魔剣使いの騎士
俺がクイティアオを食べ切るのを待っていたかの様に、大柄の兵士が俺達の居るコナモン屋台コーナーのテーブルへと近づいて来る。
大柄の兵士は、俺を見下ろす様に睨みつけ、そしてエリザベス姫の方を向き、こう言った。
「姫様、この様な場所へ勝手にお出でに成られては、警護に支障が及びますゆえ、早々にお引き上げください」
「……大丈夫です。ジングージ様がご一緒されております故、貴方や警護の兵が居なくても心配は無用ですわ」
「ジングージ?そこの小童の事ですかな?」
「失礼ですわよ、サンダース。貴方はご存じ無いのかしら?あのジングージ宝珠を奉納された、爆裂のジングージ様を」
「……ほう、あの巨大スライムを討伐し、単騎でワイバーンをも討伐した爆裂魔法の使い手が、お主だったか。申し遅れた、それがしはバンカー家に代々仕える騎士でサンダース・モローと申す。以後、見知ってくれ」
「自己紹介を有り難うございます。自分はジョー、ジョー・ジングージと言います。お見知りおきください」
「そなたの武勇伝は、城塞都市タースにまでも聞こえてきておる。機会があれば、是非とも相手を願いたいと思っていたのだ。手合わせ願えるかな?」
「……此処では出来ません。場所を改めてと言うことで宜しければお受けします」
「おお、手合わせ願えるのか。それは結構、それがしは楽しみにしておるぞ」
「後日、冒険者ギルドか、スベニ警備隊の修練所で宜しければ、お願いします」
「畏まった。では、連絡を待っている。ささ、姫様、宿へ帰りましょう」
「五月蠅いわね、サンダース……丁度、お食事も終わりましたから、帰りますわ。ジングージ様、邪魔が入りまして大変に失礼申し上げました。それでは又、後日お会いしましょう」
「リズさん、今日はご一緒に食事が出来て良かったです。それでは、また……」
そう言うと、エリザベス姫は席を立ち、優雅にカーテシーを決めてからサンダース騎士を引き連れ離れて行った。
そして、彼女の後を、周りを警護していた兵士達も足早に追いかける。
しかし、あのサンダースと言う騎士、凄く迫力があったので、思わず俺も手合わせの約束をしてしまったが、武人らしいと言うか上から目線に圧倒されてしまった。
「ジョー兄い、良いのかよ。あの騎士、魔剣使いのサンダースだよ」
「アン、魔剣使いって何?」
「有名な騎士だよ。鉄壁のゴライアスと魔剣使いのサンダースの戦いは、冒険者達の伝説だよ」
「へえ~、ゴライアスさんとも戦ったんだ」
「アタイは見たことないけど、それは、それは凄い試合だったて有名だよ」
「私もアントニオ様から聞いた事がありましゅ。雷撃の魔剣を使うそうでしゅ」
「雷撃?それって、魔法を発動する剣なの?」
「判りましぇん……」
「僕も聞ぃた事がぁります。何でも雷撃の魔剣が触れると、触れられた瞬間に雷が落ちるのだとか」
「と言うことは、近接戦用の剣なんだね。なら離れた場所からなら……」
「ジョー兄貴、俺も雷撃のサンダースは知ってるぜ。離れた場所へも雷を落とせるらしいぜ」
「遠隔攻撃も出来るのかあ~、そりゃ強敵だな。よし、誤魔化して逃げよう!」
「「「「「「えぇ~!」」」」」」
君子、危うきに近寄らずだ。
近接戦オンリーならば俺の勝ち目は十分あるけど、遠隔魔法攻撃も出来るとなると、俺一人では負けが確定している。
ナークと二人でとか、アンの援護があれば何とかなるかもしれないが、遠隔魔法攻撃は俺一人では防げないからな。
まして、試合形式では実弾を撃ちまくる訳にもいかないから、そんな勝ち目の無い試合は最初から御免被る。
サンダース騎士には、場所が取れなかったとか、警備隊や冒険者ギルドから試合はまかり成らんと言われたとか言って誤魔化してもらう事にしよう。
実際、89式小銃や9mm拳銃の実弾であれば、なんとか戦いにもなると思うのだが、そうすると相手を死傷させてしまう。
悪人ならそれも厭わないが、試合じゃスライム戦の後、新たに装備へ加わった鎮圧用の5.56mmNATOゴム弾を使うしかないけど、それだって生身じゃ危険だ。
全員が俺の言葉に呆れ返って絶句していたが、対人戦は本当に苦手だ。
何れは、避けて通れない事件も起こるのだろうが、出来れば避けて通りたいのが俺の本音である。
それにしても、エリザベス姫には困ったものだ。
彼女と知り合ってから、どうも調子が狂ってしまう。
所謂、天然なのだろうけど、悪気が無いだけに始末に負えない。
俺たちは、食事が済んだので、アルさんに代金を支払い孤児院の年長組の子供らにも礼を言い、中央広場から我が家へと向かって歩き始めた。
すると、遠方から俺を呼ぶ声が聞こえてくる。
あの声は、よく知った生産ギルドのテンダーおっさんの声だ。
「おい、小僧……ジョー!良いところで会ったぞ」
テンダーのおっさんは、三輪自転車をキコキコと漕ぎながら、俺たちの方へと近づいてきた。
テンダーおっさんの作った三輪自転車は、自分の身長に合わせたサイズで、元の世界で言うところの子供用の三輪自転車を大型にしたサイズだった。
後部の二輪部分の上には、バスケットが装備されており、荷物を運搬するにも便利そうだ。
既に、スベニの街では大人用が市販されており、ご婦人方に好評だと言う。
もちろん、普通の二輪自転車も販売されており、スベニの街は自転車ブームの真っ最中だ。
「テンダーさん、こんにちは、自分に何かご用でしょうか?」
「用があるから呼んだのじゃい。これから商業ギルドへ行く。お前も一緒に来い」
「自分だけで良いのでしょうか?」
「ああ、お前だけ来ればよいぞ」
「はい、判りました。それじゃ、俺は商業ギルドへ行ってくるから、皆は帰宅していてよ」
「判ったよ。ジョー兄い」
「はい、判りましゅた。ジョー様」
「僕は、ミラと一緒に教会へ行ってから帰ります」
「ジングージ様、今日はお誘い頂、ありがとうございました」
「うん、マーガレット司教やアリスさん、エリスさんに宜しくね」
「はい!」、「はぃ」
「……あたしは家に帰る」
「うん、ナークとベル、アンは気を付けて家に帰ってね」
テンダーのおっさんに捉まってしまったので、パーティー"自衛隊"のメンバーは、一端此処で自然解散だ。
それにしても、テンダーのおっさん、一体俺になんの用事があるのだろうか。
このところ、生産ギルドや商業ギルドが、俺に仕事の依頼などしていなかったはずなのだが。
俺は、早足で歩いて三輪自転車に乗るテンダーのおっさんに尋ねてみると、とんでもなく意外な答えが返って来た。
お陰様で、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が、なんと連載三ヶ月目の昨日、「日間ランキングBEST300」の87位にランクインされました。また、激戦ジャンルの「日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST100」の30位へランクイン出来ました。
拙著がランキング入りが果たせたのは、ブックマークをして下さった読者の皆様、そして評価ポイントを入れて下さった読者の皆様のおかげです。本当に、有り難うございました。
引き続き、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』のご愛読を、よろしくお願い致します。
舳江爽快




