緊急帰還
「ジョー兄さん、白いスライムが3匹居たよ!。小さい2匹は仕留めたけど、大きいのが1匹、そっちへ逃げたよ!」
「了解!アンさんは逃げたスライムを追跡!」
「判ったよ!」
「ロックさんは、スライムの迎撃用意を!」
「はぃ、迎撃準備します!」
「ナークさんとベルさんは、軽装甲機動車内へ退避!」
「……車内へ退避する」
「扉を閉めましゅ!」
パーティー"自衛隊"も、一連の連携動作が中々様になってきた。
俺もLAVの車外へと飛び出し、89式小銃を構えてから草むらの動きを注意深く監視する。
普通のスライムの動きは遅いのだが、あの白く巨大なスライムの動きは、全く違っていたので、白いスライムは動きが機敏なのかもしれない。
俺は、注意深く草むらの不規則な動きを見つけようとしたが、風で草が揺れているのでスライムの動きかどうかを判別し難い。
突然、降って湧いた様な白い小型スライムだが、俺の予想では巨大スライムから漏れた体液が分裂スライムとして、再生したのではないかと思っている。
これは、元の世界で生きていた頃、PCゲームの中でスライムは、分裂して増殖するという設定が多かった事から、この異世界のスライムも同様では無いかと思っただけだ。
根拠も何も無いのだが、このファンタジー異世界のモンスターや魔法などが、元の世界の御伽話や伝説と酷似してるので、何らかの因果関係が有るのではと考え始めているのだ。
なにせ、この世界の女神様の眷属が元の世界の、しかも現実世界に居たという時点で、情報が異世界間で共有はしないまでも、関係性が皆無だとは言い難いだろうと思う。
と、ロックさんが叫ぶと共に89式小銃を発射した。
「白ぃスライム発見!射撃します!」
ダダダッ!と89式小銃がスリー・ショット・バースト・モードで発射された。
俺は、着弾点を確認してみると、草むらが不規則な動きをしながら、その草の動きが此方へと向かって来ている。
俺も、ロックさんに続いて89式小銃を発射した。
ダダダッ!、ダダダッ!と、2回のスリー・ショット・バーストの発射音が轟く。
アンさんも側面から同様に89式小銃を発射したが、草むらの動きはジグザグとした不規則な動きをして、巧みに銃弾を回避している様だ。
その草の動きは、非常に速く、赤や緑、青のスライムとは、雲泥の差があるスピードで白いスライムは移動をしている。
俺は、ロックさんとアンさんに、直ぐさま指示を飛ばす。
「アンさん、ロックさん、連射に切り替えて発砲!」
「判ったよ!」
「はぃ、連射に切り替ぇます!」
ダダダダダダダッ!
三人の89式小銃が、連射モードで一斉に火を噴く。
不規則な動きをしていた草むらは、次々と着弾してゆくNATO弾に、その動きが静かになる。
そよそよと風が吹くと、風に靡く草の動きだけとなったので、白いスライムは動きを止めただけなのか、それとも殺ったのか。
俺は、注意深く草むらの方を見据えた。
アンさんが既に白い小型のスライムを2匹、89式小銃で狩ったと報告してきているので、少なくとも巨大スライムと違い、この小型の白スライムには、NATO弾で十分殺傷可能なはずだ。
恐らく、体液は腐食性なのだろうが、あの巨大スライムの様に弾丸を防御するだけの力量は無いのだろう。
だとすれば、小型の赤や緑、青のスライムと同じで、89式多用途銃剣でも殺傷できるはずだ。
俺は、89式多用途銃剣を89式小銃へ取り付け、草を薙ぎ切りながら白スライムが止まった地点へ、ゆっくりと歩き始めた。
アンさんも俺と同じ様に、既に89式小銃へ取り付けてある89式多用途銃剣で草を刈りながら前進を始める。
ロックさんの持つ89式小銃には、89式多用途銃剣が無いので、そのまま草むらを掻き分けながら前進を開始した。
ガサガサッ。
草むらが急に掻き分けられたと思った瞬間、白い影が大きく飛び上がった。
その白い影は、ロックさんの頭目掛けて飛び掛かって行く。
「ロック!避けて!」
俺は、ロックさんへ大声で避ける様に指示したが、それは間に合わなかった。
白いスライムは、ロックさんの被っている鉄兜の上から、ロックさんの頭部をすっぽりと覆い被さってしまう。
「ぅわぁっ!……」
ロックさんの顔全体を、白スライムが覆い被さったため、悲鳴の最後は言葉にならず聞こえて来ない。
俺は、直ぐにロックさんへの元へと駆け寄った。
ロックさんは、顔全体を覆っている白スライムを、両手で掻きむしるようにして外そうとしていた。
しかし、白スライムはべっとりとロックさんの顔全体に覆い被さっており、手で剥がし取る事は出来ずに居る。
しかも、グローブをして居ないロックさんの両手は、みるみる火傷の様なケロイド状態になってしまい、ロックさんは、その場の草原に倒れ込んでしまった。
頭部は、テッパチで守られているが、既にテッパチに被せてある迷彩色の鉄帽覆いは、腐食してボロボロだ。
そして、顔も真っ赤に爛れてしまっており、早く白スライムを剥がさないと呼吸も出来ない状況だ。
俺は、ロックさんの元まで走り寄り「動かないで!」と大声で叫ぶが、ロックさんは藻掻いて草原を転げ回るのを止めない。
俺の側へアンさんも駆け寄ってきたので、アンさんへ強力依頼をした。
「アン!、俺がロックの身体を押さえるから、銃剣で頭の白スライムの核を突け!」
「えっ!それじゃロックさんの頭に……」
「大丈夫。鉄兜の上を狙えばな」
「判ったよ!やってみるよ!」
俺は、草原を転げ回るロックさんの身体の上に覆い被さる様にダイブして、ロックさんの身体を全身で押さえ込んだ。
すかさず、アンさんは頭部の白スライム目掛けて、89式小銃へ取り付けてある89式多用途銃剣の狙いを定める。
しかし、白スライムを突き殺す踏ん切りがつかない様で、突くのを躊躇してしまう。
「アン、早く突いて!」
「うん!」
アンさんは、思い切って白スライムの中心――"核"――目掛けて、89式多用途銃剣突き刺した。
ガリッ!と、テッパチが音を立てたが、銃剣によって傷の跡が多少深く付いただけだ。
白スライムは、コアを破壊され、みるみると萎み始めて、ロックさんの顔に覆い被さっていた身体は、瞬く間に消滅した。
俺は、直ぐに無限収納から水筒を召喚し、ロックさんの顔全体を洗い流す。
「ぅっ……」と、小さな呻き声をロックさんが発した。
しかし、顔は、赤く焼けただれケロイド状になり、両目は全く開けない状態だ。
俺は、顔に続いて、焼けただれた両手も水で洗い流す。
早く治療しなければ、命に関わるだろう。
腰のベルトに装着してある救急用ポーチから、止血帯を取り出して顔の出血の多いところへ貼り、両目には救急包帯で保護をする。
両手にも同様に、止血帯と救急包帯で応急処置を施して、直ぐにロックさんをLAVの後部座席へと運び込んだ。
「ジョー兄さん、これ……」
アンさんは、大きなビー玉ほどの白い魔結晶と、小さなビー玉程度の同じく白い魔結晶を俺に差し出してくる。
「あぁ、回収ありがとう」と言って、三つの魔結晶をポケットへと仕舞った。
早くスベニに戻って、ロックさんの治療をして貰わねばならないが、これほどの重傷では元居た世界であれば別だが、この異世界で治療可能なのだろうか。
大きな不安を抱えたまま、俺は全員に指示する。




