女神の加護と祝福
女神様に頂いた"加護"と"祝福"は、どちらも似たような事だと俺は思うのだが、違うのだろうか?
具体的な説明までは聞かなかったのだが、少なくとも"女神様の加護"による能力があれば、この異世界でも何とか生き抜けそうな感じがする。
しかし、"女神様の祝福"の方は、特に能力が発動する事もなく、使い方が全く判らない。
(まぁ、追々調べれば良いだろう……)
取り敢えず俺は、着衣を下着だけ残して、全て無限収納へ収納した。
そして、無限収納から、自衛隊標準装備品を全て召喚する。
迷彩服3型、戦闘靴2型、88式鉄帽に着替え、念のために防弾チョッキ2型も着込んでおく。
武装は、9mm拳銃と89式多用途銃剣をベルトへ装着し、89式小銃を肩に担ぐ。在学中の訓練では、何度も着用した事のある陸上自衛隊員のスタイルだ。
予備の弾丸マガジンも、防弾チョッキ2型へ収納しておき、弾丸切れに備えた。加えて戦闘装着セットの中から、背嚢を取り出し、忘れずに戦闘糧食I型を入れる。
その他、必要と思われる装備品も収納しておく。
もちろん、水も忘れる事なく、ベルトへ水筒2型を装着。
(おっと、スマホもインベントリーへ入れちまった)
再び"女神様の加護"を発動して、無限収納のフォルダーを表示するとインベントリーの個人所有品フォルダ内に、愛用のスマートフォンは収納されていたので、これを召喚する。
これで万が一スマートフォンを無くしても、スペアを何時でも召喚出来るので問題が起きないのは嬉しい。
女神様が元の世界と通信する事は出来ないが、俺の位置を常時把握しておきたいので地図機能は使えると言っていた。
当然GPS衛星は、この世界には存在しないのだが、言わばゴッド・ポジショニング・システムと言ったところだろう。
スマートフォンのマップ表示アプリを起動すると、自分の位置を中心に地図が表示された。
どうやら、この神殿を中心に森が取り囲んでいる様だ。
取り敢えず、現在位置を"女神様の神殿"としてマップへ登録しておく。
マップ表示上には、神殿から真南に向かって道が延びているのだが、森の途中で途切れていた。
そして、更に南には東西に伸びる別の道が表示されていたので、マップ表示を広域にしてみる。
すると、道の遙か東方面に、街らしき場所が表示されていた。
何時までも、この神殿に居ても仕方がないので、俺は道に沿って南下して、東にある街を目指してみる事にする。
準備は完了しているので、コンビニのポリ袋と空になったカツ丼弁当の容器、ペットボトルを無限収納へ収納。
そして俺は、女神様の石像に向かって頭を下げ言った。
「女神様、自分は旅立ちます。色々と有り難うございました」
女神様は、この神殿がこの異世界で最も安全な場所だと言っていた。
恐らくは、この神殿を女神様の結界かなにかで魔物などを防いでいるんだろう。
俺がこの神殿の外に一歩でも出れば、危険な魔物や怪獣などが襲って来るのかもしれない。
しかし、何時までも此処に引きこもっている訳にはいかないだろう。
この異世界で、俺に何が出来るのかは全く判らないが、折角二度目の命を女神様に頂いたのだ。
この異世界で第二の人生を謳歌する事こそが、女神様に対する感謝になるのだと俺は思う。
女神様の神殿から外へ出ると、荒れ果てた石の建造物が散乱していた。
何者かに破壊された様な痕跡もあり、過去にこの場所で大きな戦闘があったのではないかと思われる。
スマートフォンのマップ表示とコンパスが示す南へ進んでいくと、森というよりもジャングルへ向かって石畳の道が一本だけ延びていた。
石畳の道には、石の隙間から雑草が生い茂っていたが、両脇に生い茂るジャングルの樹木と比べれば、徒歩で進むには、全く問題は無いのが有り難い。
俺は、その石畳の道を真南に向かって歩き始める。
先ほどまでは、ジャングルが開けた場所だったので明るかったが、両脇をジャングルの樹木が生い茂っているため道は、かなり薄暗かった。
道幅は、4mから5m位あるだろうか。
周囲を警戒しながら1時間ほど進んで行くと、石畳の道が途切れてしまった。
スマートフォンのマップ表示を確認すると画面に表示されていた道も、ここで途切れていたので石畳の道は、此処までという事なのだろう。
これからは、ジャングルの中を進まねばならない。
ベルトに装着してある89式多用途銃剣を抜いて、それを89式小銃の銃身へ装着した。
カチャッと小気味よい音が聞こえ、しっかりと銃身に銃剣が装着出来たことを確認する。
訓練中は、教官殿に何度も叱られた事を思い出し、思わず苦笑した。
基礎訓練の時は、今時の戦闘で銃剣なんてと思っていたが、自分の命を守るサバイバルともなれば、そういった基礎を叩き込んでくれた教官殿に感謝だ。
89式小銃の弾丸をコッキングしてチェンバーに装填しでおき、射撃モードはスリー・ショット・バースト・モードへ安全装置のレバーを回す。
石畳の道を進んでいた時は聞こえていなかった、得体の知れない鳴き声も聞こえてくる。
鳥か魔物かは全く不明だが、とても不安にさせる鳴き声だ。
警戒しながら進むのは、ストレスによる緊張感が半端ではない。
ましてや、ジャングルの樹木が日の光を殆ど遮ってしまっているので、恐怖感も最高調だ。
スマートフォンのマップ表示を見ながら南へ向かって少し進むと、ジャングルの木々が少なくなった。
地図上では、まだ森を抜けるまでの距離は大分ありそうだが……。
ジャングルの中を少し進むと、突然「ギャアー!」と叫び声をあげながら、緑色の小鬼が襲いかかって来た。
俺は、手にしている89式5.56mm小銃を、襲いかかろうとしている小鬼に向け、スリー・ショット・バースト・モードで発射する。
ダダダッ!と89式小銃が火を噴くと、小鬼は「グギャ!」と声を発し、緑色の血しぶきを撒き散らしながら倒れた。
しかし、直ぐに別の緑色の小鬼が大挙して襲いかかって来る。
そいつらに向けて、今度は89式小銃をフルオート・モードで連射し、俺は難なく小鬼共を殲滅した。
「とんでもねえ世界だな、ここは……」
思わず俺は、悪態を声に出してしまいながら溜息をついたのだった。
そして、こんな状況になってしまった顛末を思い返しながら、ジャングルを抜けるために前進を再び開始する。