講習
停車させたLAVから全員に降りる様に言い、俺も運転席から降りる。
西の平原に生えているのは、背の低い雑草なので、草に隠れて襲ってくる様な魔物も、直ぐに発見出来るだろう。
また、大型の野獣なども生息している様だが、俺が一人で訓練していた際に、まだ一度も確認はしていない。
先ずは、俺の推理が正しいかどうかの検証を済ませる事にする。
肩に掛けていた89式5.56mm小銃、2丁の内1丁をアンさんに渡す。
89式小銃が2丁あるのは、傭兵の軍曹と冒険者達との戦いの際、新たに無限収納から召喚した1丁を、そのまま格納せずに保持していた1丁だ。
「アンさん、その銃……魔法発動の杖を使ってみようか」
「えっ、ジョー兄さん。アタイは魔法は使えないよ」
「いや、使えるかもしてないから、試してみよう」
「アタイが魔法を使えるの?」
「駄目かもしれないけど、兎に角やってみよう」
「うん」
俺は、アンさんの持った89式小銃のコッキングレバーを引いてから、安全装置を|"タ"《・》にして、アンさんへ片膝を付いた姿勢を取らせる。
「そう、その姿勢でこの部分を肩にしっかりと当てる。しっかり肩に押しつけないと危ないよ」
「こうかな……」
「そう、そう。そして、この方向に向けて、ゆっくりと此処……引き金って言うだけど、此処を手前に右手の人差し指で引いて」
「うん……」、ダッ!、「きゃあ!」
アンさんは、発射時の反動で、その場に尻餅をついてしまう。
しかし、アンさんがトリガーを引いた89式小銃は、発射音と共に銃口から火を吐き、発射された5.56mmNATO弾丸は、迷いの森に向かって飛んでいく。
やはり、俺の予想どおりだった。
銃器の扱いは、俺のパーティーのメンバーであれば可能となるのだ。
「ア、ア、ア、アタイが爆裂魔法を放ったよ!」
「うん、出来たね。アンさん。これからは爆裂のアンって呼ぼうか?」
「嘘だよ、これ……ジョー兄さんがアタイを騙したんじゃないよね?」
「違うよ。この銃さえあれば、パーティー"自衛隊"全員が使えるんだ。試してみようか、次はロックさん」
「僕も爆裂魔法が使ぇるのですか?」
「大丈夫、使えるさ」
アンさんからロックさんへ89式小銃を渡し、銃の持ち方や姿勢などを手ほどきする。
そして、ロックさんが89式小銃のトリガーを引くと、ダッ!と発射音が轟くと同時に、銃口から火を噴き、NATO弾が発射された。
ロックさんは、「僕にも爆裂魔法が使ぇた……」と唖然としている。
「次はナークさん、やってみる?」
「……はい。でも、あたしにも出来るの?」
「大丈夫だよ」
ロックさんからナークさんへと89式小銃が渡され、ナークさんが俺の指導で体勢を整え、89式小銃を構え、そして、ゆっくりとトリガーを引く。
ダッ!と89式小銃の発射音と共に、銃口から発射炎が噴き出しNATO弾丸は、迷いの森へとと飛び去って行った。
「……無能と呼ばれたあたしが、爆裂魔法を……」
「ナークさん、無能じゃないよ。ちゃんと使えたでしょう」
「……はい」
何とナークさんは、大粒の涙を流して泣き始めてしまう。
これまで、攻撃魔法が使えない事で、同族である魔族からも蔑まされていたからだろうか。
ナークさんは、感無量のあまり涙が溢れた状態だが、心底嬉しそうな笑顔を俺に向けて「……ありがとう、ジョーさん」と言う。
「さあ、後はベルさんだけだよ」
「私もでしゅか?私はメイドなんでしゅけれど……」
「そうだね。じゃぁ、護身用のこっちでやってみようか」
俺は、腰のホルスターから9mm拳銃を取り出し、スライドを引きマガジンから9mm弾丸をチェンバーへと装填し、同時にハンマーが起こされたので迷いの森目掛けてトリガーを引く。
バンッ!と発射音がし、9mm弾丸が発射され迷いの森へと飛んで行った。
ベルさんへ9mm拳銃を握らせ、両腕でしっかりとホールドさせてから、俺がベルさんの後ろへ回り込み、右腕の人差し指でトリガーをゆっくりと引かせる。
バンッ!と発射音がすると、「キャッ!」とベルさんは悲鳴をあげ、俺にもたれ掛かってきた。
獣人の身体能力を持ってしても、初めての銃の発射反動は、予想外だったのだろう。
俺は、しっかりとベルさんの身体を受け止めた。
俺にもたれ掛かったベルさんは、長い兎耳がペコっと折れてしまって、ピコピコと震えている。
兎人族のベルさんは、獣人族の中でも飛び抜けて聴覚に優れているので、銃器の発射音に対して過敏に反応してしまう。
発射音に対しての慣れもあるのだろうが、やはり非常事態以外は銃器の扱いを控えるべきなのだろうか。
残念ながら、俺の装備には、9mm拳銃用の消音器はリスト・アップされていないので、訓練の際には耳栓をしてもらうのが良いかもしれない。
「ベルさんも使えたね」
「……ジングージ様……ジョー様、私も爆裂魔法が使えたのでしゅか?」
「うん、使えたよ。皆これからも使える。パーティー"自衛隊"の隊員で有る限りはね」
「凄いでしゅ」
「……嬉しい」
「僕も仲間に入れてもらぇて、有り難ぅジョーさん」
「ジョー兄さん、アタイ仲間に入れて貰って、本当に良かったよ」
全員が銃の発射を体験し、それぞれの思いを口にする。
魔法が使えない獣人族のベルさんや、人族のアンさんとロックさん。
そして、攻撃魔法が使えなかったために、同族からも虐めを受けていた混血魔族のナークさんの思いは、特に人一倍強かった。
その後、俺は、全員に対して89式小銃の扱いや照準の合わせ方などをレクチャーし、9mm拳銃に関しても、ベルさんだけではなく全員に扱い方を教え込こみ、実際に発射訓練をしてもらう。
2丁の89式小銃だけでは、全員での訓練が出来なかったので、無限収納より89式小銃1丁と、9mm拳銃を1丁を追加で召喚した。
同時に、89式多用途銃剣も無限収納から召喚し、銃剣の扱い方もレクチャーした。
89式多用途銃剣は、俺が常に装備している一振りと合わせて、2振りしか無いが後日改めて召喚する事にする。
午前中の訓練も終わり、昼食時となったので全員で昼食を取る事にした。
昼食は、特に用意して来なかったので、試験用に無限収納へ格納して置いたスベニ特製の試作缶詰に加えて、俺の標準食料である戦闘糧食Ⅰ型だ。
戦闘糧食Ⅰ型は、ランクアップによって、一日3回の召喚から10回へと増えている。
それに合わせて、スベニ特製の試作缶詰も10個を無限収納へ格納して置いた。
試作缶詰は、人数分の5個を取り出して後は戦闘糧食Ⅰ型だ。
しかし、戦闘糧食Ⅰ型と違いスベニ特製の試作缶詰は、この異世界の物質なので無限収納へ格納してもコピーする事は出来ず、召喚すると無限収納からは消えてしまうのだ。
これは以前に、貨幣を無限収納へ収納して判った事で、コピー召喚可能なのは、元の世界の物質かリスト化された装備に限る仕様だ。
残念ながら、貨幣をコピー召喚出来なかった時は、思わず「やっぱりな」と苦笑いしてしまった。
湯沸かし用の大鍋と、災害救助装備から大型のポリタンクに水を入れた物と、湯を沸かすためのバーナーも合わせて無限収納へ事前に収納してあるので、これを取り出して準備を整える。
本当は、レトルト・パックの戦闘糧食Ⅱ型が装備にリストアップされて欲しかったのだが、残念ながら、それは叶わなかった。




