討伐隊北へ
「ワイバーンの襲撃だとぉ!お前の村は何処の開拓村だ?」
「北の開拓村だよ。街道の定期便馬車に乗せてもらって、さっきスベニに着いたばかりさ……ぐすん……」
「で、警備隊へはもう知らせたのか?」
「未だだよ……村長さんから冒険者ギルドへ行って、ギルドマスターへ報告しろって言われたんだ……」
「そうか、判った。誰か!、急いで北の開拓村がワイバーンの襲撃を受けていると、警備隊へ知らせてこい!」
「はい!」
アルバートさんの指示を受け、冒険者ギルドの受付嬢が一人、玄関ロビーから走り去って行く。
何なんだ、ワイバーンの襲撃って?
どんなモンスターなのか、俺は、この手のファンタジー異世界の定番を良く知らない。
こんな事なら異世界ファンタジー小説を、もっと読んでおくんだったよ。
「アルバートさん、ワイバーンって、何ですか?」
「ジョーは知らなかったか……すまん、迷い人だったな。ワイバーンってのはよぉ、飛行する小型のドラゴンだ。大型のドラゴンに比べちゃ、小せぇし比較的弱いがなぁ。それでもオーガより始末が悪りぃのは、飛ぶって事と鱗が鋼の様に硬てぇんだ」
「そうですか……それで人を襲うと?」
「あぁ、人を襲って食っちまう。で、一度でも人の味を覚えやがると、その場所へ必ず戻ってきて、また襲撃してくるんで厄介なんだ」
アルバートさんの説明で、何となくワイバーンを想像できた。
飛行するという事は、鳥類のモンスターかと思ったが、どうやら爬虫類のモンスターらしい。
イメージ的には恐竜に近く、翼竜のプテラノドンに似ているのだろう。
しかし、説明に出てきた大型のドラゴンって、この異世界には、ドラゴンまで生息しているのかよ。
「よし、此処にいるメタル・ランカーは全員、ワイバーンの討伐へ参加しろ。レザー・ランカーでも魔法を使える者は全員参加だ。いいなぁ!」
「儂も行ってやるぞい」
「ありがてぇ、テンダーさんの火炎弾なら、ワイバーンにも対抗できるぜぇ」
「ふん、ワイバーンが降りてこん限りは、儂の火炎弾も届かんわい」
「俺も行くぜ!ギルマス、剣が折れちまった。ギルドのを貸してくれ」
「構わんぞ、好きなのを持って行け」
こんな事態になると判っていれば、もう少し手加減したのだけれど、今更ながら後の祭りだ。
俺は、ゴライアスさんへ謝罪することにする。
「申し訳ありませんでした。自分の攻撃で……」
「お前が悪いんじゃねぇよ。俺が馬鹿だっただけさ」
そう言うと、ゴライアスさんは、俺に右手を差し出してきた。
俺も手を差し出して、彼の手を握り握手をする。凄い握力だった。
ギルバートさん以上の握力だが、ゴライアスさんは俺に微塵も威圧的ではなく、寧ろ好意的な笑顔を見せた。
この人、喧嘩早いけど遺恨は、残さない良い人みたいだ。
「商業ギルドとしても、協力させていただきますぞ。馬車は必要なだけ用意しましょう。それから、副会長を参加させます。ご存じのとおり、彼女は風魔法の使い手ですからな。お役にたつ事でしょう」
「おぉ、すまねぇなぁ、アントニオ会長。そうしてもらえると助かる」
アントニオさんも、そう言って協力を申し出た。
それにしても、エルフ美女のエルドラさん、風魔法の達人だったのか。
やっぱり、エルフって凄いな。
ドワーフのテンダーさんは、火魔法だったけど、凄い火炎弾だったし、風魔法って事は竜巻でも起こすのだろうか。
だとすれば、飛行するモンスターには、有効だろう。
「で、兄貴よ、警備隊も出動するんだろうから、今から出るのか?」
ギルバートさんが、アルバートさんへ尋ねると、アルバートさんは、首を横に振る。
「いや、ギル。もう日が沈んじまう。出動は明日の明朝、日の出と同時だ。警備隊も装備を備えるとなると、同じだろうよ」
「そうだな……ワイバーンも、余程の空腹でない限り、夜襲はしねぇだろうからな。判ったぜ」
「すいません。自分は判らないのですが、北の開拓村って、此処……スベニから、馬車や馬でどのくらいかかるのでしょうか?」
「馬車なら6時間くれぇかな。馬なら途中休ませねぇといけねぇが、2時間半ちょいだなぁ」
「そうですか、ならば自分がこれから先行して出発します」
「はぁ~?ジョー、何いいだすんだぁ。夜は馬じゃ走れねぇ」
「大丈夫です……これから、直ぐに出ます。村への道は、北への街道を進めば良いのですか?」
スマートフォンのマップ表示とゴッド・ポジショニング・システムで、何とかかなるだろうと俺は考えた。
夜間でも走れる装備も、女神様から今朝方もらっている。
俺は、アルバートさんへ、警備隊と冒険者の混成討伐隊が明日の夜明けの出発では、夜明けにワイバーンが村を襲えば間に合わない。
ならば、俺だけでも先行して守備に入れば、少なくとも時間稼ぎにはなる。
そう説得すると、渋々だが了承してくれた。
「なら、アタイを連れてっておくれよ。北の開拓村までなら道案内できるよ」
そう声がした方向を向くと、冒険者達の人混みの中から、中学生くらいの女の子が現れた。
15歳前後だろうか、栗色の長い髪を後ろで一本に束ねたポニーテールにしている可愛い少女だ。
服装は、革製の胸当てをしているだけで、革鎧姿ではない。
腰には、短い剣を下げており、背中には弓を背負っている。
「北の開拓村はアタイの生まれ故郷さ。人ごとじゃないよ!」
「アン、おめぇは未だウッド・ランカーだ。危ねぇから駄目だぁ」
「足手まといには、ならないよ。村まで道案内をするだけさ」
「……他に、北の開拓村出身者はいねぇのか?」
ギルド・マスターの質問に冒険者からは、誰も答えがなかった。
俺一人でも、十分行き着ける自信はある。
ただし、女神様のアイテム頼りではあるが……。
冒険者らしいが、まだ幼さも残っている少女を、危険な目に遭わせるのは、どうかと思う。
丁重にお断りしたいところだが、アンとギルド・マスターに呼ばれた少女は、更に食い下がる。
「前に村をワイバーンが襲った時……アタイの幼なじみがワイバーンに攫われちまったんだよ!。また、村の誰かがワイバーンの餌になっちまうなんて、アタイは嫌だよ!」




