大河の動く石像
俺が単独での訓練に明け暮れていたある日の事、冒険者ギルドへ顔をだすとアンさんと久々に遭遇した。
アンさんは、例の如くサイズの大きな88式鉄帽をかぶり、同じくぶかぶかの防弾チョッキ2型を着込んで、俺を見つけると笑顔で駆け寄ってくる。
「ジョー兄さん、おはようだよ。最近見かけないけど、何処かへ出かけていたの?」
「うん、迷いの森まで行って、一人で訓練をしていたんだ」
「え~、迷いの森へ……また、オーガを狩っていたの?」
「いや、色々とね……オーガやオークも狩ったけどね。後、ゴブリン?」
「相変わらずだよね。簡単にオーガとかオークを狩っていたって……ジョー兄さんじゃなきゃ、誰も信じないよ」
「あははは……素材にならない程、木っ端微塵にしちゃったんで、アントニオさんやエルドラさんに、怒られたよ」
「木っ端微塵って、また凄い爆裂魔法を編み出したの?」
「まあね。何とか使えるようになってきたかな」
「凄いなあ。今度、アタイにも見せてよ」
「うん、アンさんの時間があるときにでも、一緒に訓練しようか」
「えっ、やるやる。今日は依頼も無いから、今日は駄目?」
「いいよ。じゃあ、これから近場の東側の川沿いの森にでも行ってみる?」
「うん、行こうよ。嬉しいなあ、ジョー兄さんと一緒に訓練だなんて……」
俺とアンさんは、意気投合して、東に流れる大河と平行している森まで行き訓練をする事にした。
スベニの東門から出ると、街道は大河に阻まれて寸断されており、細い道が南側へと延びており、その先には森が茂っている。
大河を渡るには、船着き場からの渡し船に乗ることで対岸へ渡り、そから東へ延びる街道へと繋がるのだ。
スベニの東門まで行くと、久々に警備隊のアマンダさんが居た。
女性警備兵のアマンダさん、実は警備隊でも隊長のポストにあるのだが、いつもは門番のチェック係をしている。
これにも理由があり、上級士官でなければ、身分証表示板を扱う事が許されていないのだという。
まぁ、セキュリティ関係は、それなりの地位でなければ扱えないのは、元居た世界でも同じだったから納得だ。
「ジングージ様、アン殿、お久しぶりです」
「アマンダさん、ご無沙汰ですね。お元気ですか?」
「はい、お陰様で。今日もお出かけですか?」
「あれ?、自分が毎日、街の外へ出ているのをご存じで?」
「無論です。ジングージ様が街の外へ出ると、門番から報告が参ります」
「あははは……要注意人物ですか……自分?」
「いやいや、重要人物という事です」
「アマンダ姉さん、それって、個人的に?」
「アン殿、公私混同はしておりませんよ、私……」
「ごめんなさい。ちょっと言ってみたかっただけだよ」
「はい、いいのですよアン殿。では、お二人共お気を付けてお出かけ下さい」
「有り難うございます。それでは行ってきます。アマンダさん」
「それじゃまただよ、アマンダ姉さん」
既に、アマンダさんには、偵察用オートバイの存在を知られているので、門の外へ出て直ぐに無限収納から偵察用オートバイことKLX250を召喚する。
背負っていた背嚢を外し、KLX250の後部荷物キャリアへと括り付けてから、バイクへ跨る。
アンさんに、シート代わりの背嚢へ跨るように言い、スターター・キックを勢いよく蹴り下げた。
俺は、アンさんを後ろに乗せ、快適にKLX250を走行させる。
アンさんも偵察用オートバイに乗るのは二回目なので、慣れたのか俺に背中にしがみついて、「早い、早いよ~」と喜んでいた。
前回は、夜間走行だったので、流れる景色を楽しむ余裕も無かったからだろうか、オートバイのツーリングを満喫している様だ。
南下を更に続けて30分ほど走ると、道が森に阻まれて西へと湾曲して延びる場所まで着く。
目の前の森が、スベニの南の森と呼ばれ、スベニの街の南側に大きく広がる森だ。
迷いの森と違い、オーガなどの凶悪な魔物はおらず、鹿とか猪、熊などの獣が多く猟師達の狩り場となっている森だと、アンさんが言う。
オートバイを止めて、アンさんを下車させてから背嚢を取り外し、KLX250を無限収納へ収納する。
森へ入っても良いのだが、何か標的となる目標物を探してみると、丁度、大河の向こう岸に岩の突き出た場所が見つかった。
双眼鏡を背嚢から取り出し、人が居ないかを確認してみると、岩の周りには人影も見えない。
「アンさん、対岸の岩がみえる?」
「うん、見えるよ」
「じゃあ、あれが標的ね、よく見てて」
俺は、インベントリーから、110mm個人携帯対戦車弾こと、パンツァーファウスト3を召喚し、安全装置を外し弾頭のプローブを引き出す。
光学照準で、対岸の岩に狙いを定めたのだが、アンさんが俺の後ろへと回り込んでしまったので、トリガーを引くことが出来なかった。
「アンさん、この鉄の筒の後ろには、絶対に立っちゃ駄目」
「えぇ、そうなの?」
「うん、火傷しちゃうからね」
「判ったよ、ジョー兄さん。ごめんよ」
アンさんは、謝ってから後方から移動して、俺の斜め脇へと移った。
やはり、LAMを発射する前に、後方確認は必至だった。
再び、LAMの照準を対岸の岩へと合わせ、トリガーをゆっくりと引く。
バシュッ!という轟音の発射音と共に、火を吐きながら弾頭が対岸の岩へと着弾すると、ドォドッカァーン!と凄い爆発音と共に、爆煙が吹き上がり岩の破片が周囲へと吹き飛んでいった。
「す、す、凄いよ、ジョー兄さん、あんな遠くの岩が吹き飛んで無くなっちまったよ……」
「……確かに、凄いね……こりゃ、街中では使えないな」
「そうだよ、街ごと吹き飛んじまうよ」
「そうだね……ははは」
俺は、苦笑いをするしかなかった。
迷いの森でも、LAMの破壊力は凄まじかったが、樹木などよりも元来が対戦車ロケットなので、目標が硬いほど威力も発揮できる武器だ。
と、その時、アンさんが大河の下流を指さして叫んだ。
「ジョー兄さん、あれ見てよ。船を、何かが追いかけてる様に見えるよ」
直ぐに双眼鏡で、アンさんが指さした川の下流を確認する。
大きな帆船が上流へ向かっているその後から、なにやら岩の様な物が三つ、その船を追いかけている様に見えた。
双眼鏡の倍率を上げ、船の後方の物体を確認してみると、それは何と人の形をした岩だった。
「岩の……石像が動いて船を追いかけている……」




