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奴隷少女達

 漆黒のゴーレム胸部が観音開き状態で完全に開き、その胸部の中に意識を失って項垂れるロックさんは、内部の座席にぐったりとして身動き一つしない。

 動作を完全に停止してしまった漆黒のゴーレムは、そのまま横方向へと倒れ始めた。

 俺は、ASTACO(アスタコ)の右腕で支えきれなくなり、右腕が破壊されそうになったので、そのまま漆黒のゴーレムの倒れる速度を緩めるだけにし、ゆっくりと地面へ下ろそうとした。


 しかし、倒れる巨体を十分に減速できず、漆黒のゴーレムは、大きな音を立てて地面に激突する。

 その時、頭部の角が横に止めてあった荷馬車の荷へ僅かに触れた。

 荷馬車をしっかりと覆っていた布が破れ、中の荷が露出する。

 いや、それは()でなく()だった。

 破れた布からは、鉄格子の檻が見え、檻の中には大勢の子供達が見える。


 漆黒のゴーレムが倒れた振動と音、そして中を閉ざしていた布が破れた事からか、檻の中の少女達(・・・)が一斉に悲鳴をあげた。

 檻に閉じこめられていたのは、全員が少女で、人族や獣人族などと様々な種族が混じっている。

 少女達は、ボロ布で出来た粗末な貫頭衣を纏い、皆が怯えた表情で破れた布の切れ目から外を覗いている。


 地面へ倒れた漆黒のゴーレムに乗るロックさんは、未だに意識を戻しておらず、ぐったりとしたままだ。

 俺は、ASTACOのコクピットから飛び降り、他の2台の荷馬車へと走り寄り腰に装備している89式多用途銃剣をホルダーから抜き、荷馬車に被せられている布を切り裂いた。

 こちらも、中は鉄格子の檻で、檻の中には、幼い少女や成人に近い少女まで、多数の女性が閉じこめられていたのだ。


 更に、もう一台の荷馬車も同様に被せられている布を切り裂くと、こちらも全く同じ状態だ。

 一体これは、何なのだろうか。

 俺は、元居た世界で見た事のある似た状況の報道映像を思い出す。

 中東のテロリスト達が幼い少女達を誘拐して、奴隷として売買したりしているというニュースだ。

 しかし、この自由交易都市スベニでは、奴隷の売買はおろか所有すら犯罪行為だ。

 俺は、直ぐに大声で叫んだ。


「アマンダさん!居ますか?!」


 直ぐに応えは、無かったが、少し間を置き教会からアマンダさんが、こちらへ向かって走り寄ってきた。


「はい、ジングージ様、教会の一般市民は全員が避難を終わりました」

「ありがとうございました。……アマンダさん、この荷車3台の中をどう思いますか?」

「荷車の中ですか……えっ、これは!」

「はい。自分には状況が良くわかりませんが、あの漆黒のゴーレムは、この荷車に乗せられている少女達を助けようとしていたと思われますが……」

「……闇ギルドの奴隷商人……3年前にも、この街で捕らえた事があります」

「やはり奴隷ですか……とすると、あの乗用馬車に乗っている人物達が奴隷商人と言う事になりますね」

「直ぐに捕らえます。おい誰か!馬車の乗客と御者を捕らえるのだ!」

「あと、漆黒のゴーレムに搭乗している人物を下ろして身柄を拘束してください」

「ゴーレムに搭乗……なんと!人が乗っていたのですか!」

「はい……自分の知り合いですが今は意識を失っています。気がついたら自分と話しをさせて下さい」

「はい。しかもジングージ様の知人とは……」


 アマンダさんの命令で、教会や孤児院の避難誘導を行っていた警備兵達が二手に分かれ、駆け足で乗用馬車と漆黒のゴーレムへと向かう。

 俺は、荷馬車の檻から少女達を救出すべく覆われていた布を全て外して、何処かに出入り口が無いかを探す。

 荷馬車の後方へ回り込むと、馬車の後部の檻は、開閉が可能になっていたが、大きな南京錠によってロックされている。


 俺は、檻の中へ向かって「檻の奥の方へ離れて下さい」と言い、奴隷少女達を奥へと下がらせ、腰のホルスターから9mm拳銃を引き抜き跳弾が彼女達の方へ飛ばないように、少し角度を付けて南京錠の至近距離から拳銃を発射した。

 「キャッア!」と奴隷少女達が悲鳴を上げるが、更にもう一発、南京錠へ向けて拳銃を発射する。


 南京錠は、簡単に9mm弾丸で破壊され、その場に崩れ落ちていく。

 俺は、檻の出入り口を開け「さあ、もう自由だよ。表に出てきて大丈夫」と、彼女たちに告げる。

 奴隷彼女たちは、びくびくとした表情で中々外へ出てこようとしないが、年長さんらしき少女が表に出ると、皆が彼女に続いて表に出てきた。

 俺は、他の2台の荷馬車の檻も同様に、9mm拳銃で南京錠を破壊し奴隷少女達を表に救出した。


「ジングージ様、黒いゴーレムの搭乗者、気がつきました」


 アマンダさんからの言葉で俺は、漆黒のゴーレムが倒れている場所を見ると、気を失っていたロックさんが意識を取り戻していた。

 直ぐに、警備兵に拘束されているロックさんの近くまで走っていく。


「ロックさん、大丈夫ですか?……それにしても何故こんな事に?」

「……ジョーさん、すみませんでした。僕は、3年前に奴ら……奴隷商人に妹を誘拐されて、奴らを調べてぃたんです。そして、あの時の傭兵を先日やっと見つけて、奴隷商人達を追ぃかけ南の港湾都市まで行き、そこから奴らを追ぃかけて此処まで来たんです」

「そうですか……でも、でもですよ。こんな事をしちゃ駄目です!」

「……言ぃ訳はしません。ジョーさんの姿を見て、僕はどうしても貴方を攻撃出来なかった……」

「アマンダさん、今回の被害で人的な被害……怪我人とかは?」

「皆無です。ジングージ様の活躍で物的な被害だけです。それにしても3年前の事件がらみとは……あの時、誘拐された少女達なら殆ど親元へ返されたか、此処の孤児院で引き取られましたが」

「えっ、じゃあロックさんの妹さんも?」

「ぃぃぇ、妹は村に帰って来ませんでした。両親は既に居ませんから……だから僕は妹を探しました。そして全くの偶然ですが南の古代遺跡で、この古代遺物(アーティファクト)指令者(コマンダー)ゴーレムを発掘して、何とか僕でも動かすことが出来たので、この指令者ゴーレムで動かせる守護者(ガーディアン)ゴーレムを使って奴らを捕らぇて、妹の情報を聞き出そぅとしてぃたんです」


 その時、教会から初老の女性が、こちらへ向かって歩いてきた。

 マーガレット司教だ。

 彼女は、例によって二人の修道尼風従者を従えていたが、今日は更に一人の修道尼風少女を従えている。

 そして、その少女は急に走り出して、こちらへ向かって来て泣きながら大きな声で叫んだ。


「お兄ちゃん!無事だったのね……私は3年前、司教様に助けて頂いたのよ!」






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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