撃であっても、ドワーフ族や人族が魔法発動媒体を用いて発する火炎弾であれば、仮に着弾したとしても爆発要素が無いので16式機動戦闘車、96式装輪装甲車、共に鉄製なので火が燃え移るとは思えない。
同様に風魔法では、重量のある鉄製車輌を吹き飛ばす事など出来ないだろう。
水魔法に関しては、俺は未だ見たことが無いので予想は出来ないが、防水性能の高い戦闘用車輌には効かないと思いたい。
俺達が操縦する2輛の軍用車は、程なくタースの南門へと到着し、少し大回りに右へハンドルを切り、俺達の16式機動戦闘車は、城門の真正面へ向いた所で停止する。
後ろには、同じくナークが操る96式装輪装甲車が、ぴったりと追従して停止した。
行進間射撃は、未だ訓練でも少ししか行っていなかったので停止させてからの射撃だ。
俺は、砲手のアンへ告げる。
「アン、機関銃を発射し、弾道を確認しろ」
「判ったよ、ジョー兄い……発射!」
ダダダダダダダダッ……!アンが発射した74式車載機関銃からは、オレンジ色の軌跡を発して曳光弾が城門目掛けて飛んで行く。
発射された7.62mm弾丸の着弾点は、城門の中心から少しだけ下側へ命中する。
城門は、スベニと同じ木製で、外側のみ鉄板が張ってある形状で、問題無く主砲で撃破可能な構造物だ。
俺は、装填手のベルへ命じる。
「ベル、主砲へ榴弾を装填」
「了解でしゅ!」
ベルが後方の弾薬置きスペースから、105mm榴弾を主砲へ装填する音が聞こえてくる。
そして、直ぐにベルから、装填を完了を報告する声が聞こえて来た。
「榴弾、装填完了でしゅ!」
「よし。アン、撃て!」
「うん、発射!」
ズドンッ!と、16式機動戦闘車の主砲、105mmライフル砲から発射された榴弾は、真っ直ぐにタースの城門へと着弾し、ドッカーン!と爆発音が聞こえて来た。
105mm榴弾の直撃を受けた城門は、木っ端微塵に吹き飛び、その跡形も無くなった。
そして、城門の上に居た傭兵軍の見張り達が、慌て驚き右往左往している姿が見える。
「アン、良くやった。ベル、続いて榴弾を装填」
「はいでしゅ!」
『こちら、マーベリック、チャーリー応答せよ』
『ザザザ……こちらチャーリー。送れ』
『了解。これより"ペンタゴン"へ侵入し、作戦Cパターンを決行する。遅れずに付いて来い。送れ』
『ザザザ……チャーリー了解』
俺は、破壊したタース南門の城門を突破し、タースの街へと進行する。
破壊された城門の破片は、大きな破片も石畳の道路上へ散らばって残っていたが、8輪の走行車輪を持つ16式機動戦闘車と96式装輪装甲車にとっては、走行に支障を来す破片では無い。
俺達は、タースの複雑な道路を一路、マリアンヌさんが嫁いだ商家へと向かった。
城塞都市タースの街は、古い日本の城下町と同様に敵からの侵入を惑わすため、直線道路が殆ど無い。
真っ直ぐ中心部の城へと向かっているつもりが、何時しか城壁の行き止まりへと通じており、地図をしっかりと頭に入れて置くか、スマートフォンのマップ表示に頼って目的地へ進行せねばならない。
元の世界にいた頃、小江戸と呼ばれる埼玉県の川越を探索した事があるが、市内の道が本当に外敵を阻む様になっており、昔の城主の用心深さを知ったものだ。
そんな元の世界の事を思い出しながら、俺はタースの街を進行しつつ、救助を待つマリアンヌさん宅のギルさんへ、ハンディー・トランシーバーで連絡を取るため、操縦席の上部ハッチを開けてからギルさんを呼び出した。