表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/237

天才スナイパー

 全員での昼食も、和気藹々とした雰囲気で終わり、午後の訓練を始める事にする。

 しかし、銃の発射訓練で的を定めないで行うのは、弾丸を命中させる訓練にはならない。

 全員が、89式小銃と89式多用途銃剣を取り付けた際の、槍としての扱いや長刀風に扱う手際も良くなった。

 加えて、9mm拳銃の取り扱いも、マガジンの脱着や、手動でのハンマーの引き起こしなども行える様になったので、次なる訓練の段階へと進む事にする。


「実際に、的を定めての射撃訓練をしてみようか。もっと迷いの森に近づくと、標的になる物とか小さな魔物もいるかもしれないしね」

「この西の平原から迷いの森に近づけば、小型の魔物は沢山いるよ」

「そうなの?以前、俺が一人で訓練してた時は、森に入らないと居なかったけど」

「平原には、弱くて小さな魔物しか居ないよ。希に大型のが出てくるけど」

「小さな魔物ってのは、どんなのが居るの?」

「例えば……スライムとかかな」

「スライム?それって、ブヨブヨした奴?」

「うん、そうだよ。魔物の中じゃ、最弱だよ」

「そうか……あれ、魔物だったんだね。じゃあ、もっと西へ移動しよう」


 アンさんの助言によって、俺たちは、再び軽装甲機動車LAV(ラヴ)に乗車し、迷いの森へ近づく様、西へと移動した。

 迷いの森が、目と鼻の先100メトル手前まで移動し、LAVから降車する。

 この迷いの森との境界は、見事に平原と森が別れている。

 迷いの森の中から出てきた俺は、森の中の様子も鮮明に覚えているが、なにか人為的に作られた気がしてならない森だ。


 全員がLAVから降りてから、周りを見回すと森から少し平原になっている場所に、大きな樹木が一本だけ生えていた。

 これを目標にしてやれば、射撃訓練には丁度良いだろう。

 俺は、樹木まで走って行き、樹木に的となるロープを巻き付ける。

 巻き付けたロープにポケットから、赤いバンダナを取り出して括り付けた。

 これなら目立つので、スコープが装備されていない89式小銃や9mm拳銃の目標には、丁度良いだろう。


「それじゃ、あの樹木に巻き付けた赤い布きれを狙って、小銃を射撃してみよう。狙いの定め方は、午前中に教えた様にしてね。じゃ、アンさんから撃ってみて」

「うん、アタイから撃つよ」


 アンさんは、片膝を地面に付け89式小銃のコッキングレバーを引いて安全装置を|"タ"《・》にし、しっかりとストックを肩に宛がい、照準の狙いを定めて50メトル先の標的へ向けて、引き金(トリガー)を引いた。

 ダッ!と、89式小銃が火を噴き、弾丸が発射される。


「あ~、外れた……的の上に当たったよ」

「……初めて的を狙っての射撃で、樹木に当たっただけでも凄いよ、アンさん。引き金を引いた時に反動で銃身が上に上がったのかな。もう少し反動の動きを考えて打ってみて」

「うん。じゃあ、もう一度、撃つよ」


 アンさんが、2射目を発射する。

 89式小銃が、ダッ!と発射音を轟かせる。

 アンさんは、撃ち終わった後、暫く的の赤いバンダナを凝視してから、ニヤっと笑って言った。


「当たったよ!ジョー兄さん。アタイの爆裂魔法が、的に当たったよ!」


 俺は、双眼鏡で的にした赤いバンダナを確認し、そして(にわか)に信じられなかった。

 なんと、この栗毛の15歳の少女は、人生二度目の射撃で正確に射貫いたのだ。

 しかも、視力の良い彼女は、裸眼で50メトル先の的へ、自身が発射した弾丸が命中した事を視認したのだ。


「凄いな……アンさん……」

「えへへへ。アタイ、ジョー兄さんに褒められたよ」


 その後アンさんは、マガジンが空になるまで、89式小銃を単発で打ち続けたが、その命中率は驚異的だった。

 2射目で命中したのは、偶然のまぐれ当たりでは無く、命中率は90%以上だ。

 希に外す事があったが、光学サイト無しでの命中率としては破格と言うか規格外だ。

 この娘、スナイパーになったら無敵かもしれない。


 アンさんの後、ロックさんが的を狙って射撃をするが、こちらは普通に外しまくった。

 俺は、異世界人全てがアンさんの様に、天才的な射撃才能を持っているのでは無いかと思ったが、そうでは無かったので内心ほっとした。

 ナークさんも同様にアンさん程は、上手く命中はしなかったが、それでもロックさんよりは命中率が良い。

 やはり、個人の能力差があり、視力や天性の才能が影響するのが射撃だと思う。


 最後にベルさんが、9mm拳銃での的へ向けての射撃訓練を行う。

 暫定的な防音と言うことで、耳が隠れる88式鉄帽(テッパチ)を被ってもらう。

 ベルさんは、「声が聞こえにくくなりましゅた」と言いながら、目標へ向かって前進する。

 護身目的の9mm拳銃なので、89式小銃の発射距離の半分程度の距離での射撃とした。


 ベルさんは、片腕で、しっかりと9mm拳銃を握りしめてからスライドを手前に引き、薬室(チェンバー)へ弾丸を装填し、それから安全装置を外し両腕でグリップを握る。

 引き金(トリガー)へ右手の人差し指を押し当て、そして(おもむろ)にトリガーを引いた。

 バンッ!と9mm拳銃が火を噴き、弾丸は的のバンダナの下へ命中する。


 「外れましゅた……」と、ベルさんは残念そうに言ったが、それでも左右のブレは全くない。

 普通ならば、射撃時の反動もあるので、そうは当たらない。

 俺は、ベルさんに「次を撃って」と言うと、ベルさんは「はい」と言って再びトリガーを引く。

 バンッ!、9mm弾丸が的のバンダナ目掛けて飛び出す。

 更に俺は、「続けて撃って」と言い、ベルさんに射撃を続けさせた。


 ベルさんは、マガジンの弾丸を撃ち尽くし、カシーンとスライドが後部へホールド・アップした。

 マガジンの弾丸9発の内、約半数の4発がバンダナへと命中だ。

 これでも拳銃の命中率としては、驚異的な数字である。

 しかも、初めて拳銃の射撃をした兎耳の15歳の少女なのだ。

 やはり、獣人族特有の身体能力や、五感が優れているためだろう。

 これが、至近距離の4~5メトルであれば、恐らく全弾命中しているはずだ。


 全員の射撃訓練は、その後も続けられた。

 既に、的にしていた赤いバンダナはボロボロになってしまい、的としての機能を果たさなくなっている。

 その殆どは、アンさんとベルさんによる射撃の結果だ。

 特アンさんの射撃は、短時間であるにも関わらず、一発撃つごとに命中率が上がって行く。

 これは、新たに装備リストに加わった銃器は、アンさん専用にした方が良さそうだ。


 その時、草原に腰を下ろして休んで居たアンさんが、大きな声で俺に向かって叫んだ。


「ジョー兄さん、スライムだよ!」

「えっ、何処?」

「此処だよ、此処!」


 俺は、アンさんの指さす方へ走って行く。

 すると、草むらの中に、半透明の緑色をしたブヨブヨとしたゼリーの塊が、うごめいて居た。

 これがスライムか……。目や口も無く、気持ち悪いな。

 周りを見ると、半透明の水色をした奴とか、赤い奴とかも、うごめいている。

 大きさは様々で、ソフトボール位の奴からバスケットボール程度、一番大きな奴でも両腕で抱えられる程度だ。

 と、アンさんが俺に提案してきた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] スナイパーは完全に才能の世界で、上手いか 下手かだしな、練習で上手く成っても才能で簡単に 覆される!残酷な世界!この孤児院組と戦いたく 無いよアンは弓が獲物でしょう?弓の場合は 射る時の右指…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ