裁き
「ジョー兄さん!黒いゴーレム倒したんだね、凄いよ……何これ?、鉄の蟹!?」
「アンさんか……うん、確かに鉄の蟹だね。アスタコって言うんだ」
「凄いよね、とても強そう。これもジョー兄さんの武装なの?」
「アスタコは戦闘用じゃなくて、工事用の装備なんだよ、これ……」
そんな、俺とアンさんの会話を聞いていたドワーフのテンダーおっさんが、黙っているはずは、無かった。
俺の方をチラっとみてからニヤっと笑い、何も言わずにASTACOのコクピットへ入り込み、操作パネルや操縦桿を調べ始めた。
「小僧……ジョーよ、これは勇者コジローが操っていた鉄の箱車と同じ構造じゃな。しかし、こんな蟹の爪を持った腕は、初めて見るわい。走行用のリタイと言ったか……は、同じ様じゃが」
「勇者コジローさんが操っていたのは戦闘用の戦車と言います。このアスタコは非戦闘用ですが、今回は仕方なく指揮者ゴーレムを止めるために使いました」
「ふむ、あの黒いゴーレムは指揮者ゴーレムと言うのか?」
「はい、中に操縦者が乗って操っていました。テンダーさん、この指揮者ゴーレムの筐体、どんな金属で作られているか判りますか?」
「なんだと、中に人が乗って操るだと!」
そう言って、テンダーおっさんは、ASTACOのコクピットから飛び出ると、今度は胸部が観音開きで開いたままの指揮者ゴーレムへと駆け寄って、躊躇せずに胸の中へと潜り込んで行った。
本当に、このドワーフのおっさん、自分の知識欲に対して正直だ。
「ジョー、これは古代遺物によく使われている神鉄で出来ておる。その昔は、我らドワーフ族にも伝わっておったが、今ではその製造方法は失われておる幻の合金じゃ」
「神鉄ですか?」
「そうじゃ、途轍もなく硬く、並みの鋼鉄では傷をつける事すら出来ん」
「道理で硬かったはずです。アスタコの左腕の爪を見て下さい。鋼鉄製ですが欠けてしまいました」
俺がASTACOの刃毀れして先端が欠けてしまった左腕を指さすと、テンダーおっさんは、それを見て納得したように頷く。
俺は、指揮者ゴーレムを操っていたロックさんの事や、南の古代遺跡で発見された経緯や、操るには女神様の祝福が必要な事などを要約して説明する。
ただし、弱点の音響攻撃に関しては、敢えて話さなかった。
暫くすると、冒険者ギルドのギルマス、アルバートさんを筆頭に弟のギルバートさん、鉄壁のゴライアスさんらの冒険者達も次々と集結して来る。
また、商業ギルドの会長、アントニオさんや、副会長のエルドラさんらも此処へ集まって来た。
加えて、避難していた教会の司教マーガレットさんや、従者の方々と、警備隊長のアマンダさんらも表に出て来る。
指揮者ゴーレムの操縦者であるロックさんと、その妹ミランダさんもマーガレット司教とアマンダさんと共に表に出て来て、これまでの経緯や、奴隷商人達、傭兵らの事を各ギルドの長達へと報告している。
取り敢えず、これで後は、事後処理と犯罪者達の処遇、そしてロックさんの処遇が決まれば、今回の事件も一件落着となるだろう。
■ ■ ■ ■ ■
自由交易都市スベニでは、合議制で街の運営が行われているらしく、市長に相当する役職は無く各ギルドの長、教会の司教、警備隊の大隊長などが集まり、スベニの運営を行っているという。
裁判も基本的には、これに準じて行われているが、小さな犯罪の場合は警備隊だけで処理し、今回の様な大きな犯罪や事件は、会合が開かれて判決が決められるとの事だ。
結論から言えば、先ずロックさんは無罪となったのだが、城壁などを破壊した事に関しては、修復作業を無報酬で行う事になった。
これには、守護者ゴーレムを破壊した俺にも責任があるので、瓦礫と化した守護者ゴーレムの除去作業は、俺が重機を用いて行う事を提案し了承してもらう。
スベニの港湾で、守護者ゴーレムの火炎弾攻撃によって炎上した交易船は、所有者が奴隷商人であった事から、これも結果的に港湾からの除去作業だけで、罪にはならない事になった。
ロックさんは、残った指揮者ゴーレムを操り船の除去作業も行っているし、修復中の城門の扉の作業も、同様に指揮者ゴーレムで手伝っていた。
今回の事件で、首謀者の奴隷商人達3人は勿論、有罪だ。
特にその内の一人は、3年前の奴隷事件で逃走した事もあり、極刑の死刑が言い渡された。
残りの2名の奴隷商人も有罪であるが初犯という事もあり、北の山の鉱山で無期限労働が言い渡され、同時に3人の所持していた私財は全て没収となった。
交易船の船員達は、結果的に奴隷運搬を加担したのだが、荷が奴隷で有ることを知っていた船長と副長以外は無罪となり、船長と副長は有罪で鉱山送りが言い渡された。
傭兵の軍曹とその配下だった冒険者3人はというと、軍曹は極刑の死刑だ。
当然の判決だと俺も納得だが、両足を俺の89式小銃で打ち抜かれた為、傷が良くなるまでは刑の執行は行われず、それまでは牢獄で養生する事になった。
部下だった冒険者3人も、冒険者ギルドの資格剥奪に加え、北の山の鉱山で無期限労働が言い渡された。
死刑を求刑したギルドの長も居た様だが、初犯だった事が考慮されたとの事だ。
奴隷少女達はというと、親元が判る子達は親元まで返され、孤児の場合には孤児院に引き取られた。
しかし、孤児院では12歳までの孤児達であれば基本的に入居可能だが、13歳以上は孤児院を出て働かねばならい。
従って、13歳以上の奴隷少女達で親元が判らない場合には、自分の力で生活しなければならないのだ。
そして、特に問題となったのが、あの長い黒髪を持った少女だった。
17歳という歳に加えて、人族と魔族の混血だった為に仕事の斡旋にも影響し、誰も身元を引き受ける人が居なかったのだ。
商業ギルドの会長アントニオさんも「私の一存では難しいです」と言って、家族の同意が得られない感じだ。
俺は、彼女の持つ防御結界の能力があれば、冒険者としてやっていける事を確信していたし、なによりも、失った恋人に瓜二つの彼女を放って置けなかった。
いろいろ問題を抱え込むのは承知の上で、俺は彼女に提案してみる事にする。




