パーティー
「ジョー兄さん、家を買って引っ越すんだって!」
「やあ、アンさん。情報早いね。何処で聞いたの?」
「やっぱり本当だったの!巷で評判だよ」
「へえ~、そうなんだ。未だ引っ越しは先だけどね」
「噂じゃ……その……嫁を娶るって…本当?」
「嫁?!まさか……そんな相手は居ないよ……あっ、丁度良かった。紹介しておくね。今度、一緒に住むことになる、ロックさんと、ナークさん。今日、冒険者登録したばかりだけど、アンさんも仲良くしてあげてね」
「一緒に住むの?……3人で?」
「うん、そうだよ。一緒に冒険者としてやって行くことになったんだ」
「そう……アタイは、アンだよ。宜しくだよ……」
「アンさん、僕はロックです。ゴーレムでは、迷惑かけて済みませんでした」
「……あたしはナーク、よろしく」
アンさんは、二人の挨拶に無言で頷き、そのまま黙りこくってしまう。
ちょっとの沈黙の後、受付カウンターの中から、ギルマスのアルバートさんが口を挟んでくる。
「ジョー、あの屋敷は昔、商業ギルドの会長になる以前に、アントニオさんが住んでいた屋敷だぜ。今まで誰にも売らなかったんだが、ジョーだから譲ったんだろうぜ」
「えぇっ!アントニオさんの家だったのですか!」
「そうだ。未だ自分の商会を切り盛りしていた頃の話しだがな」
「そうだったんですか……だから、アントニオさんは……」
なるほど、今回の物件のリスト・アップで、わざわざ別の物件を加えて俺に選ばせたのは、最初から自分が住んでいた家だけを勧めると、俺が断るのを予想しての事だったのだろう。
本当に、根っからの商人、それも先を見越してのお膳立てだ。
やっぱり、策略では、アントニオさんに敵わないな。
「ジョー、3人で冒険者をやるなら、パーティーを組んだらどうだ?」
「パーティーですか?」
「そうだ。メタル・ランカーならパーティーの新規登録申請が出来るぜ。色々と依頼を受ける際にも特典があるぜ」
パーティーか……。
確かにソロで冒険者を営んで行くのも気楽だが、仲間と組んでやる方が効率もよくなるメリットがある。
そう言えば、ギルさんの事をガレル君とハンナさんは、リーダーと呼んでいたが、彼らは同じパーティーだったのだろうか。
俺は、アルバートさんへ尋ねてみた。
「ひょっとして、ギルさんとガレル君とハンナさんは同じパーティーの仲間なんですか?」
「ああ、そうだぜ。ちょっと訳ありのパーティーだがな。ガレルとハンナの父親達は、以前ギルと同じパーティーを組んでいた仲間だった。だがな、ある依頼でギルを残して死んじまったんだ。で、その子供達を、ギルが今育てているって訳だ」
「そうだったんですか……大分、ギルさんと歳が離れていたのは、そう言う経緯だったんですね」
「だからギルのパーティー名は、まんま"雛鳥の巣"って言うんだぜ。はははは……」
「ギルさんらしい、良い名前ですね」
なんだか、ギルさんの人柄が名前に表されていて、俺もギルマスに釣られて笑顔になってしまう。
俺は、冒険者のランクこそEランクで、しかもメタル・ランカーだが冒険者としての経験はゼロだ。
同様にロックさんも、強力なゴーレムを操る事は出来るが冒険者としては俺と同じだ。
まして、ナークリエンさんは言うまでもない。
俺は、チラっとアンさんを見て、それとなく尋ねてみる。
「アンさん、もしもだよ……俺がパーティーを組むって言ったら、仲間になってくれる?」
「えっ!ジョー兄さんのパーティーにアタイが?!」
「うん、俺たち3人は冒険者としての経験は皆無だからね。アンさんは俺たちよりも断然、冒険者としての経験が長いから、いろいろアドバイスして欲しいんだけど……」
「うん!アタイからも、お願いするよ。アタイも仲間に入れておくれよ!」
「よし、決定。アルバートさん、パーティー登録します。必要な事は何でしょうか?」
アルバートさんから新規パーティー登録の方法や、料金やその他の内容を聞いて、その場で登録を済ませる事にする。
料金は銀貨5枚で、登録に必要なメンバー一人につき銀貨1枚。
他に必用なのは、パーティー名が重複しない名前を決めるだけだった。
幸いにも、この場にパーティーの構成員となる冒険者が全て揃っていたので、銀貨9枚を払い込み皆の身分証明票を預けて、その場で登録は完了した。
追加メンバーが発生した場合は、銀貨1枚でメンバー登録が可能となるとの事。
ちなみに、パーティーの構成員は、冒険者ギルドの登録者だけではなく、商業ギルドや生産ギルドのメンバーであっても可能との事だ。
これは、パーティーの移動などには、商業ギルドの御者を使うなど、人材派遣要員が必要となる場合も多いからで、武器や防具の整備には、生産者ギルドの人材が不可欠だからという理由だそうだ。
同様に、各ギルドにもパーティーに似た機能があるそうで、パーティーの種別はリーダーとなるメタル・ランカーの所属するギルドの属性になるのだという。
唯一、異なるギルドのメンバーが入れないのは、軍隊や警備隊などの軍組織なのだが、例外として軍組織と同列の傭兵ギルドと冒険者ギルドに関しては、臨時の分隊や小隊をパーティーとして扱う場合があるのだそうだ。
これは、身分証明票の情報表示板で、俺のFランクが少尉として表示されていた事からも判る。
もっとも、今日からは、Eランクの中尉だ。以後、注意せねば……。
そんな、オヤジ・ギャグを誰に言うでもなく――言ったところで、駄洒落じゃ誰も笑ってくれないだろうが――自分に、自分で突っ込みをいれて、パーティー登録が完了するのを受付で待つ。
パーティー名は、俺が命名しなかればならないとの事で、思い浮かべた名前を調べてもらうと、重複は、もちろん無かった。
この異世界には、有るはずが無い名前だから、逆にあったら調査対象のパーティーだ。
「ジョー、パーティー登録が終わったぜ。パーティー名"ジエータイ"って……どんな意味だ?」
「自分の国では自衛隊ってのは、防衛組織の軍隊みたいな組織なんです」
「防衛組織っていうと、警備隊みたいなもんか?」
「そうですね。民の命を守るのが仕事です。災害救助や他国の攻撃から国を防衛するのですが、軍隊と異なるのは、侵略戦争や先制攻撃は行わないという点ですので、警備隊と同じです」
「そうか、ジョーらしいな。期待しているぜ」
「はい。迷い人の俺の記憶にも鮮明に残っているので、それが俺の使命なんでしょう」
さて、これで独立生活の準備は調ったぞ。
取り敢えず、3人とも引っ越しの準備などは不必要だ。
なにせ皆、着の身着のままで荷物など無いし、俺の荷物は、無限収納に全て入っているのだ。
後は、住居の整備を待つだけだ……。
と、アンさんが何か言いたそうに、もじもじしている。
俺は、アンさんに「どうしたの?」と尋ねてみると、アンさんは真っ赤な顔をして俺に応えた。




