矛と盾
「実はな、城塞都市の生産ギルドから伝書鳩が届いたのじゃ。聞いて驚くなよ小僧、城塞都市タースで傭兵達の反乱が起きたのじゃ」
「えっ!傭兵の反乱ですか?!」
「そうじゃ、傭兵ギルドが決起したと書いてあるわい」
「傭兵ギルドが決起……。首謀者も傭兵ギルドですか?」
「詳細までは判らん。他のギルドと教会にも伝書鳩が返ってきたと連絡があった。これから、情報交換の会議じゃ」
「そうですか。で、何故に自分も会議に参加しなければいけないのでしょうか?」
「恐らくじゃが……。タースに出向いているスベニの民の救出かの」
「なるほど、偵察に行くなら、自分が一番早いですからね」
「そう言う事じゃ。急ぐぞ小僧……ジョー」
テンダーのおっさんは、三輪車を漕ぐ速度を上げて走り出したので、俺は仕方なく駆け足で三輪車を追う羽目になった。
商業ギルドの建物に到着すると、受付嬢の一人が足早に俺たちの元まで近づいてきて、「皆様、既にお揃いですので大会議室まで、お急ぎ下さい」と階段へと案内される。
商業ギルドの大会議室は、何度か使った事があるので、テンダーのおっさんと二人で急いだ。
「待たせたな皆の衆。小僧……ジョーも連れてきたぞい」
「おお、テンダー殿、お待ちしておりました。ジングージ様へはエルドラ副会長を使いを出したのですが、不在だったので副会長が街中を今も探しております、テンダー殿とご一緒されたとは良かったですな」
「失礼しました、アントニオさん。中央広場で偶然テンダーさんと会ったのです」
「ジョー、良く来てくれたなぁ。概要は知っているか?」
「はい、テンダーさんに聞きました」
冒険者ギルドのギルマス、アルバートさんが俺に尋ねたので、知っていると返事をした。
そして何故か、アルバートさんの隣の席には、鉄壁のゴライアスさんが座っている。
「ジョー、暫くだな。毎日、パーティーで訓練に励んで居るそうだが、今度は俺とも遊んでくれ」
「はい、ゴライアスさん。機会があれば是非、自分達をご指導下さい」
「ジングージ様、今朝方はミラをお誘い頂、ありがとうございました」
「いいえ、マーガレットさん、先ほどロックが教会まで送って行きましたので」
「そうですか、仲の良い兄妹で本当に良いですね」
「はい。自分も羨ましい限りです」
教会のマーガレット司教も来ていた。
例によって二人――双子――の従者、アリスさんとエリスさんが両脇の座席に座っており、俺に微笑んで会釈してくれる。
そして、警備隊の大隊長、ウィリアム大佐が俺に声を掛けてくれる。
「ジングージ殿、久しいな。息災で何よりだ」
「はい、ビル大佐。何時もアマンダさんには、お世話になっています」
「何を仰いますか、ジングージ様。何時もお世話になっているのは、私の方ですよ」
警備隊大隊長、ウィリアム大佐――愛称のビル大佐と呼ばないと怒られる――の隣には、アマンダさんが座っていた。
自由交易都市スベニの重鎮達が、本当に一同に介していた。
そして、俺とテンダーさんが席に着くと同時に、大会議室のドアがノックされる。
「城塞都市タースのバンカー公爵閣下がお見えになりました」
「はい。お通しして下さい」
「失礼する。急な事で皆には迷惑を掛けて済まぬな」
タースで反乱が起きたからだろうか、スベニを来訪していたバンカー公爵も会議に参加する様だ。
そして、バンカー公爵に続いて、昼時に中央広場で会ったサンダース騎士が入室してきた。
護衛を兼ねているのだろうか、入室するなり参加者全員を見回す。
そして、ゴライアスさんと目が合ったとき、ニヤっと笑い言う。
「ゴライアス、久しいな。息災だったか?」
「ああ、元気だったさ。お前も元気そうだな、サンダース」
なんだか、友人同士の会話みたいだ。
冒険者の間で伝説となる様な試合をした事がある割には、共に遺恨は残さないと言うことか。
と、サンダース騎士が俺に気づき、笑っていた顔が険しい武人の顔に戻ると俺に言った。
「ジョーと言ったか、先ほど会ったばかりだが、手合わせする場所は見つかったのか?」
「いいえ、モロー卿。この会議に呼ばれたので、未だ手配しておりません」
「そうか……手合わせは、又の機会になりそうだな。それがしには時間が無くなった」
「その様ですね……」
すると、俺とサンダース騎士の会話を聞いていたゴライアスさんが、笑いながらサンダース騎士に言い放った。
「サンダース、ジョーと戦うのは止めておけ。死にたく無かったらな」
「何だとゴライアス?それがしが貴様に勝てなかったとは言え、こんな小童に負ける訳がなかろう」
「はははは……俺もジョーと最初に会った時には、そう思ったさ。これを見ろ、サンダース」
そうゴライアスさんは言うと、テンダーさんに修理してもらった鉄壁の盾を掲げる。
そして、自らが着用している鉄製の鎧を指さした。
指さした先には、俺が89式小銃で蜂の巣にした穴を、テンダーさんが修理した跡が沢山見えている。
テンダーさんは、鎧の穴を塞ぐのに、空薬莢の真鍮を溶かし、その溶けた真鍮を用いて鎧の穴を埋めたので、それは金色の模様の様にも見えた。
「どんな魔法も防ぐ鉄壁の盾も、ジョーの爆裂魔法で穴だらけさ。そして、この鎧も爆裂魔法で穴だらけとなったんだぜ。それでも、お前はジョーに勝てると言うのか?」
「……鉄壁の盾を打ち破る爆裂魔法を使うのと言うのか……ゴライアス、それは誠か?」
「ああ、本当だ。ただし、この時は俺じゃなくて中身は樽だったがな。そして鉄壁の盾に守られていた俺の剣は、爆裂魔法で木っ端微塵となったぜ。次はお前の魔剣が砕かれるなら、それも見物かもな」
「……噂の武勇伝は、誠だったのか……」
「ああ、自分の目で確かめてみな。骨は俺が拾ってやるぜ」
「……ジョー殿、いやジングージ殿。それがしの昼の無礼、許してくれ」
「いいえ、モロー卿。自分は気にしておりません。エリザベス姫の警護をされているなら当然の行動です」
「すまぬ。しかし、ゴライアスの盾を破るとはな。それがしの魔剣をも完全にはじき返す盾をだ……後にも先にも、それがしが勝てなかったのは、ゴライアス只一人なのだ」
「何を言う、サンダース。それを言うなら、俺だって貴様には勝てなかったんだ。引き分けの勝負だったんだぜ」
「負けと引き分けは同じだ。勝負は勝てなければ負けなのだ。それが騎士の信条なのだ……」
「相変わらずの堅物騎士様だな、サンダース。俺はあの勝負で貴様と友になれた事が、俺の誇りになっているんだがよ」
「それは、それがしも同様だ……ふふふふ」
「はははは……」
なんだか、二人の会話は、本当に旧友同士の会話で、なんだか羨ましくなる。
そうか、サンダース騎士とゴライアスさんは、戦いの決着が付かずに引き分けだったのか。
でも、その後、二人は遺恨も残さず親友になったんだ。
なんだか羨ましいけど、今では、俺とゴライアスさんも遺恨も無く付き合っているので、今後はサンダース騎士とも付き合っていけるのだろうな。
雷撃の魔剣を持つ騎士に、鉄壁の盾を持つ冒険者か。
まるで、矛盾の逸話を美談にした様な話しだった。
きっと、これからも二人の友情は勝負に関係なく末永く続くのだろう。
二人の話も終わったところで今日の議長なのだろか、アントニオさんが声を発した。
お陰様で、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が昨日、「日間ランキングBEST300」の32位にランクインされました。また、「日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST100」の7位へもランクイン出来ました。
拙著がこの様にランキング入りが果たせたのは、ブックマークをして下さった読者の皆様、そして評価ポイントを入れて下さった読者の皆様のおかげです。本当に、有り難うございました。
引き続き、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』のご愛読を、重ねてよろしくお願い致します。
舳江爽快




