姫とクイティアオ
本日二話目です。
お陰様で、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が、なんと連載三ヶ月目の今日、「日間ランキングBEST300」の146位にランクインされました。また、激戦ジャンルの「日間ファンタジー異世界転生/転移ランキングBEST100」の51位へランクイン出来ました。
これも偏に読者の皆様のおかげです。有り難うございました。
「あら!?、ジングージ様じゃないですか、皆さんでお昼ご飯ですか。わたくしも、ご一緒してよろしいかしら?」
(嘘だ……彼女が、先ほどからキョロキョロと屋台を探し回っていたのを俺は見ている)
「おや、奇遇ですね、エリザベスさん。どうぞ、空いている席に、お掛けください」
「嫌ですわ、ジングージ様。リズとお呼び下さる様、お願いしたではないですか」
「ああ、そうでしたね……どうぞ、リズさん」
「それではお言葉に甘えて、失礼しますわ」
エリザベスさんは、そう言って空いている席に腰掛ける。
ただし、腰掛ける前に俺の方をじっと見つめ、「早く椅子を引け」と言わんばかりだったので、仕方なく俺は自分の席から立ち上がって、彼女の座る椅子を引いて座らせた。
俺以外のパーティー"自衛隊"のメンバーも、彼女の事は知っている。
初対面なのは、ミラだけだ。
どうせ、後で五月蠅い事を言われるのが予想できたので、俺はミラさんを彼女に紹介しておく事にした。
「リズさん、ミラは初めてでしたよね。紹介します。教会で修道尼見倣いをしているミランダさんです。先日、紹介した此処に居るロックの妹さんです」
「ミランダさん……と言うと新たに聖女に成られたという……それは、それは、ご紹介を有り難うございます。わたくしは、エリザベス・バンカーと申します。以後、よしなに願います、聖女様」
「エリザベス姫様、私はミランダです。未だ聖女になった訳ではございません。未熟者ですので修行中の身でございます。以後、ミラとお呼び下さい、よろしくお願いします」
「いえいえ、巷では大騒ぎですのよ。わたくしの事もリズと呼んでくださいまし」
「はい、リズ様……」
エリザベス・バンカー姫。
父親は、城塞都市を支配している3大貴族の内の一つバンカー公爵で彼女は、その娘だ。
彼女曰く、自分は次女なので姫とは呼ばないでくれと言っていたが、やはり貴族の娘、姫と呼ばれるのが当たり前の様だったが、俺はエリザベスさんと呼んだ。
すると彼女は、身近な者からはリズと呼ばれているので、俺にもそうしてくれと頼まれたのだが、すっかり忘れていた。
エリザベス姫は、金髪に水色の瞳をもち、その金髪を両脇でクルクルとスプリングの様にロールさせた髪型だ。
まさか、マジで金髪縦ロールの美女にお目にかかれるとは、流石に異世界だと、つくづく感心した。
御年、19歳との事なのだが父親のバンカー公爵によると、未だ嫁ぎ先も決まっておらず、俺に「ジングージ殿、嫁にどうだ」と勧めてきやがった。
もちろん、俺は家名持ちだが「貴族では無いので」と、丁重にお断りしたのは言うまでもない。
しかし、想像以上に貴族の仕来りは、色々と面倒臭い。
先ず、呼称に関しては、家名を重視するとの事。
これは、俺が家名持ちなので、未だに家名で呼ぶ人も多いのは、それが理由らしい。
"家名"+"爵位"、公爵以上は更に"閣下"などを最後に加えるのが望ましいそうだ。
ただし、本人が名前や愛称で呼ぶ事を許可した場合は、それに従うのがマナーみたいだ。
ちなみに、爵位は騎士からで、騎士の場合は家名に"卿"を付加するとの事。
また、一般民であっても騎士職に就けば家名を得られる様だ。
そんな貴族の彼女は、数日前の事、城塞都市から父親と共にスベニへとやって来て、商業ギルドで交易の商談を行っていたのだが、運悪く商業ギルドに居た俺達"自衛隊"は、アントニオ会長から公爵の父親と、娘の彼女を紹介されてしまったのだ。
父親のバンカー公爵は、アントニオ会長と商談の仕事を続けているのだろうが、娘のエリザベス姫は、暇を持てあましているのか、やたらと俺達に興味を持ち接近してきたのだ。
「わたくし、今日も教会へお邪魔いたしまして、ジングージ様の宝珠を拝観してまいりました。あの様に巨大で美しい光の宝珠、聞いたことも見たこともありませんでしたので、とっても感動しておりますのよ」
「はあ、偶然手に入れた宝珠なのですが、スベニの民だけではなく城塞都市タースのお役にもなるなら、良かったと思います」
「はい、父も今後は定期的に重傷の怪我人や病人を、スベニに連れてきて治療をしていただけると、司教様にお許し頂けて大層喜んでおりました」
「それは、良かったです。スベニには、ミラの先輩にあたる治癒師のアリスさんと、回復師のエリスさんも居りますので、タースの民も安心でしょう」
「はい、教会の本山までは遠く険しい道ですが、スベニは隣街で近いため、大変心強いと父が申しておりました」
「それは良かったですね。ところでリズさんは、何を召し上がりますか?」
「はい、ジングージ様と同じものを頂きたいと存じます」
「判りました。お口に合えば良いのですが……マルさん、クイティアオと、たこ焼きを追加してください」
「はいよ、ジョーの兄貴。丁度たこ焼きは焼き上がったみてえだ」
最近は、マルさんまで俺を「ジョーの兄貴」とか、「ジョー兄貴」と呼ぶようになって久しい。
どうやら孤児院では、俺を皆が兄貴分だと思っている様で、小さい子達も皆が「ジョー兄さん」とか、「ジョー兄たん」呼んでいるのだ。
マルさんが、隣の孤児院年長組が焼いた、たこ焼きを皿に盛りつけテーブルの上に置いてくれた。
「リズさん、自分の故郷の料理です。熱いので口を火傷しないように食べて下さい」
「ジングージ様の故郷の料理ですか。まるで宝珠の様な球形ですのね。では頂きます……熱いっ!」
言ってるそばからエリザベス姫は、熱々の、たこ焼きを囓ったので大騒ぎだ。
どうも、上品な食べ方しか出来ない育ちの様で、丸ごと口に放り込むという発想も無かった様だ。
俺は、腰に下げていた水筒を外して、エリザベス姫へ飲むように促す。
「ごくごく……本当に熱々ですのね。でも、美味しいですわ、この食感と旨みは癖になります」
「良かった。ふーふーと冷ましてからお食べ下さい」
「こうかしら?フーフー……本当、熱いけれど美味しいですわ」
「あいよ、ジョー兄貴。クイティアオお待ち!」
「アルさん、ありがとう。リズさん、此方はスープの中の麺が美味しいですよ」
「これも初めて見るお料理ですわ。これもジングージ様の故郷の、お料理かしら?」
「これは違います。中の麺が小麦粉であれば自分の故郷の料理ですが、これは米粉を使っています」
「米粉ですか?それも初めて聞く食材ですわ……ちょっと食べにくいですわね」
「フォークで、こう巻き付けて食べては如何でしょうか?自分は、この箸で食べますが」
「……なんとも奇妙な食感ですこと。でも、このスープは美味しいですわ」
「そうですね。米粉の麺は、あまり噛まずにスープと一緒に飲み込んでみて下さい」
「はい……この麺ですか?美味しいです。何という喉越しの良さでしょう。これなら沢山いただけますわ」
どうやら、貴族のお姫様にもクイティアオの喉越しの良い麺は好評の様だ。
たこ焼きも気に入った様で、皿に盛られた、たこ焼きを次々と口へ運んでいる。
クイティアオのスープ(出汁)を飲みながらなので、熱々のたこ焼きでも火傷せずに食べられている様だ。
出汁で食べる、たこ焼きなら、明石焼きというのもあるけれど、このコナモン屋台コーナーでは出汁を使った、うどんとクイティアオがあるので、それは客の好みで一緒に注文すれば良いだろう。
俺以外のパーティー"自衛隊"のメンバーは、皆がエリザベス姫とは会話をせず、黙々と食事を続けている。
アンと目が合うと、俺から目をそらしてしまい何も言わずに食事を続ける。
皆、貴族が苦手なので関わり合わない様にしているのだ。
特に、ナークは、初対面でエリザベス姫に酷く恐れられたため、会話どころか彼女に近づく様子もない程だ。
エリザベス姫がテーブルに加わったため、それまでの和気藹々とした談笑も消え、なんだか俺とエリザベス姫だけの食事会の様になってしまった。
まあ、暫くすればバンカー公爵の業務も終え、城塞都市タースへ帰るだろうから、それまでの辛抱だ。 それにしても、何処で俺たちが此処に居るのを調べたのだろうか。
俺は、注意深く周辺を見回すと、ちゃんと警護の兵達が居るではないか。
明らかにスベニの警備兵とは、違う鎧を着込んだ傭兵か兵士達が、離れた場所からエリザベス姫をしっかり警護していた。
流石に姫様だなと思いながら、俺も冷めない内にと自分のクイティアオを、もくもくと食べるのだった。
記念すべき連載三ヶ月目の今日に、ランキング入りが果たせたのは、ブックマークをして下さった読者の皆様、そして評価ポイントを入れて下さった読者の皆様のおかげです。本当に、有り難うございました。
読者の皆様への感謝を込めて、本日二話目の投稿をさせていただきました。
引き続き、『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』のご愛読を、よろしくお願い致します。
舳江爽快




