討伐隊到着
本日二話目です。
「ジョーさん、ワイバーンやっつけたの?」
「まだ判らないから、アンさんは隠れていて!」
「うん……」
俺は、爆煙が晴れて、その巨体を晒しているワイバーンへ、一歩一歩ゆっくりと近づく。
と、ワイバーンの長い尾がピクッと動いた。
こいつ、未だ生きているのか。
俺は、直ぐに89式小銃の銃身へ装着してあった06式小銃擲弾を取り外し、ワイバーンの頭部へ狙いを定める。
ワイバーンの翼は、06式小銃擲弾の爆発によって、既にボロボロだった。
身体にも無数の傷跡が出来ており、そこから鮮血が流れ出している。
しかし、まだ生きているとは、何という生命力を持ったモンスターなのだろうか。
ワイバーンは、ゆっくりと鎌首を持ち上げ様としたが、再び地面へ首を下ろす。
「クェ~……」と甲高い声で鳴き、そのまま静かになった。
やっと仕留めたのだろうか。
俺は、無慈悲とも思えたが、念の為にワイバーンの頭部へ向け89式小銃を発射する。
しかし、ワイバーンの身体はピクリとも動くことはなく、奴が絶命した事を物語った。
「ふ~、やっと終わった……」
俺の溜息に釣られたのか、アンさんが小屋の中のテーブルの下から、俺に向かって走り寄ってくる。
と同時に、広場の周りの集落から「やったぞ!」、「凄い爆裂魔法だ!」、「うぉ~、やったぁ!」と、村人達の歓声が聞こえてきた。
側まで走ってきたアンさんが、満面の笑みで俺に抱きついてくる。
「ジョーさん、やっつけたよ!、一人でワイバーンを倒したよ!」
「ちょっ、アンさん、危ないよ」
「凄い、凄いよ!、最後の爆裂魔法、アタイの耳が暫く聞こえなかったよ」
「落ち着いて、アンさん。……で、自分の身体から離れてくれると嬉しいかな……」
「あっ!ゴメンよ。嬉しすぎて、もう身体が勝手に……」
そう言って、俺に抱きついていた腕を解くアンさん。
そして、彼女の顔は茹で蛸の様に真っ赤だ。
村人達も、それぞれが歓喜に満ちあふれた表情で、家々から出てきて俺の周りに集まってきた。
その中には、村長のロウトさんの姿もあり、俺に近づいてくると両手で右手を強く握り、「有り難うございました。ジョー殿」と、涙を隠す事なく礼を言うのだった。
俺の周りには、硝煙の臭いが立ちこめていたが、それを気にする事もなく村人達が賞賛をしてくれる。
そろそろ、日の出から3時間ちかく経過してるので、警備隊の騎馬部隊も到着する頃だろうか。
俺は、アンさんに、周りに散らばったNATO弾の空薬莢を拾い集めて欲しいとお願いすると、彼女は、「うん、任せてよ」と笑い、空薬莢を集め始めた。
自衛隊の訓練では、発射した銃弾の全ての空薬莢を回収する。
しかし、此処は異世界なので、そのまま破棄しても問題にはならないのだが、ドワーフのテンダーおっさんが、冒険者ギルドでの試射の後、空薬莢を回収して再利用すると言っていたので、彼へのプレゼントだ。
恐らく、真鍮を溶かして再利用するのだろう。この異世界では、亜鉛が貴重なのかもしれない。
村長のロウトさんから、朝食の準備が出来ているのでと、家に招かれたのだが、もしもワイバーンが番だった場合、再度の戦闘になるかもしれないので、井戸の側の小屋まで運んでもらう事にする。
警戒しながらの食事になるが、家の中でのんびりと食事出来る状況ではない。
俺とアンさんは、小屋で運んでもらった朝食を食べていると、村の門の方から「ヒヒ~ン」と馬の嘶きが聞こえてきた。
広場の東側を見ると、複数の馬に跨った警備隊や冒険者の姿が見える。
スベニの街から、騎馬隊の冒険者や警備隊の方々による討伐隊が到着したのだ。
村人の男性が、門になっている方へ走って行き、扉となっている柵を開く。
直ぐさま20頭ほどの馬に跨った精鋭達が、広場へと入ってくる。
先頭の馬には鎧に身を包んだ、門番をしていた女性警備兵のアマンダさんが乗馬している。
どうやらアマンダさん、単なる門番のチェック係ではなく、警備隊の中でもそれなりのポストに座っているらしい。
そして、それに続くのは、冒険者ギルドのギルドマスター、アルバートさんだった。
ただ……。
アルバートさんの後ろには、ちっこいおっさんのテンダーさんが、ちゃっかり馬に跨っている。
二人の乗りかよ、馬が可哀想だろうに……。
更に、その横には、冒険者のギルバートさんが続いて、その後方には、商業ギルドの副会長、エルフのエルドラさんが、始めて見る鎧姿で乗馬している。
美しい金髪が後ろへ靡いて、まるで西洋絵画の様に見えた。
やっぱり、ファンタジー異世界のエルフ族は、半端無く美しい。
エルドラさんの後からも、続々と冒険者と警備兵の混成討伐隊が、こちらへ向かってきている。
「小僧……ジョー、一人でワイバーンを倒したのか……」
「はい、テンダーさん、危ないところでしたが、何とか仕留めました」
「ジングージ様、お怪我はありませんか?」
「はい、アマンダさん、お陰様でアンさん共々、怪我は皆無です」
「ジョー、お前ぇは本当に凄ぇなぁ……あの爆裂魔法かぁ?」
「いいえ、アルバートさん、別の爆発弾を使いました」
「別の爆発弾だと、そんな魔法は聞いたこともねぇぜ、ジョー」
「はい、ギルバートさん、未だ誰にも見せていませんでした」
「さすが、ジングージ様、勇者コジロー様に縁のアズマ国出身ですね。敬服します」
「いいえ、本当はエルドラさんやテンダーさんの魔法攻撃を待つつもりでしたが、幸いにも倒せただけです」
本当に俺一人で倒せるとは、全く思っていなかったし、エルドラさんの風魔法も見てみたかった。
エルフ美女の放つ、優雅な風魔法を見てみたいな。
続々と馬から下りてきて、俺に賞賛を浴びせてくる冒険者と、警備兵による討伐隊皆さん達。
俺は、アンさんが集めた空薬莢の入った麻袋を、テンダーさんへ持って行くように頼む。
それを受け取ったテンダーのおっさんは、俺の方を見てにやりと笑った。
更に皆さんへワイバーンが番かもしれないと伝えると、「判っている」とアルバートさんが応えてくれた。
そうか、この異世界では常識だったのか。
すると、エルドラさんがワイバーンの素材をどうするのか、俺に尋ねてくる。
なるほど、これも素材になるのか……。
俺が「お任せします」と応えると、エルドラさんは、微笑んで「任されました」と言う。




