ガーディアン・ゴーレム
「ジョー兄さん、あの石の人形は何?」
「いや、知らない……アンさんも知らないの?」
「うん、初めて見るよ。オーガと同じ位の大きさなら、地下迷宮に居る魔物のゴーレムだけど、あんなに大きくないよ」
「あの船が連れているのかもしれないね……」
「でも、あんなに普通は早く走らないよ」
「そうなの?確かに、石像から逃げている様にも見えるけどね」
「昼前は南風だから、河を遡る船が多いけど、普通はあんなに早くは走らないよ。危ないから……」
確かに船は、動く石像よりも早い速度で航行しており、その距離は次第に開いていく様にも見える。
だとすれば、あの三体の動く石像から逃げるために、最大船速を出しているのかもしれない。
石像を攻撃するにしても、未だ距離が離れすぎているし、仮に船が連れているとすれば、大きな問題に発展してしまうので無闇に攻撃は出来ない。
より詳細な情報を得るために、俺たちは暫く状況を観察する事にする。
船は、どんどんと近づいてきており、双眼鏡を使わなくても目視で十分に確認できる距離になってきた。
念の為に、双眼鏡で船の状態を確認してみると、船員達があたふたと帆の制御を行っていて、かなり焦っている様にも見える。
やはり、動く石像から逃走しているのだろうか。
動く石像も、十分に視認できる距離まで近づいてきたので、こちらも双眼鏡で詳細を確認してみる。
身体は、水面から上半身が出ている状態で、腕や顔の部分も全て岩石で出来ている様だ。
唯一目と思われる部分だけが赤い光を発しており、先行する船を睨みつけているようにも見えた。
「アンさん、この大河の水深って、どの位か知っている?」
「うん、場所によって違うけど、大体4メトルから5メトル位だよ」
「とすると、あの石像の高さは8メトルから10メトルは有るね……」
「……小さなドラゴン並みの大きさだよ、それ」
水面下の深さから、動く石像の全体の高さを逆算すれば、大きく違ってはいないだろう。
あの巨石が水に浮くとは思えないが、ここは魔法が普通のファンタジー異世界だから、確信は持てないが。
兎に角、あれがスベニの街を襲う様な事になれば、甚大な被害は避けられない事だけは間違い無い。
何れにしても、あの動く石像に関する情報が少なすぎる。
俺は、ポケットに仕舞ってあるスマートフォンを取り出し、最大望遠で動く石像の写真を何枚か撮影した。
この異世界に来て以来、何度も電池切れを起こしており、その都度インベントリーから召喚しているため、日付や時間がもはや出鱈目なのだが、この際、撮影日時の記録などに構っていられない。
「アンさん、今日の訓練は中止。急いでスベニに戻ろう」
「うん、早く街に知らせた方がいいよ」
俺は、直ぐさまインベントリーから偵察用オートバイを召喚し、アンさんを後部へ乗せる為の準備をしてから、スベニの街へと最大速度で北上を開始する。
大河を遡る船を、オートバイは直ぐに追い越してスベニへと向かう。
船の速度は、6ノットから7ノット程度だろうか、対して動く石像はそれよりも遅いので、時速10Km程度か。
であれば、十分にスベニへ先行できる。
偵察用オートバイで、時速80Kmから100Kmの速度で、一路スベニの東門へと俺たちは走り続ける。
30分ほどでスベニの東門まで到着し、まだ門番をしていたアマンダさんへ、動く石像の情報を伝えると、アマンダさんは驚愕した表情をして俺たちに言う。
「ジングージ様、その様なお話、俄に信じられません。私を驚かすための冗談でしょうか?」
「アマンダ姉さん、本当だよ。信じておくれよ」
こうなる事は、予め予測していた。
俺だって、自分の目で見ていなければ信じられない。
なので、スマートフォンで、動く石像を撮影しておいたのだ。
俺は、スマートフォンを取り出して撮影した写真画像を表示し、それをアマンダさんに見せる。
「アマンダさん、信じられないのは判ります。では、これを見て下さい」
「これは?身分証表示板……ではないですね」
「はい、違います。これが動く石像です。ご存じ有りませんか?」
「これは……守護者ゴーレムですか?いえ、ならば動く事は有りませんし……しかし……」
「守護者ゴーレムですか?」
「はい、古代遺跡に埋もれている石の巨人像です。古代遺物の一つです」
「それは、動くのですか?」
「いいえ、動く守護者ゴーレムなど、私は聞いた事が有りません。御伽話なら伝わっていますが……」
「兎に角、この動く石像は、スベニに向かっている船を追いかけている様なの、警戒だけはしてください」
「畏まりました、ジングージ様。直ぐに港湾関係者に知らせ、避難させましょう。東門は避難が終わり次第に閉じます」
「お願いします。俺たちは、冒険者ギルドへ知らせてから、また此処へ戻ってきます」
「はい、警備隊本部へは、私が直ぐに伝令を出します」
俺とアンさんは、アマンダさんの持つ身分証表示板で、スベニの街への入場手続きを行い、そのままオートバイで冒険者ギルドへと向かう。
冒険者ギルドでは、ギルドマスターのアルバートさんへ詳細をレポートするが、反応はアマンダさんと同じだったので、再びスマートフォンで撮影した写真を見せる事になったのは言うまでもない。
「ジョー、古代遺物の守護者ゴーレムは、確かに伝説では動き回っていたとあるが……まさか、本当に動くとは……信じられねぇ」
「はい、自分も実際に見ても、未だ信じられませんが、事実です」
すると、俺のスマートフォンを覗き込む巨漢の冒険者が、口を開いた。
ゴリラの様な強靱な身体の、鉄壁のゴライアスさんだ。
「ジョー、俺は南の古代遺跡で、これと同じ守護者ゴーレムを見た事が有る」
「本当ですか?ゴライアスさん?」
「ああ、姿は全く同じだが、俺が見た守護者ゴーレムは、こんな赤い目はしていなかったし、当然動きもしなかった」




