漆黒のゴーレム
俺の叫び声とほぼ同時に、守護者ゴーレムの頭部から発射された特大の火炎弾が、城壁の回廊を直撃する。
しかし、直撃した特大の火炎弾は、燃え盛ることなく、その場で拡散して四方へ飛び散ってしまう。
拡散して消滅した火炎弾の煙が晴れると、そこには、一人の大柄な冒険者が大きな盾を構えて立っていた。
「ジョー、待たせて済まなかったな」
「ゴライアスさん!」
城壁の上部回廊には、鉄壁の盾を構えた冒険者のゴライアスさんが居り、俺の方を見下ろしてニヤっと笑った。
全ての魔法攻撃を、無効化するという鉄壁の盾。そして、その盾を操る鉄壁のゴライアスさんが守、護者ゴーレムの発射した特大火炎弾から、アンさんや冒険者達を守ってくれたのだ。
「ゴライアスさん、盾……直ったんですね?」
「おうよ、前面装甲が鉄からワイバーンの鱗になったんで、前よりも軽くて防御力も上がったぜ」
「ふん、儂が直してやったんじゃ、当たり前じゃろうが」
ゴライアスさんの後ろから、ちびっこいドワーフのおっさんが偉そうに言う。
テンダーのおっさんも来てくれていたのだ。
そして、ゴライアスさんの盾に守られ、火炎弾の直撃を免れたアンさんや、他の冒険者からも一斉に歓声が上がるのだった。
俺が倒した最後の守護者ゴーレムは、身体を砕かれた状態で、頭部の残った赤い目も既に光を発することもなく微動だにしない。
危機一髪だったが、何とか3体の守護者ゴーレムを倒せたのだ。
しかし、最後の火炎弾攻撃は正直、危なかったがゴライアスさんの救援で、何とか防げて本当に良かった。
城壁の回廊に集まっていた冒険者達が、俺を見下ろし笑顔で手を振ってくれている。
アンさんが少し心配そうな顔をして、手を振りながら大きな声で尋ねてきた。
「ジョー兄さん、大丈夫?怪我してないよね?!」
「大丈夫だよ。落ちただけだから、怪我は無い」
「そっか、良かったよ。アタイ、心配したんだよ!」
「ありがとう。でも、大丈夫だから」
そう応えて俺は、上を見上げながら、アンさんや冒険者達に笑顔を見せ手を振った。
とその時、城壁上部の回廊に出来た冒険者達の人垣をかき分け、警備隊の兵士が一人息を切らせながら回廊の壁まで走ってきて、俺の方を見下ろすと俺に大きな声で告げる。
「ジングージ殿!自分はアマンダ隊長からの伝令です。南門に守護者ゴーレムが1体と、未知の黒いゴーレムが城門を破壊しようと襲撃してきました!」
「えっ!南門にもゴーレムが現れたと?!」
「はっ!交易船からの馬車を待ち伏せしていたらしいのですが、馬車は無事に街内へ避難しました」
「……皆さんは、直ぐに回廊をそのまま南門へ向かって救援に向かってください。俺は、城壁に沿って、南門へ急行します!」
「わかったぜ、ジョー。おい、みんな急いで南門へむかうぞ!」
「おお!行くぜ、みんな!」、「ジョー兄さん、気をつけてよ!」、「ふむ、小僧……ジョー、急ぐのじゃ」
くそっ、別働隊の守護者ゴーレムが居たとは、迂闊だった。
俺は、直ぐに重機関銃M2――地対地攻撃用三脚付き――と、その弾丸帯の残り2箱、そして、虎の子の個人携帯対戦車弾――パンツァーファウスト3ことLAM――の残弾2発や、打ち終わったLAMの発射筒を無限収納へ収納し、偵察用オートバイを召喚した。
直ぐに偵察用オートバイのKLX250へ乗車し、スタータを勢いよく蹴り降ろしエンジンを起動させ、直ぐにフル・アクセルで発進させる。
KLX250は前輪を大きく跳ね上げ、ウィリー状態のまま直進した。
KLX250の前輪が着地し、城壁に沿って南門へ向かう周回道を最大速度で一路、南門へと急行する。
城壁に沿って、周回する道を時計方向に走って行くと、遙か前方に守護者ゴーレムの巨体と、一回り小さな漆黒のゴーレムが見えた。
守護者ゴーレムは、南門の扉を破壊しようと扉にパンチを繰り出しており、既に扉の表面を覆っていた鉄板が、剥がれ落ちており木製の扉も穴だらけだ。
漆黒のゴーレムは、少し後方で、その攻撃をまるで見守っているかの様だった。
南門の城壁の上には、警備兵達が投石や弓で守護者ゴーレムを攻撃しているが、全く攻撃は効いていない。
俺は、十分に接近してからKLX250を停車させ、無限収納からパンツァーファウスト3ことLAMを召喚する。
そして、KLX250に跨ったまま、城壁の上から攻撃を敢行している兵士達へ向かって大声で叫んだ。
「警備兵の皆さん!門から待避して伏せて下さい!」
俺の発した大声に、警備兵達は一斉に俺の方を振り返ると、「おお、爆裂のジョー殿が来てくれたぞ!」と言って、城壁上の回廊の壁から離れ行き、それぞれの身を伏せてくれ、俺の目からは見えなくなった。
そんな事には、意を介す様子もなく、尚も守護者ゴーレムは、城門の扉の破壊を続けている。
未だ守護者ゴーレムと漆黒のゴーレムは、俺の存在には、全く感心が無い様子だ。
俺は、KLX250に跨った状態でLAMの弾頭プローブを引き出してから、光学照準器で守護者ゴーレムに狙いを定め、安全装置を外しトリガーを引きしぼった。
LAMは、豪快な発射音と共に、城門を攻撃している守護者ゴーレム目掛け、LAMの弾頭が噴射音を残し飛んで行く。
LAMの弾頭は、守護者ゴーレムの肩と右腕に命中し、強烈な爆裂音と共に大きな爆発をした。
爆煙が立ちこめ、守護者ゴーレムの状態が把握できない。
風で爆煙が流されると、頭が半分割れ、右肩から大きく破壊された身体の守護者ゴーレムの姿が視認できたが、未だ動いている。
側面からの攻撃だったのと、肩に当たったため完全に破壊出来なかったのだ。
そして、LAMの弾頭の爆風が強かったのか、南門の扉は、場内へ向かって吹き飛ばされていた。
くそっ、爆発が扉に近すぎたのだ。
扉が吹き飛ばされ開門状態となったため、それを待っていたかの様に、漆黒のゴーレムが城門を潜り街へと入って行く。
半壊した守護者ゴーレムは、俺の方へ身体を向けると、残った顔の半分に有る赤い目が一つ、その赤い光りを増し始めた。
(やばい、また火炎弾攻撃かよ……)




