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城塞都市の傭兵

 俺の発射した9mm拳銃の発砲音に、周辺に居る一般市民や、屋台の店主らの顔が一斉のこちらを向く。

 長剣を頭上に振りかざしていた冒険者風の男も、その剣を止め俺の方を驚いた表情で見ている。

 彼の仲間達も、同様に驚愕の表情で俺を見据えていた。


「何だ、てめぇは?邪魔するなっ!」


 男は、長剣を今度は俺に向けて言い放し、こちらへ向かって歩き出す。

 すると、仲間の冒険者達が、彼の肩を掴んで彼の動きを止めた。


「……軍曹、や、奴はやばい。奴は……ば、ば、爆裂のジョーだ……」

「爆裂のジョーだと?何だそりゃ?」


 仲間の男一人が、軍曹と呼ばれた男の耳元で何やら小声で話しているが、内容までは聞こえて来ない。

 しかし、その話しを聞いていた軍曹と呼ばれた男の表情が、みるみる変化していくのが、はっきりと判った。

 真っ赤な顔で激怒していた表情から、今度は真っ青な顔で驚愕の表情へと変わっていったのだ。


「……ワイバーンを単騎で倒しただと!?」

「そうですぜ、俺も討伐隊に加わっていたから、倒されたワイバーンを見た」

「俺は奴が鉄壁のゴライアスが持つ盾を穴だらけにしたのを、冒険者ギルドでこの目で見たぜ」


 別の男が、そう口を挟むと軍曹と呼ばれる男は、威嚇していた長剣をゆっくりと下げる。


「ゴライアスの持つ鉄壁の盾を穴だらけ……」

「噂では、オーガ三匹を一瞬で抹殺したとも聞いているぞ」


 軍曹と呼ばれた男は、仲間の男達三人から俺の誇張された武勇伝を聞くにつけ、少し後ずさりをし始める。

 俺は、彼らに向かって静かに言う。


「非武装の男性一人に、武装した四人が攻撃するなんて、とっても卑怯だと思うので、それ以上やるなら俺が相手になりますよ」


 俺は、9mm拳銃を彼らに向けて構えた。

 すると、軍曹と呼ばれた男以外の三人が、口を揃えて謝罪の言葉を俺に向かって言う。


「ま、待ってくれ!俺は何もしていない」

「俺もだ。俺は関係ないぞ!」

「奴を地面に倒したのは勢いだ。許してしてくれ……」

「貴方はどうしますか?今、剣を納めるなら、これで終わりにしましょう。続けるなら、次は大怪我しますよ」

「……わ、判った。剣を納めるから勘弁してくれ……」


 軍曹と呼ばれている男は、長剣を腰の鞘へと収めると、

 男達に「おい、みんな行くぞ」と声をかけて、この場から逃げる様にして足早に立ち去って行く。

 俺は、「ふ~」と溜息をつき、地面に尻餅をついている若い男性に手を差し出して言う。


「怪我はありませんか?」

「……ぁりがとぅ……」


 若い男性は、聞こえるか聞こえないかの小さな声で俺の手を掴んでから立ち上がり、礼の言葉を言う。

 「どういたしまして。怪我が無くて良かったですね」と言うと、彼は首を小さく縦に振り「……はぃ……」と頷いた。

 そして、俺に大きく頭を下げてから、無言のまま小走りで立ち去る。


 俺は、手にしていた9mm拳銃のハンマーを戻し、腰のホルスターへと仕舞う。

 すると、後ろに控えていたアンさんが口を開いた。


「ジョー兄さん、その小さな魔法発動器も、爆裂魔法を発動できるんだね。凄いよ」

「うん、護身用の小型なので、威力は小さいけどね」

「はい、これ」


 アンさんは、9mm拳銃から排莢された、9mm弾丸の空薬莢を俺に渡そうとする。

 北の開拓村で、空薬莢の回収を頼んだ事を覚えていたのだろう。


「ありがとう、アンさんにあげるよ。テンダーさんにあげれば喜ぶかも」

「いいの?じゃあアタイが貰うよ」

「うん、いいよ。さあ、食事の続きをしようか」

「うん」


 俺とアンさんは、マルさんの屋台へと戻り、テーブルに向かって樽の椅子へ座る。

 ベルさんの長い耳が、少し震えていた。

 拳銃の発射音で、驚かせてしまったようだ。

 食べかけだった狼人族の郷土料理、お好み焼きを再び食べ始めるが、少し冷めてしまっている。

 すると、屋台からマルさんが、こちらへ向かって歩いてきて、俺たちの皿へ焼きたての、お好み焼きを乗せた。


「凄いな、ジョーさんの爆裂魔法。今でも耳がキーンってしてるさ。さあ、新しいのを焼いたから食ってくれ。爆裂魔法を見せて貰った礼だ。奢らせてもらう」

「いえいえ、五月蠅くして済みませんでした。では遠慮無しに有り難く頂きますね」


 マルさんが追加で焼いてくれた、お好み焼きをほおばると、先ほど食べたものよりも肉が多く入っている。

 「肉多くしてくれましたか?」と尋ねると、「ああ、男は肉を食わないとな」と、笑って応えてくれた。

 ベルさんは、先ほどの一枚も未だ食べ終わっていなくて、「全部、食べられましぇん」と泣きが入る。

 すると、すかさずアンさんが「アタイが食べてやるよ」と言うが早いか、ベルさんの皿からお好み焼きを奪う。


 しかし、あの軍曹と呼ばれていた男は、どうも冒険者では無さそうだ。

 他の三人は、冒険者らしかったし、俺の事を知っていることから、この街に住んでいるのだろう。

 俺は、冒険者ギルドに毎日、顔を出しているアンさんに尋ねてみた。


「アンさん、あの軍曹って呼ばれていた人、冒険者じゃないよね?」

「うん、そうだよ。彼奴(あいつ)は2~3日前から、冒険者ギルドに来るようになった流れ者だよ」

「流れ者?」

「そうさ、流れ者。どうやら、西の城塞都市タースから来た傭兵みたいだよ」

「城塞都市の傭兵か……。だから軍曹って呼ばれていたんだね」

「城塞都市じゃ、冒険者ギルドよりも傭兵ギルドの方がずっと大きいからね。この街じゃ逆だけど」

「へえー、スベニにも傭兵ギルドあるんだね」

「うん、冒険者ギルドの隅っこの方に間借りしているよ」


 そうなのか、何度も冒険者ギルドを訪れていたが、全く気がつかなかった。

 アンさんが言うには、傭兵で食えなくなると、そのまま他の都市へ渡り歩き、冒険者としても活動するのだとか。

 軍曹というと、Iランクのレザー・ランカーとして冒険者ギルドでは扱われるので、特にギルドを複数登録する必要もないとの事。


「でも、あの虐められていた青い髪の男、どっかで見たこと有る気がするよ」

「あ、アンちゃん、私もそんな気がしましゅ……」

「お前達二人もか……。俺も、どっかで会った様な気がするんだが、思いだせねえ」






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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