城塞都市タース
俺達は、警戒しながら進行を続け、軽装甲機動車の速度を落として、城塞都市タースの城壁近くの林へと進む。
既に、城壁までの距離もかなり近くなっており、城壁の上から見張りをしているであろう、傭兵部隊の監視を注意せねばならない距離だ。
慎重に、そして見張りから発見されぬ様、街道から外れて林の方へと進み、目的地に近い座標で程よい林の茂みへと入り込んでから、軽装甲機動車を停止させエンジンを切った。
救出しなければならないマリアンヌさん一家や、ギルさん達のパーティー"雛鳥の巣"、そして、エリザベス姫からも依頼されたバンカー公爵家の家族の救出が無ければ、スライム戦の後に追加された強力な火力を持った車輌で、一気に傭兵軍を鎮圧することも可能なのだが、それは今回出来ない。
何故ならば、奴隷商人の事件で経験した救出すべき人々を人質に取られると、強力な火力でも太刀打ち出来ないからだ。
恐らく、この装備は、スライム戦で俺がASTACOで苦戦していたのを見かねて、女神様が装備に加えてくれたのだろうと思う。
しかし、強力な火力があっても、スライム戦でもそうだったが、人質を取られると、その重火器を使うことが出来ないので、宝の持ち腐れとなってしまう。
先ずは、城塞都市タースの内部を偵察し、マリアンヌさん一家を警護しているギルさん達と連絡を取り、救出を行う事が第一目標だ。
バンカー公爵家は、籠城交戦中との情報なので、なんとか持ちこたえてもらい、マリアンヌさん一家を救出した後に、新装備の火力で傭兵軍を一気に殲滅してしまえば良いだろう。
取り敢えずは、城塞都市タースへ到着した事を、スベニで待機中のロックへ知らせる事にする。
既に、無限収納には通信機の装備が多くリストアップされていたので、車載用の野外通信システムである広帯域多目的無線機(車両用)1セットを、ロックの操る指揮者ゴーレムのコクピットへ設置済みだ。
電源は、軽装甲機動車の充電済みバッテリーを搭載し、アンテナも軽装甲機動車のアンテナを仮設した。
指揮者ゴーレムのコックピットの扉を閉めてしまうと、アンテナへ接続している同軸ケーブルが切断されてしまうので、指揮者ゴーレムの操作中には、通信機が使用出来なくなってしまうが、これは致し方ない。
何とか、指揮者ゴーレムの筐体に穴を開け様とドワーフのおっさんと挑戦してみたのだが、神鉄には、傷をつけることすら出来なかったのだ。
城塞都市タースと自由交易都市スベニの距離では、通信衛星やレピーターなどの中継装置が無いので、VHF(超短波)帯の高い周波数やUHF(極超短波)帯での直接通信は出来ない。
事前に訓練時での通信テストから、VHF帯の低い周波数かHF(短波)帯であれば、それなりの距離間でも通信が可能だった。
この異世界にも、いや、この異世界の名も知らぬ惑星にも電離層が有る様だ。
俺は予め周波数は決めてある広帯域多目的無線機(車両用)のマイクを握り、PTTボタンを押して、ロックへ向けて電波を発射する。
『こちらマーベリック。アイスマン、聞こえるか?送れ』
『ザザザ……こちらァィスマンです。聞こぇます。送れ』
『了解。マーベリック隊は目標"ペンタゴン"へ無事到着。これより"ペンタゴン"の偵察行動へ移行。送れ』
『ザザザ……ァィスマン了解です。送れ』
『了解。大佐へ無事到着を知らせてくれ。送れ』
『ザザザ……ァィスマン了解。ご武運を。送れ』
『マーベリック了解。以上、通信終了』
よし、これで第二次部隊は、予定どうりに夜明けと共に出発する。
出発以前に、こちらで問題が発生した場合や、タースへの道中の間に我々が傭兵軍と遭遇した場合なども想定して、今回の斥候作戦は予め行動を決めていた。
これまでは、作戦のAパターンで、このまま作戦続行だ。
俺は、今回の斥候作戦を立てるに当たって、事前に無限収納に加わった装備を考慮して立案したのだが、夜間の偵察任務に適した装備がかなり少なかった。
本来であれば遠隔操縦観測システム、要はラジコンのヘリコプターなのだが、これが未装備だった。
夜間戦闘用の個人用暗視装置JGVS-V8は、装備品に以前からリストアップされていたので、今回は、ミラを除いた全員のテッパチへ装備してある。
ミラには今回、88式鉄帽と防弾チョッキ2型を装備させた。
修道尼服の上からでも防弾チョッキ2型は、大きなサイズなので、着用には問題ない。
ミラが頭につけているベールの上からでも、俺の装備である88式鉄帽のサイズなら、問題なく着用も可能だった。
俺は、新たな装備が無限収納にリストアップされていないか、再度の確認を行うべく"女神様の加護"を発動し、フォルダーを表示してみる。
●自衛隊標準装備品
拳銃:9mm拳銃(弾丸x9)(x5)
同弾丸入りマガジン(x25)
小銃:89式5.56mm小銃(弾丸x30)(x5)
同弾丸入りマガジン(x25)
同曳光弾入りマガジン(x25)
鎮圧用ゴム弾入りマガジン(x25)
機関銃:74式車載7.62mm機関銃(弾丸x250)
同弾丸一帯/250発(x25)
同曳光弾一帯/250発(x25)
12.7mm重機関銃M2(弾丸x110)(x3)
同弾丸一帯/110発(x25)
同曳光弾一帯/110発(x25)
対物狙撃銃:12.7mmバレットM82A3(弾丸x11)
同弾丸入りマガジン(x10)
火砲・ロケット:110mm個人携帯対戦車弾(x25)
銃剣:89式多用途銃剣(x5)
擲弾:06式小銃擲弾(x25)
二輪車:偵察用オートバイ
車輌:軽装甲機動車
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無線機:広帯域多目的無線機(車両用)(x3)
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作業服:迷彩服3型(x5)
鉄帽:88式鉄帽(x5)
防弾衣:防弾チョッキ2型(x5)
長靴:戦闘靴2型(x5)
その他:戦闘装着セット(x5)
戦闘糧食Ⅰ型(x15)
水筒2型(飲料用)(x5)
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●災害救助支援装備
重機:ASTACO
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その他:・・・・・・
●個人所有品
引っ越し荷造り品ダンボール箱(x6)
コンビニエンス・ストア買い物品(ポリ袋内7品)
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残念ながら、無限収納のフォルダーに表示されたリストには、新たな装備名は追加されていなかった。
女神様は、この装備で何とか今回のミッションを成功させなさい、との事なのだろう。
ちなみに、奴隷商人の事件の後に追加された銃器で、対物狙撃銃の12.7mmバレットM82A3は、アンの専用装備となっている。
この強力なアンチ・マテリアル・ライフルを100%活用できるのは、俺達"自衛隊"のメンバーの中では、アンを置いて他には居ないだろう。
まだ15歳で小柄なアンにとって、約13KgもあるバレットM82A3は重い装備なのだが、彼女は苦もなくバレットM82A3を背負っており、冒険者として苦労しながら活動していたので、身体が鍛えられていたのだろう。
そして、この重装備のバレットM82A3を、訓練では見事に扱っていたのだ。
しかも、命中率は光学スコープ装備との相乗効果によって、マガジンが空になるまで射撃をしても、1発外すか外さないかの高い命中率を誇っている。
さて、作戦どおり今回の偵察には、俺の個人所有品に活躍してもらう事にしよう。
俺は、無限収納から個人所有品の、ある物を召喚した。
改変(23時):通信時のコールサイン(TACネーム)を、「マーベリック」と「アイスマン」で入替えました。




