スライム
「ジョー兄さん、スライムを狩ろうよ!」
「スライムを狩る?何か良い事があるの?」
「有るよ。スライムは最弱の魔物だけど、狩れば報酬が手にはいるよ」
「報酬?……革は無さそうだけど、素材が採れるの?」
「採れるよ。スライムからは魔核……魔結晶が採れるよ。アタイがウッド・ランカーの時は、スライム狩りで小銭を稼いでいたんだよ」
「魔結晶……あぁ、魔法発動用の杖や腕輪に仕込んである結晶か」
「そうそう。赤は火魔法、青は水魔法、緑は風魔法の結晶を落とすよ」
「なるほど、そうなんだ……よし、じゃあスライム狩りをしよう。アンさん、手本で狩って見せてよ」
「うん、判ったよ、ジョー兄さん!」
アンさんは笑顔で頷くと、89式小銃に取り付けてある89式多用途銃剣で、足下でプルプルと震えているバスケットボール位で、半透明な緑色のスライムを「えぃ!」と突き刺した。
89式多用途銃剣で刺されたスライムは、悲鳴をあげるでも無く震えていた身体が急激に萎んでいく。
そして、半透明の身体が消えると、小さく透き通った緑色のビー玉の様な魔結晶が残された。
「スライムの弱点は、外から見えないけど身体の中心にある"核"だよ。この"核"を壊せばスライムは死んで、魔結晶を残して消えるんだよ」
「へぇ~、核があるんだ。でも、外から見えない"核"って厄介だね」
「大丈夫、慣れれば簡単だよ。でも大きなスライムには注意してよ。顔に飛び掛かかって来て、顔を包まれると、息が出来なくなるんだよ」
「了解。あの一抱えも有りそうなスライムは要注意だね」
「うん、あれは正確に中心の"核"を突かないと、顔に飛び掛かってくると思うよ」
「銃で殺せるかな?」
「ジョー兄さん、アタイがやってみて良い?」
「実戦訓練だね。3点制限点射でやってみてよ」
「うん」
アンさんは、89式小銃を構えて、少し離れた場所でブヨブヨとうごめいている、一抱えもありそうな大型で水色のスライムに照準を定めた。
安全装置レバーを|"タ"《・》から|"3"《・》へと切り替えて、引き金を徐に引く。
ダダダッ!と、3発のNATO弾がスライム目掛けて発射され、全弾が見事に水色のスライムへ命中した。
3発の弾丸は、殆どがスライムの中心部の"核"へ命中したのだが、そのままスライムの身体を貫通してしまう。
だが、弾丸が"核"に命中したスライムは、ブルブルと震えていたのが止まり、そのまま空気の抜けた風船の様に小さく萎んで行った。
「ジョー兄さん、やったよ!大型のスライムを仕留めたよ!」
「うん、アンさん凄い。全弾が"核"に命中した」
「……アンさん凄い」
「アンちゃん、格好良いでしゅ!」
「ァンさん、爆裂魔法の天才ですね」
「えへへ、みんなから褒められると嬉しいけどアタイ照れるよ……」
アンさんは、仕留めた水色の大型スライムが萎んだ場所まで行き、ピンポン球程の大きさがある半透明で水色の魔結晶を手にした。
この位の大きさがあるスライムだと、アンさんが持つ短い鉄製の短剣では、中々仕留めるのに苦労し、今までは、危険だったので見逃していたのだとか。
槍や長剣を装備していれば、苦労せずに仕留められるのだそうだが、槍とか長剣は高価なのでウッド・ランカーでは買えなかったのだそうだ。
その後、俺たちは、全員でスライムを狩りまくった。
大型のスライムは、俺やアンさんが89式小銃で仕留め、小型のスライムは、ロックさんとナークさんが89式多用途銃剣や、アンさんの装備していた短剣で刺し殺す。
また、9mm拳銃を使い、ベルさんとナークさんの射撃訓練の的としても活用した。
地面の上で蠢いていたスライムを粗方狩った俺たちは、地面の中に居るという黄色いスライムを探した。
黄色いスライムは、土魔法の魔結晶を落とすのだが、土中に居るために狩るのが面倒臭いとの事で、魔結晶の買い取り価格も高額なのだとか。
土中といっても、それ程、深く潜っている事は無く、地面が盛り上がっていたり、穴が空いていたりするので、それを探す。
地中に居る黄色のスライムは、本体が土で見えないために、銃剣や短剣で土の上から刺していくのだが、これが中々難しい。
スライムの中心核に刺すのは、勘と経験の技なので、もはや俺たち駆け出し冒険者では、狩ることが出来ず、冒険者経歴の長いアンさんの独壇場だった。
ちなみに、土中に居る黄色いスライムは、大型化する事は殆どなく、小型の個体ばかりだという。
スライム狩りも、かなりの魔結晶が得られたので小休止を事にし、お茶の時間となった。
ベルさんが、予め用意して来ていたお茶を、飯盒と小型バーナーで湧かした湯を用いて、全員でティータイムだ。
俺は、無限収納から冷たいペットボトルの日本茶とコーラを召喚し、久々にコーラで喉の渇きを潤す。
パーティー"自衛隊"の面々も、コーラを試した事は有るのだが、炭酸のシュワシュワした喉越しに関しては、意見が真っ二つに分かれていた。
しかし、冷たい日本茶は誰もが「美味しい」との評価で、皆で分け合って飲んでいる。
俺としては、返す返すも缶コーヒーをコンビニで買って置かなかった事を、未だに後悔しているのだが。
豊富な食材が集まるスベニの商品市場でも、コーヒー豆は未だに見つける事が出来ずにおり、どうやらコーヒー豆自体が流通していないどころか、全く知られていないのだろうと思える。
お茶は、紅茶が流通しており、広く愛飲されているポピュラーな存在だ。
この異世界には、アラブの偉いお坊さんが居なかったのだろうと、諦めるしかないのだろうか。
お茶を飲みながらアンさんとベルさんは、二人で手分けしてスライムの落とした魔結晶を、色別に袋へ入れながら数を数えている。
今日のスライム狩りだけで、かなりの量の魔結晶を収穫できたので、それなりの買い取り価格が期待出来ると、ニコニコしながらアンさんは笑っていた。
特に今までは、諦めていたピンポン球サイズの魔結晶を収穫できたのが、とても嬉しかった様だ。
お茶の時間も終わり、そろそろ撤収する準備に取りかかる事にする。
全員で、回収済みの空薬莢を袋に詰めたり、スライムの落とした魔結晶を詰め込んだ袋を、軽装甲機動車の後部スペースへと積み込んで行く。
俺の無限収納から新たに召喚した89式小銃等も、無限収納へ回収せずに、LAVの後部スペースへ収納した。
89式小銃や9mm拳銃は、隊員の個人管理にし、メンテナンスも教えねばならない。
全員が周囲に忘れ物が無いかを散らばって確認していると、迷いの森の方の木々がワサワサと揺れ動いた。
風も無い状態なのに木々が揺れているので、森の中で何者かが移動しているのだろうか。
暫く揺れている木々の方角――それは、俺たちが標的に使っていた樹木の方角と一致していた――を見ていると、迷いの森の木々が突然押し倒された。
木々を押し倒した犯人は、巨大なスライムだった。
その大きさたるや、まるで小山の様な大きさで、もはやスライムとは呼べない大きさだ。
しかも、巨大なスライムは、これまでの赤や青、緑や黄色ではなく真っ白な姿をしており、巨大な中華饅頭の様にも見える。
それでも、半透明なゼリー状の身体をしており、ブルブルと震えながら、俺たちへ向かって進んで来たのだ。
俺は、大声でアンさんに尋ねた。