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八九式中戦車

 俺は、絵画に描かれている戦車が、旧日本陸軍の八九式中戦車である事を一目で認識できた。

 かなり絵画としては、正確な描写がなされており、特徴的な車体や履帯なども忠実に描かれている。

 そして、砲塔から半身を乗り出している、勇者コジローさんの姿も確認できた。


 勇者コジローさんの姿は、旧日本陸軍のカーキ色をした軍服の上着に同色の鉄帽、残念ながら顔は、ゴーグルが描かれていたので、詳細までは把握できない。

 そして何より驚いたのは、八九式中戦車が勇者コジローさんが乗った一輌だけではなく、背後に複数の八九式中戦車も描かれていた事だ。


 背後の八九式中戦車は、砲塔から同様に戦車長と思われる人物が描かれている。

 そして、その人物達は、獣人族――犬獣人か、狼獣人か不明だが――や、エルフ族、ドワーフ族と思われる人物として描かれていた。

 彼らは、鉄帽やゴーグルをしておらず、種族の特徴がはっきりと描かれている。


 絵画に描かれていた八九式中戦車は、複数確認でき、勇者コジローさんの乗った八九式中戦車が一番大きく描かれ、その背後に描かれている獣人族、エルフ族、ドワーフ族の戦車長の乗る八九式中戦車が、少しだけ小さいが、戦車長の人物像もはっきりと確認できる。

 それに対して、その更に後方に描かれていた八九式中戦車は、人物までは確認できない位、小さく描かれていた。


 描かれていた八九式中戦車の総数は、勇者コジローさんが乗る車両を含めて全部で六輌。

 無限収納から召喚をすれば、同様の事も俺もできる。

 恐らく、勇者コジローさんの持っていた女神様の加護は、俺と同じ無限収納スキルだったのだろう。

 しかし、疑問点が一つある。

 何故、仲間の方々が、召喚された八九式中戦車を運用できたかという点だ。


 先日、ドワーフのテンダーおっさんに頼まれ、偵察用オートバイの運転をさせたのだが、上手下手はさておき、転びはするが運転らしき事はできた。

 そこで俺は、無限収納から召喚された装備は、車両や武器を問わずに、この異世界の人でも使用可能だと思い込んでいたのだ。


 しかし、それは全てが使用可能では、無かった。

 89式小銃を召喚し、テンダーおっさんに試射してもらったのだが、安全装置を外してあるにも関わらず、引き金を引いても弾丸は発射されなかった。

 単発はもちろんの事、3点バースト、フルオート、全てのモードで弾丸は発射されなかったのだ。

 テンダーおっさんは、「勇者のキカンジューと同じじゃな」と言っていたが。


 89式小銃の故障では無いかと疑い、俺がその銃を撃ってみると、問題なく弾丸が発射される。

 つまり、攻撃用の武器に関しては、この異世界の人々では扱う事が出来ない仕様となっているのだ。

 とすれば、勇者コジローさんが召喚した八九式中戦車も同様に、仲間の方々が動かす事はできても、砲弾や機関銃の発射は、出来なかったのではないだろうか。


「マーガレットさん、勇者コジローさんと一緒に戦われたお仲間の方々も、鉄の箱車(・・・・)で、魔王軍を攻撃されたのですか?」

「はい、ジングージ様、伝承ではその様に伝わっております。特に狼人族の戦士様と、ドワーフ族の戦士様は、鉄の箱車(・・・・)を上手に扱われ、勇者コジロー様にお褒め頂いたと伝承されております」

「勇者コジローさんの召喚した鉄の箱車は、全て回収されてしまったのですか?」

「いいえ、狼人族の里とドワーフ族の里に、今でも残されていると聞いております。どちらも門外不出で、族宝として扱われているのだと聞き及んでおりますので、私も拝見した事はございません」

「なるほど……それで、ドワーフのテンダーさんは、鉄の箱車を見る機会があった訳ですね……」

「テンダーギルド長からは、頂いた鉄の箱車を今一度動かそうとしても、動かす事が出来なかったと伺っております」

「はい、ありがとうございます。その他、勇者コジローさんに関する事で何かご存じでしょうか……例えば、苗字……家名とか?」

「勇者コジロー様は、家名をお持ちであった事は間違いありませんが、残念ながら伝承では伝えられておりません」

「そうですか……エルフ族では、今でもご存命のお仲間が居るとの事でしたので、商業ギルドのエルドラ副会長に、詳細な情報が判れば連絡を頂ける事になっております。マーガレットさんも、ご面倒だと思いますが、なにか情報があれば、お教え下さると大変に有り難いのですが……」

「承りました。この教会には、詳細な記録は残っておりませんが、教会本部には記録が残っておりますので、私も問い合わせをしてみましょう」

「恐れ入りますが、よろしくお願いします……加えてお願いなのですが……教会本部には、自分の事を出来れば隠して頂けないでしょうか?」

「……はい、それが使徒様のご依頼とあらば、このマーガレットしかと承りました」

「ありがとうございます。何れお話しても構わない時期が来たならば、その際にはマーガレットさんに自分からお知らせしますので……」

「はい、その時を楽しみに、お待ち申し上げております」


 マーガレット司教とは、その後も色々な話しをさせて頂いた。

 この教会と個人の運営は、殆どを寄付に依存しており、各ギルドからや個人の寄付で運営されているという。

 また、孤児院を出た独り立ちした者は、ささやかながら律儀に寄付を欠かすことが無いとの事。

 アンさんやベルさんも、それに違わず依頼報酬や給金の一部を、寄付していると言って笑っていた。


 15歳のアンさんやベルさんまで寄付していると聞いて、俺も大人の立場というものがある。

 なんたって、今は金持ちなのだから……。

 俺は、財布から金貨を20枚ほど取り出し、それをマーガレット司教へ「自分からの寄付です」と言って渡す。


 マーガレット司教は、「使徒様から寄付を頂くなど……」と言って辞退されていたが、「自分はオーガやワイバーンを討伐して、お金は持っていますから」と、マーガレット司教には受け取って頂く。

 そして、「また、寄らせて頂きます」と言い、教会を後にした。


 アンさんとベルさんも、俺と一緒に教会を後にしたのだが、二人ともこれまでとは違い、なんとなくよそよそしい。

 やはり、俺が女神様の加護と祝福を持つ、女神様の使徒と知ったからだろうか。

 俺は、気分転換をと思い、中央広場の方へ向かい二人に言う。


「お腹すいたよね。一緒に屋台で何か食べていこうよ」






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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