夜間走行
本日二話目です。
「アン姉ちゃん……怖かったよ~。えぇ~ん」
北の開拓村の子供が走り寄って、アンと呼ばれた冒険者の少女に泣きながら抱きついた。
何だか、断り切れない雰囲気になってきた。
俺が、これから移動に使用する乗り物は、一人乗りだ。
しかし、それは自衛隊仕様であって、オリジナルは二人乗れる。
幸いアンと呼ばれる少女は小柄なので、俺は、何とか乗れるだろうと思い彼女に伝える。
「判りました。アンさんと言いましたね。村までの道案内をお願いします」
「えっ、アタイを連れてってくれるの!?足手まといにはならないよ。ありがとう!」
「時間が惜しいので、自分達は早速出発しましょう。北の城門へ行けばよいのですか?」
「よし、俺たちが北門までは馬車で送っていくぜ」
「ギルバートさん、よろしくお願いします」
ギルバートさんに連れられて、俺たちは冒険者ギルドの裏口へと出る。
商業ギルドと同じ様に、そこには馬車を止めるための駐車スペースが設けられていた。
一台の幌馬車風の馬車へ近づき、ギルバートさんが業者席へと飛び上がると、「さあ、皆乗ってくれ。直ぐに馬車を出すぜ」と言い、俺たちを手招きする。
幌馬車の後部から俺は、馬車に乗り込むと、続いて冒険者の少女アンさんが飛び上がって乗り込む。
更には、冒険者ギルドのマスター、アルバートさん、商業ギルドのアントニオ会長、そして生産者ギルドのテンダーさんまでもが乗り込んできた。
うん、テンダーさん、やっぱり着いてくるんだね。
正直、彼には余り見せたくない物を召喚するので、出来れば遠慮して欲しかった。
しかし、テンダーさんは遠慮してくださいとは、口が裂けても言えない。
俺たちが馬車に乗り込んだのを、ギルバートさんが御者席から確認すると、「じゃあ、馬車を出すぜ」と言って、冒険者ギルドを出発した。
既に日が沈みかけており、空は薄暗い。
馬車は、20分ほどスベニの街を、かなりの速度で走り抜けて目的の北城門へと到着する。
未だ城門の扉は、開かれたままで、恐らく太陽が完全に沈むと城門は閉ざされるのだろう。
「さあ、着いたぜ、ジョー!」とギルバートさんが、幌の内部に向けて叫ぶ。
俺は、「はい!」と応えてから、幌馬車を飛び降りた。
他の人々も同様に馬車の外へと、続々と降りてくる。
ギルバートさんは、御者席から飛び降りると、門番の警備兵へ「もう少し城門を閉じるのを待ってくれ」と頼んだ。
警備兵は、最初こそ胡散臭そうな表情をしたが、馬車から三つのギルドの長達が降りてくるのを確認したのか、「はい」と敬礼をして応じてくれる。
俺は、"女神様の加護"を発動して無限収納より、今日可能になったばかりの車両フォルダーから、偵察用オートバイを召喚した。
偵察用オートバイは、偵察や連絡に用いられるオフロード・タイプのオートバイで、オリジナルはカワサキのKLX250だ。
オフロード・タイプなので舗装されていない、この異世界の街道や道でも難なく走行することが可能だ。
自衛隊仕様では、一人乗りであるが、オリジナルのKLX250は二人乗りなので、アンさんを後ろに乗せても問題は無いだろう。
ただし、オリジナルのKLX250には、ちゃんとしたシートが後部にも装備されているが、自衛隊仕様は、荷台になっており、そのまま人が乗ると尻が痛くなるのは必至だ。
とは言え、この異世界の荷馬車や、先ほどまで乗っていた幌馬車には、サスペンションが装備されておらず、乗っているとかなり尻が痛くなる。
箱形馬車には、簡易的ながらサスペンションが装備されていたのだが、やはり金持ち向けだからか。
俺が召喚した偵察用オートバイに、一緒に来た三人のギルド長や、ギルバートさん、アンさん、そして門番さんも、かなり驚いていた。
そして、やはり食いついてきたのは、生産ギルドの長であるドワーフのテンダーさんだった。
「小僧……ジョー、それはなんじゃ?車輪が前後に2個しか着いておらんではないか」
「これは……鉄の馬です。二輪車とも呼びます。そして、こう乗ります」
俺は、KLX250のスタータ用キックを、勢いよく蹴り下げた。
偵察用オートバイは、快適なエンジン音を響かせ、ドドドドド……とエキゾーストから排気音を響かせる。
そのまま俺は、クラッチ操作をしギアを入れアクセルを回し、その場で偵察用オートバイを発進させて直ぐにターンさせた。
「おお~!」
「走ったぞ」
「凄い音ですな」
「……勇者の乗っていた鉄の箱車と同じじゃ」
やはり、テンダーさんは、勇者の乗っていたという、鉄の箱車を知っていたのか。
俺は、偵察用オートバイのヘッドライトを点灯した。
「明るい!」
「何だ、魔法の光かぁ」
「凄い明るさですな」
「なるほど、この明るさならば、夜道も走れるわい。小僧……ジョー、その鉄の馬はどれ程の早さじゃい?」
「馬の3倍は速いです。しかも休ませる必要もありません。さあアンさん、後ろに乗ってください」
「……あっ、アタイ驚いて声が出なかったよ。じゃあ、乗るよ」
アンさんは、そう言うと偵察用オートバイの後部へ装備されている、鉄パイプ製のキャリアに跨った。
俺は、89式小銃のストリングを、肩から襷がけにして、銃本体を背中に回していたので、彼女が背中に張り付いて来ることはない。
しかし、バイクの振動で彼女に当たってしまうかもしれないので、気をつける様に注意すると「わかったよ」と応えた。
また、"女神様の加護"を発動して無限収納から88式鉄帽を召喚し、彼女へ被る様に指示する。
ストラップの止め方が判らない様だったので、俺が止めてやることにした。
少しサイズが大きいが、仕方ない。
更に無限収納から装備のゴーグルを召喚し、それを俺は装着する。
89式小銃を背中に回したので、背嚢は前面に抱く形で装備した。
皆が居なければ、89式小銃も背嚢も無限収納へ仕舞い込んでしまうのだが、怪しさが更に増して疑われてしまうので、それは出来ない。
俺は、アンさんへしっかりと俺の身体に捉まる様に言ってから、偵察用オートバイのクラッチを切りギアを入れ、アクセルを一吹かししてから見送りの皆へ言う。
「では、自分達は出発します。皆さんも明日は気をつけて来てください」




