軽装甲機動車
翌朝、俺は、何時も通り教会の鐘の音で目を覚ます。
朝日が窓から差し込み、今日も天気が良さそうだ。
何時ものジーンズとスニーカーではなく、今日は戦闘服と戦闘用ブーツで身を固め、身支度を済ませた頃ドアがノックされた。
「ジョー様、朝ご飯のお支度が調いましゅた」
「はい、ベルさん。有り難う。直ぐに行きます」
「皆さん、既にお待ちでしゅ」
「えっ、判りました」
なんと、俺が一番の寝坊助だった様で、焦って1階のダイニングまで急ぐ。
既に皆は、椅子に腰掛けており、食事がテーブルに並べられている。
教会の鐘の音と共に起床したのに、皆は、それよりも早く起床していたとは迂闊だった。
起床時間と朝食の時間を、事前に決めて居なかったのだが、まさかこんなに早いとは。
「みんな、遅くなってゴメン」
「ジョー兄さんは、何時もこの時間に起きるの?」
「うん、教会の鐘の音で起きてる」
「アタイ達は、鐘の音の前に起きるのが日課だったよ」
「そうなのか……ベルさんはともかく、アンさんも早いんだね。ナークさんは?」
「……あたしも、同じ様な時間に起きる」
「そうなんだ。ロックさんは、今日は当番だから早かったとか?」
「ぃぃぇ。何時もこの時間には起きてぃます」
「あちゃー、みんな早起きなんだね……それじゃ、今日もよろしく。いただきます!」
「「「「いただきます!」」」」
ベルさんとロックさんが朝食当番だったが、焼きたてのパンと、野菜たっぷりのスープが美味しい。
しかし、皆が早起きというか、俺が遅すぎたのだが、失敗、失敗。
これは、防衛大学校時代の様に、規則正しい起床をしないと面目が立たないぞ。
それにしても、時計を皆は持って無いのに凄いな。
食後のお茶を飲みながら、皆に今日は訓練に出かける事を話す。
その前に、サイズ調整で預けた服と、靴の手直しが完了しているはずなので、それを受け取ってから支度する手はずも伝えた。
服と靴は、ベルさんの分が無かったので、受け取りに行く際に、ベルさんの分の手直しを依頼する事を提案する。
ベルさんは、「私の制服は、このメイド服でしゅが……」と遠慮するが、取り敢えず準備だけはしておく事で了承してくれた。
俺とベルさんは、服飾店と靴屋へ出向き、サイズ調整の終わった3着の服を受け取ると共に、新たにベルさんの身体サイズを計測してもらい、服のサイズ調整を依頼し、同様に靴屋でも3足の靴を受け取り、新たに靴のサイズ調整を依頼した。
今回は、1着と1足だったので、両店とも明日には終わると言われる。
料金を支払う段階で両店共かなり格安だったため、「ちゃんと受け取って下さい」と言うと、「今後のお取引もございます上、爆裂のジョー様の依頼というだけで、当店のランクが上がります故」と固辞されてしまった。
新規の服や靴を作ってもらった訳でもないのにと思ったが、店にメリットがあるというのならば良いかと思い、両店の店主に礼を言い、出来あがった3人分の服と靴を受け取って帰宅する。
帰宅すると3人は、家の掃除やキッチンの片付けを済ませいたので、サイズ調整の完了した各自の迷彩服3型、戦闘靴2型、そして予め召喚しておいた、3人分の88式鉄帽、防弾チョッキ2型を既に所有しているアンさんを除き全員に配った。
が、ここでも問題が発生する。
「……ベルさん、その鉄兜だと、耳困るよね……」
「はい……聞こえにくくなりましゅ……」
「だよね……ゴメンね。後で穴を開けて耳が出るように改造するね」
「ありがとうございましゅ」
「じゃあ、他の人は服と靴を着替えてきてよ。鉄兜とチョッキはサイズ合わないだろうけど、勘弁してね」
「「「はい」」」
10分ほどで、ベルさん以外の全員が俺と同じ戦闘服とブーツ姿で、居間へと集合する。
戦闘服と靴は、サイズ調整したので皆がキッチリと着込んでいた。
しかし、ロックさんを除いて88式鉄帽は、やはりちょっとだけ大きい様だ。
防弾チョッキ2型は、身体の小さなアンさんとベルさん以外は、ちょっと大きい程度で済んでいる。
「その鉄兜……鉄製じゃ無いんだけど、そう呼びます。頭を守ってくれる大事な装備なので、被りにくくても訓練中はもちろん、戦闘時には絶対に外さないように。チョッキも同じです」
「「「「はい!」」」」
「それじゃ、パーティー"自衛隊"の初訓練に出発します。西門までは歩いていきましょう」
「「「「はい!」」」」
俺たち5人は、ベルさんを除き同じ戦闘服に身を包み、西門まで歩いていく。
見慣れない服装の4人に加え、黒いメイド服の上に迷彩チョッキを着込んだ兎耳少女の集団は、傍目でみれば、かなり奇異に見えただろうと思ったが、反応は逆だった。
「おお!爆裂のジョーさんのパーティーだぞ」、「カッコいいなぁー」、「俺もパーティーへ入りたいぞ」、と街の人々の賞賛を浴び意外と好評だ。
西門へ到着して警備兵に挨拶をすると、「ジョー殿、これからどちらへ?」と尋ねられた。
「西の平原までパーティー"自衛隊"全員で訓練に出向きます」と応えると、警備兵は「お気を付けてどうぞ」と敬礼をして見送ってくれる。
門番では、アマンダさんに遭遇する事が多いのだが、彼女は今日が夜勤明けなので休みなのだろう。
俺たちは、西門を出て、まだ警備兵達がこちらを見ているのだが、俺は無限収納から、ワイバーン戦の後に、召喚リストに加わった車輌フォルダーから軽装甲機動車を召喚した。
既に警備兵達には、ASTACOの召喚なども知られているので、隠すのを止める事に腹を括ったのだ。
軽装甲機動車は、4人乗りの国産装甲車で、通称はLAVと呼ばれている。
俺たちのパーティー"自衛隊"は、総勢5名なので、一名定員オーバーであはるが、小柄の女性が3人居るので、窮屈だろうが我慢してもらう事にする。
実は、ゴーレム事件の後に更なる追加装備と車輌が加わったのだが、今回はLAVで移動してみる事にした。
俺は、運転席に乗り込み、ロックさんを助手席に座る様に指示する。
女性3名は、後部座席に窮屈だが座ってもらい、真ん中にはアンさんが座った。
全員が乗車したのを確認し、俺はエンジンを始動する。
すると、俺以外の全員が「おお!」と声を上げる。
ロックさんとナークさん以外は、偵察用オートバイのエンジン音を知っているのだが、やはりディーゼル・エンジン音は違うのだろうか。
LAVは、オートマチックなので、運転は普通の4輪駆動車と大差はない。
アクセルを踏み込み、街道を西へと発進する。
LAVの車内は、かなりエンジン音が五月蠅いのだが、会話が出来ない程では無い。
しかも、この異世界には、存在しないエアコンまでも装備されている。
まだ春先ではあるが、空調を初めて体験する4人は「涼しい……」と驚嘆した。
「アンさん、天井の扉が開くから、両側へ開けてみるといいよ」
後部座席の真ん中に座っていたアンさんに、そう指示してみるとアンさんは、半円型の天井ハッチを開けで半身を乗り出す。




