作戦変更
『ギルさんか"雛鳥の巣"の方、何方か居ませんか?自分はスベニのジョー、ジョー・ジングージです』
俺がハンディー・トランシーバーで、そう送信しても商家のドアは、開かれる事なは無かった。
残念ながら、ドアの向こうに誰か居て言葉を発したとしても、それは此方へは聞こえて来ないのだ。
携帯電話の様な全二重通信と違い、トランシーバーの場合は、半二重通信が殆どなので、ドローンに搭載しているハンディー・トランシーバーのPTTボタンが押されない限りは、相手の発した言葉は此方へは聞こえない。
俺は、もう一度ドローンをドアに何度か衝突させてから、再びハンディー・トランシーバーで送信してみる。
『自分はジョーです。"雛鳥の巣"の方、居りましたらドアを開けて下さい。残念ながら、其方の声は今は聞こえません』
すると、ドアの上部にある窓に中側からカーテンが降りていたのだが、そのカーテンが少しだけ上げられた。
ドアの窓の向こう側には、赤い髪の女性がドローンの方を見ながら、怪訝そうな表情をしている。
あの赤い髪の女性は、パーティー"雛鳥の巣"のメンバー、ハンナさんだ。
俺は、直ぐさま、もう一度ドローンのハンディー・トランシーバーへ向けて発信した。
『ハンナさん、自分です。ジョーです。この浮遊しているのは、自分の魔道具……使い魔なので安心してドアを開けて下さい』
すると、ドアの窓の向こう側に居るハンナさんが、驚いた顔になり、何かを喋っている様に口を動かした。
そして、カーテンが再び下ろされると、直ぐにドアが開かれる。
ドローンのカメラには、ハンナさんの姿とガレル君の姿がはっきりと映し出された。
『ガレルさんも居たのですね。この魔道具の使い魔を中に入れますから、ドアから少し離れてください』
ハンナさんは、頷くとドアの脇へと身を避けてくれ、ドアは開かれた状態のままなので、俺はドローンをゆっくりと商家の中へと飛行させた。
しかし、ドローンが商家の中へ入ると同時に、映像が消えてしまう。
やはり、Wi-Fi(無線LAN)に使われている2.4GHzの電波は、障害物に電波の伝搬が大きく左右されてしまう。
俺は、「くそっ」と思わず悪態を声に出し、電波伝搬の良い場所を探すべく、ドローンを勘で操作して位置を少しづつ移動させた。
少しだけ映像が途切れたが、幸いにも再び映像が送られて来たので、俺はドローンを自動制御のホバリング・モードへ移行させた。
そして、商家の中にいて、ドローンの方を注目しているハンナさんとガレル君へ、再び一方通行の言葉を送信する。
『ハンナさん、ガレルさん、ギルさんを至急、呼んで来て下さい』
俺の言葉に、ハンナさんが口を動かし、直ぐに商家の奥へと走って行く。
ガレル君は、開いていたドアを閉めにドアへ駆け寄ってドアを閉めた。
すると、再びドローンからの映像が途切れてしまう。
ドアは木製なのだが、電波の出力は桁違いだが2.4GHz帯は、電子レンジにも使われている周波数帯であり、水分によって大きく減衰してしまうのだ。
木製のドアが水分で湿っていれば、それだけで電波は減衰してしまう。
俺は、再び勘でドローンを操作し、ガレル君の閉めたドアの方へとゆっくり移動させる。
ドアの上部にあるガラス製の窓の近くまで行けば、映像は再び回復する可能性がある。
俺の思惑は見事に的中し、再び映像が再会された。
ドローンをドアの方へ回転させ、可能な限りドアの窓へと近づける。
そして、再びドローンを回転させて、商家の室内の映像を映しだした。
すると、商家の奥から大柄の男性が此方へ向かって走ってくる映像が飛び込んで来た。
直ぐ後ろには、ハンナさんも居る。
ギルさんは、何かを大声で喋っている様だが、当然ながら俺には聞こえて来ない。
俺は、再びドローンのハンディー・トランシーバーへ向かって送信した。
『ギルさん、無事で何よりです。自分はジョーです。今、タースの城壁の外に居ます。そちらの声は今は聞こえませんが、聞こえる様にする方法が有るので、自分の指示に従ってください』
映像に大写しとなっているギルさんが頷いたので、俺はドローンを操作して下降させる。
映像は再び途切れたが、後は床へ着陸させるだけなので問題は無い。
再びハンディー・トランシーバーへ向かって、ギルさんへドローンから搭載しているハンディー・トランシーバーを外す様に、お願いする。
ドローンはローターの回転を止めてあるので、ハンディー・トランシーバーを外したら元に位置へ置く様に指示。
ハンディー・トランシーバーの扱いを一方的だが、簡単に教えてPTTボタンを押している間だけ、そちらの声が俺に届く事を説明した。
後は半二重通信は慣れるしか無いので、言いたい事を送信し終わったら、
必ず最後に、『どうぞ』を付ける様にも指示した。
慣れない内は、お互いが一方的に話さない様にするため、喋りの区切りを明示すると通信が被ってしまう事を避けられる。
自衛隊では、『どうぞ』では無く『送れ』が通話の区切りだ。
『それでは、そちらの状況を教えて下さい。どうぞ』
『これで良いのか?聞こえるかジョー?……おっと、どうぞ……ザッ』
『良く聞こえますよギルさん。それで大丈夫です。どうぞ』
『流石にジョーだぜ、鳩を飛ばしてから、こんなに早く助けに来てくれるとはな。で、こっちの状況は、鳩で知らせたんだが、状況が悪化したぜ。……て、どうぞか……ザッ』
『了解です。状況が悪化したとは、どんな事ですか?どうぞ』
『傭兵共が戒厳令を出したんで、自由に街へ出られねぇんだ。でだ……マリアンヌさんの娘さんがな、急病になっちまてよ。教会へ行きたくても傭兵共が邪魔しくさってよ。今も嬢ちゃん、凄ぇ熱が出てるんだぜ。……と、どうぞ……ザッ』
『えっ、マリアンヌさんの娘さんが急病?大丈夫なのですか?どうぞ』
『マリアンヌさんが言うには一刻を争うってよ。何とかなんねぇかよ、ジョー。……どうぞっと……ザッ』
『了解ですギルさん。俺達にはスベニの教会からミラが同行して来ています。タースから脱出できれば、直ぐにでも回復治癒ができます。どうぞ』
『おぉ!聖女ちゃんが一緒とは、流石ジョーやるぜ。だが、どうやって此処から……タースの街から出るかだな。どうぞ……ザッ』
『はい、計画では隠密行動で脱出を試みる予定でしたが、その時間も惜しいですね。判りました。作戦を変更して、直ちに救出行動に移ります。少し荒っぽい強行作戦ですが、娘さんの命が係っているとなれば、迷っている時間もありません。どうぞ』
『そうか。ジョー、頼りにしているぜ。で、俺達はどうすりゃ良い?……どうぞ……ザッ』
『了解。そのまま、そこで待機して下さい。無線機……魔道具は、そのままの状態で持っていてください。ツマミやボタンは押さない様に願います。急用が発生したら、今と同様にボタンを押して話してください。では、マリアンヌさん達の警護、よろしくです。どうぞ』
『判ったぜ、ジョー。マリアンヌさん達は任せておけ。傭兵共には髪の毛一本、絶対に触らせねぇぜ。どうぞ……ザッ』
『了解、お願いします。最後に一つだけ。そちらは全員で何名居ますか?どうぞ』
『俺達"雛鳥の巣"とマリアンヌさん一家が3人、それと……メイドが一人の計7人だ。どうぞ……ザッ』
『了解、7名ですね。それでは、これで通信を終わります。以後、こちらか通信が有るまで待機願います。どうぞ』
『判った。ジョー達も気をつけてな。……どうぞ……ザッ』
『了解。以上、通信終了』
これは、緊急事態だ。
当初予定していた作戦の隠密行動による救出では、時間が係りすぎる。
一刻を争う事態なので、迷う事は許されない。
俺は、強襲救出作戦への変更を決断し、"自衛隊"のメンバー全員へ指示を下した。
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舳江爽快




