ドライブ
「うわー、とても風が気持ちいいよ!」
「アンさん、落ちないように気をつけてね」
「判ってるよ、ジョー兄さん」
軽装甲機動車LAVの天井部ハッチから半身を乗り出したアンさんは、ポニーテールにしている栗色の長い髪を風に流しながら凄くご機嫌だ。
するとロックさんが珍しく驚いた声で、俺に尋ねてきた。
「ジョーさん、この鉄の箱車は勇者コジロー様が乗ってぃたと言ぅ、"鉄の箱車"と同じなのですか?」
「いいえ、ロックさん違いますよ。勇者コジローさんが乗っていたのは、戦車という戦闘用の乗り物です。この鉄の箱車は、装甲車と呼ばれていて、戦闘用ではありますが防御に特化していて攻撃力は殆どありません」
「勇者コジロー様の"鉄の箱車"は、ジョーさんと同じ爆裂魔法を放ったと、言ぃ伝ぇられてぉりますが、それが無ぃと言ぅ事ですか?」
「そうですね。他にも走行する車輪が違います。この鉄の箱車は、馬車と同じ車輪で走りますが、勇者コジローさんの戦車は履帯と言う帯状の輪で走ります。速度は、こちらの方が遙かに速く走れます」
「早ぃですね、確かに。馬と比べると2倍位でしょぅか?」
「概ね、2倍強の速度が出せます。乗り心地は悪くなりますけどね」
「私の指揮者ゴーレムや守護者ゴーレムの全速力は、ほぼ馬の全速力と同じか少し早ぃ程度です。疲れなぃので、休む必要が無く長距離の移動は可能ですけど」
「へえー、あのゴーレム達、そんなに早く走れたのですか、見た目よりもずっと早いのですね」
「陸上の街道上ならば早ぃのですが、河の中など足場の悪ぃ場所では、極端に速度が落ちます」
「なるほど、あの守護者ゴーレムは、特に岩石で出来ていたから重いですしね」
「はぃ、指揮者ゴーレムの方が軽ぃので、早く走れるみたぃです」
そんな、軽装甲機動車の話題でロックさんとお喋りをしていると、珍しくナークさんが口を開いた。
「……ジョーさん、防御に特化と言うと魔法防御も?」
「う~ん、判らないんですが、多分魔法攻撃には弱いかもしれません」
「……防御結界は無い?」
「はい、有りません。鉄の装甲だけです。だから、物理攻撃は防げても魔法攻撃には弱いかな」
「……では、ジョーさんの爆裂魔法は防げるの?」
「そうですね。全てではありませんが……ある程度は防げます」
「……となると、あたしの防御結界魔法も、役に立つのね?」
「もちろんです。ナークさんの防御結界は、俺の銃弾を完全に防げましたからね」
「……そう……役に立てそうで良かった」
「ところで、ナークさんの防御結界は、魔法攻撃も防げるのですか?」
「……火炎魔法は防いだ事があるので他の魔法攻撃も多分、大丈夫」
「そりゃ、心強いな。完全防御結界なんですね」
「……結界を張る範囲に限りがある。範囲を広げると持続時間が短くなってしまう」
「先日、発動した範囲でどの位の持続時間なのですか?」
「……自分を中心にして1メトル程度なら1時間以上は持続する」
「凄いなぁ~」
「……これしか取り柄の無いあたしは、魔族からは混血の無能と蔑まされていた。魔族は、より強力な攻撃魔法が使えるほど優れているとされるの。そして人族からも魔族と言われて嫌われていたから……」
「そんな……自分を守れる能力は凄いと思いますよ。それは、他人も守れる能力ですしね。先日は、それを証明してみせたじゃないですか。自分の力に自信を持ってください」
「……ありがとう。これまで母以外で親切にしてくれたのは、ジョーさんが初めてだから……」
「前にも言いましたが、虐めや差別は絶対に駄目です。虐めや差別をする人たちも、何時かは判ってくれますよ。そして、自分の行った愚かな事を悔やむ時が必ずやって来ます。必ず……」
「……はい」
そんなナークさんとの会話で、ちょっと車内に重い空気が漂い始めてしまったので、俺は無限収納から、コンビニで購入したスナックを召喚して皆に振る舞う。
アンさんやベルさんは、既に何度か食べていたが、ナークさんとロックさんは初めてだ。
いや、ロックさんは、コンビニ弁当とペットボトルの、お茶は経験済みか。
スナック菓子で、女性陣のテンションは元に戻る。
やはり、おやつの力は、偉大と言うことで、すっかりドライブ気分となり、俺たちは一路西へと進んでいく。
良い機会だったので、魔法についてナークさんやロックさんに尋ねてみた。
魔法を発動するには、人族、エルフ族、ドワーフ族の場合、必ず魔法の発動体となる媒体が不可欠なのだが、この媒体となる発動体を用いなくても、魔族だけは魔法を発動できるのだと言う。
この能力が、魔族と言う名の由来らしい。
また、魔法を発動できるのは、個人差が大きく、生まれながらの魔力量や魔法属性に左右されるのだと。
加えて、獣人族は、魔法を発動する事が種族的に出来ないが、人族やエルフ族との混血の場合は、例外的に使える個体も居るそうだ。
しかし、獣人族は、魔法は使えないが、どの種族よりも身体能力や五感が優れているとの事。
ドワーフ族も身体能力は高く、加えて魔法も人族よりも使える個体が多いのだとか。
俺たちのパーティー"自衛隊"のメンバーで、唯一魔法を使えるのは、魔族との混血ナークさんだ。
皆は、俺も爆裂魔法を使えると思っているが、それは違う。
転生する際にも、女神様にはっきりと「使えません、魂に魔力が少なすぎるのです」と断言されているのだ。
俺が魔法を使えない事実を、今回の訓練でメンバーの皆にだけは、話しておこうと考えている。
それには、俺の装備、特に銃器を説明せねばならない。
そして、俺の推理どおりであれば、メンバー全員が、銃器を扱える様になっているはずだ。
いや、扱える様になっていて欲しい。
スベニの教会に飾られていた、勇者コジローさんの八九式中戦車の絵画、しかも戦車隊として描かれており、それらに搭乗していた各種族の戦車長たち。
勇者コジローさんが、戦車の装備する戦車砲や機関銃を撃てるのは、俺と同じなので不思議は全く無い。
しかし、他の戦車に搭乗していた獣人族、エルフ族、ドワーフ族、そして人族達が、八九式中戦車の戦車砲や機関銃を撃っていたと伝承にあるのだから、何らかの方法で勇者コジローさんや、俺が召喚する銃器を扱える様にする事が出来るはずなのだ。
そして、その方法が俺の推測どおりであれば、既にメンバー全員が銃器を扱える様になっているはずなのだ。
LAVによる楽しいドライブも、俺たちの遙か前方に"迷いの森"が見え始めめて来たので、お終いとなる。
俺は、ハンドルを右に切り、街道から外れて草原を北へと向かう。
流石に、街道と同じ速度での走行速度は維持できなくなってしまい、速度を落として慎重に草原の奥へとLAVを走らせた。
暫く草原を走って行き、街道から大分離れたのでLAVを停車させ、エンジンを切った。
ここが、西の平原と呼ばれる場所で、迷いの森に近いため開墾や家畜の放牧も行われておらず、人が入り込むことも殆ど無い。
さぁ、パーティー"自衛隊"の集団訓練の始まりだ。




