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開拓村の危機

「いえ、この状況ならば誰も怪我をしませんし、死亡する様な事もありません。自分も鉄壁の盾(・・・・)へ挑戦させて頂きます」

「いいじゃろう、ではジョー、やってみるがいい」


 俺は、テンダーさんが攻撃した場所まで行き、肩にかけていた89式小銃を手にする。

 それから、畳んであった二脚を広げてから地面へ身を伏せた。

 俺の場合、立射よりも伏射の方が命中精度が上がる。

 銃を構えた際の腕のブレが少なくなるのは、鍛え方が足らないからなのだろう。

 俺は、立射も伏射も変わらない命中精度を保つ、射撃の名手では無いのだから。


 89式小銃の安全装置を、"()"から"()"に切り替える。

 命中精度からいえば、当然ながら単発の"()"にすべきなのだが、今回の場合は連射による破壊力と音響効果を狙う。

 "()"のスリー・ショット・バーストを複数回発射しても良いのだが、連続連射音の効果に期待だ。


 慎重に鉄壁の盾の中心部へ狙いを定め、(おもむろ)にトリガー引く。

 ダダダダダダッ!……、1分間に約700発の弾丸を発射可能な89式小銃が吠えた。

 マガジン内の30発の5.56mmNATO弾を、あっという間に打ちつくして最後に発射された弾丸のブローバックにより、89式小銃はカシーン!と音を立てホールド・オープンした。


 修練場の周りを埋め尽くしていた野次馬冒険者達は、開いた口が塞がらない者や、「何だあれは……」と叫ぶ者など、皆が驚いていた。

 既に89式小銃の実射を知っているギルバートさんは、平然と的になった鉄壁の盾を見つめていたし、ハンナさんはちゃっかりと耳を押さえていた。

 彼女の隣には、何時の間に来たのだろうか、ガレル君の姿も見える。


 ドワーフのテンダーさんも、的になっていた鉄壁の盾を凝視して、何かを考えている様な雰囲気だ。

 顔は、決して笑っていなかったので何か凄く嫌な予感がする。

 鉄壁の盾の持ち主であるゴライアスさんはというと、誰よりも驚愕した表情をして「お、お、俺の盾が……」と、その場に座り込んでしまった。


 89式小銃の的となった鉄壁の盾はといえば、蜂の巣状態で穴だらけになって地面に倒れていた。

 鉄壁の盾の支えとして、地面に突き立てられていた剣は、無惨にも中央ぐらいからポッキリと折れてしまっている。

 そして、水が満杯の木製の樽に着せられている金属鎧は、穴だらけとなって、その穴から樽の中の水が勢いよく噴き出していた。


 冒険者ギルドの修練場は、暫くの静寂の後に「うぉー!、凄ぇ~」、「爆裂魔法って、初めて見たぞ!」、「鉄壁の盾が穴だらけなんて、信じられん」、「凄い魔術師だな、あいつ」、「あの魔法なら、オーガなんて敵じゃねぇな」、「ジョーって名前らしいぞ」などと、野次馬冒険者達の賞賛の声で満ちあふれた。

 恥ずかしかったのは、爆裂のジョー(・・・・・・)なんて、如何にも中二病的な二つ名も聞こえてくる。


 そんな、冒険者達の歓声が少し静まってから、ドワーフのテンダーさんがゴライアスさんへ近づいていき、彼の肩へ手を置いてから言った。


「ゴライアス、これで判ったな。儂の火炎弾を弾いても、小僧……ジョーの爆裂魔法は、鉄壁の盾でも防げん。もしも、模擬戦闘をやらかしていたら、あの穴だらけの樽がお前だぞい。水の代わりに、お主の血が噴き出しておったじゃろうて」

「……テンダーさん……すまねぇ」

「ふん、お前が阿呆なのは昔からじゃ。これに懲りて、もう馬鹿をするんじゃないぞえ。これでジョーがオーガ三匹を簡単に仕留めたのも納得じゃろ?」

「ああ、俺が間違ってた。……テンダーさん、鉄壁の盾は、直るのか?」

「まあ、大丈夫だろうて。修理代は高く付くが、儂に任せておけ。後で工房へ持って来い」


 テンダーさんは、ゴライアスさんと話し終わってから俺の元へとやってきて、にやりと笑う。

 89式小銃の周辺には、排出されたNATO弾の薬莢が散らばっており、テンダーさんは、その薬莢の一つを手に取る。

 そして彼は、俺を手招きしたので、俺はその場で立ち上がってからテンダーさんと向き合った。

 小さな声でテンダーさんは、俺だけに聞こえる様に言う。


「小僧……ジョー、それはキカンジューだな。まあ、この場では爆裂魔法にしておいてやるわい。儂への礼は高いぞ。ふぉふぉふぉふぉ」


 なんと、テンダーさんは、機関銃を知っていた。

 この異世界にも、機関銃があったのか。

 いや、思い出した。

 勇者コジローさんが乗っていたという、鉄の箱車(・・・・)

 それが戦車だとすれば、戦車砲に加えて機関銃も装備されていたはずだ。

 それを、テンダーさんが知っていたと考えれば納得できる。

 正確にいうならば、89式小銃は機関銃ではないが、フルオートの連射が可能なので、この異世界では機関銃と小銃の区別などは、意味が無いといえばそれまでだ。


 俺と生産者ギルドのギルド長であるテンダーさんは、並んで冒険者ギルドの修練場から階段を昇った。

 隣のテンダーさんは、何やらとても嬉しそうだ。

 俺の秘密を握ったからだろうか、それともゴライアスさんの鉄壁の盾の修理費で儲かるからか。

 恐らく前者だろうなと俺は踏むが、両方かもしれないなと俺も苦笑してしまった。


 修練場から出てくると、冒険者ギルドのマスター、アルバートさんが満面の笑みで近づいてきて、俺の肩をばしばしと叩きながら言う。


「ジョー!凄ぇな、お前の爆裂魔法は。ギルから聞いた時は、正直なところ半信半疑だったがよぉ。あれなら、オーガなんざ朝飯前だよなぁ!」


 俺は、「はあ……」と答えるだけだったが、それでもアルバートさんと隣に居たギルバートさんの兄弟は、俺を賞賛してくれた。

 と、その時。

 小さな男の子が俺やアルバートさん、ギルバートさんに近づいてきて涙ながらに訴える。


「ギルドマスター!、俺の、俺の村が……開拓村が、はぐれワイバーンの襲撃を受けてしまったんだよ。どうか、助けておくれよ……爆裂魔法が使える冒険者なら、ワイバーンも撃退できるだろう!」






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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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