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聖女

「何でしょうか?、司教様……お、お、お兄ちゃん!、どうしたの?!」

「ミラさん、落ち着いて下さい。ロックさんは、スライムの腐食性体液で火傷の様な怪我をしました。至急に治療が必要なんです」

「ミランダ、ジングージ様の言われるとおりですよ。直ぐに治癒部屋へロックさんを運びます」

「はい。司教様、ジングージ様、取り乱してしまい、申し訳ありません……」

「判りますよミラさん、大事な兄さんだもの、当たり前ですよ。自分にも妹がいます……いましたから、ミラさんの兄さんを思う気持ち嬉しいですよ」

「ありがとうございます。ジングージ様」


 そう言ってミラさんは俺に頭を下げながらも、兄のロックさんの怪我を心配しながらロックさんへ「お兄ちゃん、がんばってね。直ぐに治癒と回復をしてもらえるから……」と言う。

 ロックさんはミラさんの声に反応して、「ミラ……」と小さな声で応えた。


 俺たちは、マーガレット司教の先導で礼拝堂を通り抜けて奥の部屋へと向かう。

 どうやら、治癒専用の診察室というか、治療専用の部屋が有るらしい。

 司教に続いて治癒部屋へ入ると、ベッドが4床設置してあり、その一つにロックさんを寝かせた。

 すると、マーガレット司教の側に何時も付き従っている修道女風の女性二人が、胸元から首に提げているペンダントの様な物を取り出し、それを両手で握りながら呟く様に言う。


「我らが主神、フノス様へお願い申し上げます。女神様の下僕の私めに、治癒のお力をお貸し下さいませ」

「我らが主神、フノス様へお願い申し上げます。女神様の下僕の私めに、回復のお力をお貸し下さいまし」


 二人の修道女風の女性が、そう呟くと握っていたペンダント・トップが目映く輝き、それを握っていた両手も白く輝き始めた。

 すると、二人の修道女風の女性は、輝き続ける両手をロックさんの怪我を負った両手と顔へ当て、短いが強く言う。


治癒(キュア)!」

回復(ヒール)!」


 二人の修道女風の女性の輝く手から、光の塊がロックさんの負傷した患部へと移って行き、赤くケロイド状になっていたロックさんの皮膚が光り出した。

 少しづつだが、真っ赤だった皮膚が元の皮膚へと戻り始めたが、完全に元へは戻らない内に光は消えてしまう。


「酷く深い火傷です。本日は既に数回の治癒と回復を行っておりましたので、光の結晶の力が復活するまで、暫く時間を下さい。ジングージ様」

「結晶の力ですか……それって、その首飾りの先についている結晶でしょうか?」

「左様でございます。巷では光の魔結晶とか白い魔結晶と呼ばれております」


 修道女風の女性の一人が、そう言って俺にペンダント・トップを見せてくれる。

 ペンダント・トップには、米粒ほどの小さな白い魔結晶が埋め込まれていた。

 先ほどまで、俺たちが戦っていた白いスライムの落とした白い魔結晶に比べると、それは余りにも小さかった。


「その魔結晶なら、自分たちも先ほど白いスライムを狩ったので、持っています。使ってください」


 俺は、アンさんから受け取ってポケットに仕舞い込んだ白い魔結晶3個を、二人の修道女風の女性に渡すと、女性達は驚愕の表情をし口を揃えて言った。


「この様に大きな光の結晶は、初めて拝見しました」

「流石、使……ジングージ様です。女神様に愛されておられます」

「「使って宜しいのでしょうか?」」

「もちろんです。それで足らなければ、もっと大きなのも有りますから。アンさん、ベルさん、軽装甲機動車から、あの巨大な白い魔結晶を此処へ運んできて」

「判ったよ」

「はいでしゅ」


 アンさんとベルさんが治癒部屋を飛び出して行くと、俺から渡された白い魔結晶3個を、二人の女性がそれぞれ手に取り、先ほど治癒魔法を使った女性が大きなビー玉ほどの魔結晶を持ち、回復魔法を使った女性は2個のビー玉ほどの魔結晶を両手で持った。

 そして、先ほどと同じ様に女神様へ祈りを捧げる言葉を呟いた後、それぞれの魔法を発動する。


治癒(キュア)!」

回復(ヒール)!」


 今度の魔法では、彼女たちの輝く手の光量が先ほどとは、比べものにならない程、強くそして長く輝き続ける。

 すると、みるみる内にロックさんのケロイド状だった両手が、普通の皮膚まで戻って行く。

 顔のケロイドや、爛れた皮膚も同様に、元の皮膚へと戻って行くのだった。

 治癒魔法と回復魔法、凄いな。


「ジングージ様、お貸し頂いた大きな光の結晶で殆どの傷は癒せましたが……」

「はい、もう全く火傷の後や傷は無くなりましたね、ありがとうございます」

「……いいえ、治療出来ていない部位がございます」

「え?、それは何処でしょうか?」

「両目でございます……」


 そう言うと、治癒魔法を担当していた女性が、ロックさんの閉じている目の瞼を指で開いた。

 開かれた瞼の下からは、白く濁ってしまい、真っ白になった瞳が現れる。

 ロックさんの瞳の色は、元々髪の色と同じ美しい青い色をしていたのだが、その青い瞳が真っ白に濁ってしまった。

 それを聞いていたロックさんと同じ、青い髪と瞳を持ったミラさんが涙声で言う。


「エリス姉様(シスター)、お兄ちゃん……兄の目はもう治らないのでしょうか?」

「ミランダ、大丈夫よ。ロックさんはもう命に別状はないから、後で本山へ行けば直るわ」

「そうですよ、ミラ。本山で聖女(・・)様にお願いすれば目も回復しますから」

「アリス姉様(シスター)、そうですか……本山へ行き聖女(・・)様にお願いすれば良いのですね」


 どうやら、治癒魔法を担当していた修道女の方がエリスさんで、回復魔法を使う方がアリスさんか。

 二人とも、自己紹介をしてくれて無かったので、やっと名前が判明した。

 それにしても、彼女たちの会話から察すると、教会の本山――本部――には、聖女と呼ばれる人が居て、その方なら上位の回復魔法や、治癒魔法が使えるので、治療のために本山まで行かねばならないのか。

 しかし、本山って何処にあるんだろう。決して近い場所では無いのだろうけど。


 そう言えば、ロックさんと初めて会った中央広場で、アンさん、ベルさん、そして孤児院出身のマルさんが口を揃えて「何処かで会った気がする」と、ロックさんの事を不思議に思っていたが、それもその筈だ。

 ロックさんと妹のミラさんは、髪の色、目の色、そして容姿も良く似ている。

 だが、ロックさんと会った事を思い出せ無かったのは、妹のミラさんと似ており、それを勘違いしたからなのだろう。

 そんな事を思い出していると、治癒部屋の扉が開きアンさんとベルさんの二人が、巨大な宝珠を抱えて入室してきた。








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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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