深夜の会話
「ジングージ様、お気をつけて行ってらしゃいませ。どうか、お母様とお兄様をお助けくださいな。お願い致します……御武運を女神様へお祈りしておりますわ」
「リズさん、タースの街の戦闘が、どの様な状況かが全く不明なのです。しかし、俺達で可能であればバンカー公爵家の皆様の救出も行います。どうか、吉報を待っていてください」
「……ジングージ様……ありがとうございます。御武運を!」
「はい。では……"自衛隊"出発!」
俺達、先行する斥候のメンバーは、既に全員が軽装甲機動車へ乗車済みだ。
俺は、軽装甲機動車の運転席へと乗車し、エンジンを始動する。
ディーゼル・エンジンが低い音を立てて始動した後、ヘッドライトのスイッチをオンにすると、西門の前方を明るく照らした。
この異世界では、対向車は存在しないので、ヘッドライトは、常にハイ・ビームへ切り替えてあるため、かなり明るい。
西門の周りでは、軽装甲機動車を囲むようにして、俺達を見送ってくれているので、俺は、窓の外へ向けて見送りの人々へ敬礼をしてから、アクセルをゆっくりと踏み込み軽装甲機動車を発進させた。
直ぐに、西門の城壁を潜り街の外へ出て、俺達は一路、城塞都市タースを目指して、街道を西へと出発した。
夜間走行となるため、速度は昼間ほど早い速度ではないが、それでも、アクセルを少し深く踏み込み、馬が全速力で走る速度に比べれば、2倍ほどの80Km/hで進行する。
この速度ならば、十分に夜明け前には、タースへ到着できるだろう。
途中、一回の短い休憩を入れても、十分な時間があると予想できた。
夜なので、距離感が全く把握できないため、俺は、スマートフォンでマップを表示させ、かなり縮尺を下げて、現在位置の表示とタースの街を同時に表示させた。
カーナビの様に、目的地まで後どの位だとかは、教えてくれないが、表示されているマップ上で現在位置を確認すれば、タースまでの距離は大凡の把握ができる。
事前に城塞都市タースの街を、スマートフォンのマップで確認済みなのだが、街全体が五角形をした城壁で囲まれており、まるで、米国のペンタゴンの建物の様な正確な五角形だ。
そして、街の中心部には、星形をした内壁と堀で囲まれた城――それは、函館の五稜郭の様だった――が有り、これが、大公家の城塞だとバンカー公爵から貸して頂いた羊皮紙の地図で判明している。
また、バンカー公爵の住む城の位置も確認できており、此方も星形をした堀で囲まれていたが、大公家の城よりも大分小さく、堀は大公家の堀と繋がっている。
既に侯爵家は、傭兵ギルドに制圧されているとの情報だったため、この二つの星形をした城が斥候の目標となる。
また、アントニオさんの娘、マリアンヌさんが嫁いだ商家の場所も、アントニオさんに教えてもらい確認済みだ。
「みんな、タースへ到着するまでの間、少しでも寝ておいて」
「アタイは平気だよ。徹夜の依頼も受けているからね」
「私は少し眠くなってきましゅた……」
「……あたしも大丈夫」
「ジングージ様、お気遣いを、ありがとうございます。ですが、司教様が仰っておられた使徒様の事、お話くださいませんか?」
「ああ、そうだったね。ベルは寝ていて良いよ。休憩する時は起こすから」
「はい。ジョー様。少し休ませて頂きましゅ」
「使徒の事は、アンもベルも知っているけど、ナークは知らなかったので、話しておくね」
俺は、マーガレット司教の神眼によって、女神様から頂いた"女神様の加護"と"祝福”二つを持っている事を見破られて、使徒と呼ばれた事を話す。
過去、勇者コジローさんも同じ様に女神様の使徒で、俺と同じく"女神様の加護"と"祝福”二つを持って事も話したが、これはミラさんも既に知っていた。
そして、ミラと兄のロックも、"女神様の祝福"を持っている事は話したが、ミラは既にマーガレット司教から聞いていたとの事だ。
ナークの持つ、謎の神による加護に関しては、未だ言うべき時では無いと思い、今回は言わなかった。
何でもペラペラと喋ってしまうのは、俺の悪い癖で元の世界に生きていた過去にも、これで何度も友人から叱られた。
しかし、親や妹、そして恋人からは逆に褒められていた。
そしてこれからも、隠し事はしない様にと言われていたのだ。
だが、国防を担う任務に就くには、注意せねばと思っていた。
そして、この異世界へと来ても悪い癖は直らないどころか、スベニには、良い人が多すぎるので更に酷くなったかもしれない。
心の中で苦笑しながら、ミラやナークには人ごとの様に、お願いをする。
「俺が女神様の使徒だって事は、他の人には言わないでね。教会のマーガレットさんと、アリスさん、エリスさんしか知らない事だから」
「はい、ジングージ様。お約束いたします」
「……判ったわ。あたしには話す人なんて、自衛隊の仲間しか居ないし」
「アタイは誰にも言ってないよ。ベルちゃんだって同じだよ」
「うん、ありがとう」
そんな会話をしながら、俺は、西に向かって軽装甲機動車を走らせ続ける。
もう既に、迷いの森の横を通り過ぎる辺りだ。
この辺りは、街道上でも魔物の出現に注意しなければならないので、慎重に運転を続ける。
特に、昼間よりも夜行性の魔物の方が多いと、アンから聞いていたので要注意だ。
俺がスベニから西の街道を走行するのは、これまで迷いの森までが殆どで、これから先は、走った事が無いので道にも慣れていない。
スマートフォンへは、俺がこの異世界へ来た最初の地点である、女神様の神殿が表示されてきた。
ここは、地図上でもホーム地点としても登録してあり、地図上にはHマークが表示されている。
暫く無言で運転していると、後部座席からの声が途絶え、代わりに「す~す~」とでも寝息の合唱も聞こえて来るかの様に静かになった。
実際には、エンジン音で寝息など聞こえてくるはずも無いのだが、バックミラーの角度を変えて後部座席を覗いてみると、15歳の少女トリオは、中心に座るアンへ首を預けて寄り添って寝ていた。
俺は、助手席をチラッと見ると、ナークは俺の方を方をじっと見つめていた。
その黒い瞳で見つめられると、正直なところ「ドキッ」としてしまう。
あの人に――元の世界にいた瞳に――似ているからだ。
そして、俺を見つめながらナークは、珍しく自分から喋り始めた。
お陰様で、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が、昨日、ついに「日間ランキングBEST300」の、2位へとランクインされました。また「日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST100」の1位も維持しております。作者も本当に驚いていると共に、喜びまくっております。これもひとえにブックマークをして下さった読者の皆様、そして評価ポイントを入れて下さった読者の皆様のおかげです。本当に有り難うございました。
引き続き、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』のご愛読を、よろしくお願い致します。
舳江爽快




