ファースト・コンタクト
本日二話目です。
ジャングルでの小鬼共との戦闘が終わり、これまでの事を思い出しながら再び南の街道を目指してジャングルの中を歩き始める。
時折、スマートフォンのマップ表示を確認しながら足を進めるのだが、電子式の磁気コンパスを表示させてみると、南北を示す指針が狂った様に不規則に回っている状態だ。
石畳の道では、正確に南北を表示していた指針なので、スマートフォンが壊れたとも思えない。
どうやら、"女神様の結界"外へ出てしまった影響と思われるが、何らかの地磁気を妨害する力が働いているのかもしれない。
この異世界にもアナログ式の磁気コンパス、すなわち羅針盤があるのかどうかは不明だが、仮に磁気コンパスがあったとしても、このジャングル内では、全く役には立たないのは間違いない。
俺にしても、スマートフォンのマップ表示に加えて、自分の居る位置が特定できているので、何とか真南にある街道へ向かう事が出来ている状態なのだから。
本当に女神様によって、スマートフォンへ搭載された、ゴッド・ポジショニング・システムとマップ表示に大感謝だ。
緑色の小鬼共との戦闘から二時間ほど歩いた頃だろうか、ジャングルの樹木密度が薄くなってきた。
鬱蒼としたジャングルの感じから、普通の森へと周辺の樹木が少なくなってきており、周囲の明るさも増してきている。
俺は、スマートフォンのマップ表示を確認すると、もう僅か進めば森を抜けて東西に延びている街道が見える距離まで、たどり着いている事が確認できた。
小鬼共との戦闘以後、此処まで魔物や獣にも襲われる事なく進めたのは、この異世界では幸運だったのか、はたまた普通なのかも判らないが、そろそろ休息したいと身体が訴えてきている。
少し森を進むと、視界が一気に明るくなった。やった、やっと森を抜けたのだ。
この異世界では、太陽が西に沈むのか、どうなのかも判らない状態だが、少なくとも真上に太陽はなく少しだけ西の方角へ下がってきている様だ。
また、太陽の大きさも元居た世界、すなわち地球から見た太陽と大きさは殆ど同じだった。
言うまでもなく、太陽は一個しか見えておらず二個も三個も見えてはいない。
月があるのかどうかは、今のところ不明だ。
俺は、森側から少しだけ離れて、草の生えた地面に腰を下ろし水筒から水を飲んだ。
在学中は一般の大学と違い、勉学だけではなく身体を鍛えるのが防衛大学校生だったので、体力には少しばかり自信があったのだが、完全武装の装備でジャングルのサバイバル行軍は、やはり疲れる。
二十分ほどの休息を済ますと、身体が大分楽になったので、立ち上がり再び前進して南の街道を目指す。
少し草原を歩いて行くと、草の生えていない道らしきものが見えてきた。
神殿からの石畳の道と違い、全く舗装はされていないが、土の上には轍らしき跡もくっきりと残っている。
少なくとも馬車か荷車が、この異世界にも存在する証しだ。
街道は、東西に渡って延びているのだが、スマートフォンのマップ表示を見ても完全な直線ではなく、森を迂回しているのか蛇行していたため、街のある東方面の先は、森に隠れて見えなかった。
そのまま街道まで直進するのも面倒なので、ショートカットで最短距離を東へ向かって草原を歩いて行く。
歩きスマホは、絶対に駄目だと言われていた元の世界だが、異世界なら文句を言う奴は居ないだろうと、スマートフォンのマップ表示を見ながら歩き続ける。
そもそも、この世界にスマートフォンが存在するはずもないなと、自分で自分に突っ込みを入れ苦笑した。
スマートフォンの電子コンパスをチェックしてみると、指針はジャングルに居たときと違い正確に南北を示していた。
どうやら、地磁気を妨害していた範囲を抜け出ていた様だ。
元の世界でも富士の樹海では、地磁気が乱れて磁気コンパスが役に立たないという有名な話しが有るが、あれは都市伝説なのだとか。
しかし、このジャングルは富士の樹海の都市伝説が、現実となった地域だったのだろうか。
森に隠れていた東へ延びる街道まで進み、今度は街道の上を東に向かって歩き始める。
街道は、交通量が比較的多いのか、しっかりとと踏み固められてはいるが、轍の跡が何本も残されていた。
暫く歩いて行き、森を迂回した形のカーブを通り抜けた時、遙か前方に馬車が止まっているのが見る。
やった、この異世界での文明人とファースト・コンタクトだ。
俺は、早足に止まっている馬車を目指して、進んで行く。
しかし、馬車に近づくにつれて、馬車が停止している理由が判明した。
馬車の更に前方には、身長が3mは有ろうかという大鬼が三匹、見えたのだ。
既に、「ガァー!」という大鬼の叫び声も聞こえてきている。
大鬼に対して馬車側の護衛だろうか、男性が二人と女性が一人戦闘状態に入っているのも視認できた。
どう見ても馬車側の護衛達は、大鬼達に対して劣勢だった。
男性二人は、大きな剣を振り回していたが、少し小柄の男性は若干逃げ腰気味に見える。
女性の方は、弓を使って馬車の上から大鬼を攻撃していたが、弓から射られた矢は、大鬼の身体に弾き返されている様にも見えた。
俺は、駆け足で戦闘が行われている手前の、馬車が停止している地点まで急行して大声で叫んだ。
「助太刀します! 男性の二人、大鬼から退いてください!」