スベニ防衛作戦
ゴライアスさんの話しによると、南の古代遺跡を発掘した際に、守護者ゴーレムが大量に発見されたのだが、どれも直立不動の姿勢で佇んでいたのだと言う。
古代遺跡では、古代遺物が発掘できるので、上位冒険者であれば発掘の依頼を受けて、遺跡に赴く事も多いとゴライアスさんは言った。
ちなみに、ゴライアスさんの持つ鉄壁の盾も古代遺物なのだとか。
「間もなく、南からの船を追って、その守護者ゴーレムがスベニの街へやってきます。東側の城門を警護するに超したことはありません。警備隊は、港湾関係者を街の中に避難させて城門を閉めるそうです。自分は万が一に備えて、城門の外で迎撃態勢を取ります」
「ジョーの爆裂魔法で、守護者ゴーレムを破壊できるのかぁ?」
「やってみないと判りませんが、完全に破壊出来ないまでも、足止め程度はできるかなと思います」
「判ったぁ。俺たちも上位冒険者を集めて、東門へ向かおぅ。みんな、聞いたとおりだぁ。遠距離攻撃が可能な魔法使い中心に、東門の防御へ向かうぞぉ!」
冒険者ギルドのマスター、アルバートさんは、集まっていた冒険者達に、そう指示を出す。
俺は、生産ギルド長のテンダーおっさんや商業ギルド長のアントニオさんへも、この事を伝える様にお願いをすると、「任せておけ」とギルさんが請け負ってくれる。
そして、直ぐにギルさんが仲間のガレル君とハンナさんに、「急いでな」と指示を飛ばした。
再び俺とアンさんは、オートバイに乗り、東門へととんぼ返りする。
城門を出る前に、アンさんを下ろして偵察用オートバイを無限収納へ収納し、アンさんへは城壁の上に昇って守護者ゴーレムの監視を依頼した。
なにしろ、アンさんの視力はワイバーン戦でも、今回の守護者ゴーレムの発見でも、俺より優れているのは間違い無いからだ。
「判ったよ。ジョー兄さん、気をつけてよ」
「うん、アンさんも危ないと思ったら、直ぐに待避してね」
「守護者ゴーレムを見つけたら、大きな声で知らせるよ」
「頼んだよ……じゃ、気をつけて」
アンさんは、城壁の内側にある階段を昇って、城壁の上部にある回廊へと上がって行く。
俺は、彼女を見送ってから城壁の外へと出て、警備兵達が港湾関係者の避難誘導を行っている所へと向かう。
陣頭指揮を執っているのは、もちろんアマンダさんだった。
アマンダさんは、俺に気がつくと、こちらへ向かってきて口を開く。
「ジングージ様、避難は間もなく終わります。そちらは?」
「はい、冒険者ギルドへ伝えました。上位冒険者、特に遠距離攻撃魔法が使える冒険者達が、間もなく防衛の為に此処へきます」
「有り難うございます。警備隊も、主力部隊が既に配備を行っている所です」
「はい。自分は、此処で守護者ゴーレムを迎撃します。街中への侵入を許すと、自分の攻撃で街中に被害が出てしまいますから、何とか此処で決着をつけたいと思います」
「ジングージ様の爆裂魔法なら、守護者ゴーレムも破壊出来るかと……不甲斐ない警備隊ですが、可能な限り援護いたします」
「よろしくお願いします。特に、市民の避難誘導を優先してください」
「承りました!」
考案施設の方を見ると、未だ避難していない馬車が4~5台ほど見えた。
俺は、アマンダさんに、疑問に思い尋ねてみる。
「あの馬車は未だ避難しないのですか?」
「はい。こちらに向かっている交易船の出迎えだそうです。船が到着次第、船員達も含めてあの馬車に乗せて、南門から入場させて避難させます」
「そうですか……では、あの馬車も防衛対象ですね。無事に避難できる様に援護します」
「ご面倒でも、お願いします」
アマンダさんは、そう言って頭を下げる。
俺は、少し気になったので双眼鏡で馬車の方を確認すると、馬車の御者席に乗っている男の顔に見覚えがあった。
一人は、中央広場で、ロックさんに喧嘩を売っていた軍曹と呼ばれていた傭兵。
加えて、仲間の冒険者の男三人も、その馬車の横に馬を数頭引き連れ立っている。
恐らく、交易船関連の商人に依頼されて、馬車の御者と護衛をしているのだろう。
別に傭兵だから胡散臭いと言うのは、偏見だろうと思うし、この危機的状況下で依頼を投げ出さずに遂行する心意気は、むしろ褒めるべき事だ。
俺は、直ぐに考えを改め、警備隊の詰め所の建物の屋上へと上がり、無限収納から装備を召喚し大河へ向けて設置した。
今回召喚した武装は、12.7mm重機関銃M2――地対地攻撃用三脚付き――と、その弾丸帯を5帯全てだ。
加えて、110mm個人携帯対戦車弾――パンツァーファウスト3ことLAM――も、4発全てを召喚だ。
こんな事になるのが判っていれば、訓練で一発LAMを無駄に発射してしまった事を悔やむが、後の祭りとは、この事だと思わず苦笑してしまう。
暫く大河を監視していると、交易船が港湾へ入港してくる。
交易船は、慌ただしく入港して接岸すると同時に、帆を下ろしながら側面の船体が岸壁に向かって下ろされた。
それはまるで、元の世界のフェリー船の様だ。
その側面が下ろされた内部からは、荷車が素早く3台下ろされて、待ち受けていた冒険者3人が馬を荷車に繋いでいく。
数人の商人風の男達は、軍曹が御者席に座っている箱形馬車へと乗り込むと、こちらへ向かって馬車が走り出した。
直ぐ後には、下船された荷馬車が3台、連なるようにして後に続く。
既に東門は、扉が下ろされているので、俺の目の前を4台の馬車が、城壁側面の道を南門へと向かって走り去って行った。
御者をしていた軍曹は、詰め所の屋上に陣取った俺に気づくこともなかったし、他の男達も同様に馬車を操るのに必死だったのだろう。
残っていた馬車へ船員達が急ぎ乗り込むと、避難用の馬車も直ぐに発進して、俺の目の前を通り過ぎ、南門へと走り去ろうとした時、城壁の上で見張りをしていたアンさんの叫ぶ声が聞こえた。
「ジョー兄さん!今、守護者ゴーレム3体が河から上陸して、こちらに向かって来たよ!」




