中央広場
そう俺が提案すると、アンさんが「賛成だよ。アタイ、お腹がぺこぺこだよ」と賛同してくれる。
兎耳少女のベルさんはと言うと、「ジングージ様が、そう仰るならお供しましゅ」と言って、にっこりと笑った。
朝から孤児院と教会で過ごして、色々とマーガレット司教と話しをしていたので、間もなく昼食時だ。
少し三人で歩いて行くと、もう昼時なので中央広場は、大勢の人々で賑わっている。
数多く並んでいる屋台には、昼食時ということも有り、多くの人々が行列を作っていた。
「何処か美味しいところ知っている?」と二人に尋ねると、アンさんがすかさず応えてくれる。
「安くて、お腹が一杯になる屋台をアタイ知っているよ」
「私は、あまり屋台では食べないので知らないでしゅ……」
「じゃ、アンさんお勧めの屋台に行こう。アンさん、案内をよろしく」
「判ったよ、ジョー兄さん、アタイに着いてきてよ」
そう返事を返したアンさんは、北の方向へと進み出す。
俺とベルさんは、迷子にならないようにアンさんの姿を追う。
人が多いので、アンさんの88式鉄帽と、この異世界の人混みでは、逆に目立つ防弾チョッキ2型を追いかける。
しばらく進むと、少し人が少なくなってきて、アンさんが一台の屋台の前で止まった。
「ここだよ、ジョー兄さん」
「よお!アン、暫くぶりだな。元気でやっていたかい。珍しいな、ベルまで一緒とは……そっちの男は、ついに彼氏でも捕まえたか?」
「何、寝惚けた事を言ってんだよ、マル兄貴……。折角、話題の爆裂のジョー兄さんを連れてきたのによ」
「爆裂のジョーだと、あの一人でワイバーンを仕留めたちゅう魔法使いか!?」
「そうだよ、そのジョー兄さんだよ!」
「マル先輩、ご無沙汰でしゅ。ジングージ……ジョー様はオーガ三匹も、お一人で倒されましゅた」
「ベル、その話しは初耳だ。凄いなジョーさん。おっと、初めてだったよな。俺はアンやベルと同じ孤児院出身で、マルドックって言うケチな野郎でさあ。お見知りおきを」
「マルドックさん、初めまして。自分はジョー・ジングージと言います。アンさんやベルさんには、お世話になっております。そうですか、同じ孤児院の出身でしたか。実は先ほどまで、孤児院のマーガレット先生と会っていたところです」
「へぇ~そうかい。マーガレット先生にか……このところ、ご無沙汰しているんで、怒られそうだな……先生、元気だったかアン?」
「元気だったよ。忙しくても、たまには顔ださないと先生が心配するじゃないかよ。駄目だよマル兄貴」
「そうでしゅ、マル先輩。駄目でしゅ」
「悪りい、悪りい、今度行くからよ。で、今日は飯か?」
「そうだよ、ジョー兄さんが、屋台でお昼にしようと誘ってくれたんだよ。だから、マル兄貴の屋台まで案内してきたよ」
「そうかい、そりゃ、ありがてえな。ほんじゃ三人分だな。そこに座って待っててくれ。直ぐに焼くから……ジョーさん、直ぐだから悪りいな」
「はい、お願いします」
屋台の脇には、板と樽を流用したテーブルと椅子が仮設されていたので、俺たち三人は、そこに腰掛け待つ事にする。
マルドック君は、アンさんよりも年上なのは間違いないが、俺よりは年下に見える。
恐らく18歳前後だろう。身体は大きくないが、細身ではない太マッチョな体格だ。
屋台の奥に居る姿は、元の世界で見かける、祭りのテキ屋風の兄さんみたいだ。
暫く待っていると、マルさんが「お待ちどう」と言って、焼き上がった料理の皿を三つ、テーブルの上に並べてくれた。
「熱いうちに食ってくれ」とマルさんは、にかっと笑う。
皿の上にのせられていた料理は、お好み焼きの様な姿をしており、たっぷりとスベニの特産ソースがかかっている。
一緒に出された木製フォークで、早速に切り分けて口に運んでみる。
うん、やっぱり食感も味も、これは、お好み焼きだ。
広島風ではなく、大阪のミックス焼きに近い感じで凄く美味い。
俺は、思わず「美味い!」と口に出す。美味い、そして懐かしい味だ。
この異世界でまさか、お好み焼きが食べられるとは、思ってもいなかった。
「おお、美味いかい。そうかい、そうかい。そりゃ嬉しいなあ」
「ほんとに美味いですよ、マルさん。これは何処の料理ですか?」
「俺の友達から教えてもらったんだけどな。それにスベニのソースを使うと、もっと美味くなるのが判ってよ。なんでも、友達が言うには狼人族の郷土料理なんだとさ」
狼人族か……となると、更にそのルーツは、勇者コジローさんなのかも知れないと、俺は思った。
もっとも、この異世界にもパンはあるし、元の世界と似た料理はあるのだが、殆どが西洋風だ。
日本風のお好み焼きとなると、俺の推理は、間違っていないのではと思う。
と、その時、近くの人混みから、喧嘩をする様な罵声が聞こえてくる。
「おう、てめぇ、なんだその目はよお!」
「人を睨みつけるなんざ、いい度胸してるな!」
「なんか、文句でもあんのかよ!」
「なんとか言え、てめぇ!」
「…………」
冒険者風の四人組が、小柄で細身の若い男性を、取り囲んで何やら言いがかりをつけている。
若い男は、何も言わずに冒険者達を睨んでいるだけだ。
その態度が、更に冒険者達の感情を逆撫でしている様で、冒険者達の口撃が更に強まる。
「ああん、てめぇ、ふざけるなよ!」
「謝りゃ、許してやろうと思ったのによ、ここまで馬鹿にされちゃ、我慢できねぇ!」
一人の大柄な冒険者が、腰に吊していた長剣を抜き、頭上へ振りかざす。
それでも、まだ若い男はおびえる様子も無く、冒険者達を無言のまま睨みつけていた。
剣を抜いた冒険者とは別の冒険者が、若い男を突き倒してしまい、若い男は、尻餅をついて地面に倒れる。
しかし、それでも未だ無言のまま、冒険者達を睨んでいた。
剣を抜いた冒険者は、「この野郎が!」と叫びながら真っ赤な顔をして、振りかざしていた長剣を、若い男に向けて振り下ろそうとしている。
俺は、咄嗟に腰につけていたホルスターから9mm拳銃を抜き、スライドを引きマガジンから弾丸を薬室へ装填し、威嚇射撃を地面に向けて発射した。
バンッ!と弾丸の発射音がし、9mm弾丸の当たった地面から砂埃が舞い上がり、続けて俺は、大きな声で怒鳴る。
「そこまでだ!剣を引け!」




