宴
「ガレル! 左翼へ回り込め! ハンナは俺の援護だ!」
「「はいっ! リーダー!」」
ギルさんの指示でガレルが駆け出す。
同時にハンナは89式小銃をギルさんの肩へ銃身を置き、ターゲットとなるオーク目掛けて発砲。
ギルさんは、アスファルトの路面へ重機関銃M2を設置しており、オークの大群へと銃弾を発射し始めた。
ガレルは左翼へ回り込み、オークの群から離れ始めた別の集団へと89式小銃をスリー・ショット・バースト・モードで発射して行く。
パーティー"雛鳥の巣"の三人は、見事な連携で襲いかかってきたオークを次々と倒す。
ギルさんが重機関銃M2の射撃を終えると、既にオークの大群は殆ど動かぬ屍の山と変わり果てていた。
ハンナは、ギルさんの肩へ乗せた89式小銃を手元へ引き寄せて、しゃがんで居た姿勢からその場で立ち上がる。
ガレルも同様に、構えていた89式小銃の銃身を下へさげた。
「ふー。オークだと危なげなく殲滅できるぜ。本当に、このキカンジューってのは凄ぇな、ジョー」
「はい。その重機関銃M2であればオーガにも十分、通用しますよ」
「成る程な……。でもジョーは、このショージューでもオーガを撃退したじゃねぇか?」
「オーガは身体の皮が厚いのと筋肉が硬いので、急所の頭部を狙わないとなりません。まあ、重機関銃M2なら心臓を狙っても恐らく殺せるでしょうけど……」
「判った。この爆裂魔法でも過信は禁物って事だな」
「そうです。魔物の生命力は計り知れませんから……。油断大敵です」
「ああ、肝に銘じておく。それと修練をもっと重ねねぇとな。ガレル、ハンナ判ったな?」
「「はいっ! リーダー!」」
城塞都市タースと自由貿易都市スベニを結ぶ街道から、古の神殿から伸びている石畳を繋いだアスファルトによる簡易舗装の道。
その中間地点を過ぎた辺りから、迷いの森に住む魔物の攻撃が激しく繰り返されている。
ゴブリンやオークの群による襲撃は、かなりの頻度で一日に数回発生し、はぐれオーガとの遭遇も頻度は少ないが起こっていた。
訓練の一環として"雛鳥の巣"の面々に実戦経験を積んで貰っているが、この状況は好ましくない。
常時、我々が古の神殿までの道を警護する訳にも行かないからだ。
防護壁は未だ途中までしか構築されていない。
どうやら古の神殿を囲んでいる"迷いの森"を、魔物達は常に移動して獲物を探し回っているようなのだ。
実際、魔物では無い森に住む動物も多く見かける。
猪や鹿、そして兎や鼠などに加えて、狼も住んでいるし大型の熊にも遭遇した。
だが、彼らは魔物と違い我々を見つけると逃げてしまう場合が多い。
猪や熊、そして狼の群は襲いかかって来た事もあるが、問題なく撃退した。
そう言った魔物以外の動物も"迷いの森"を住み処にしているが、小さな草食動物や鳥は結界を通り抜けて古の神殿のある森へも侵入できるらしい。
だが魔物達や凶暴な肉食動物は結界内には侵入できないので、切り開かれたアスファルトの道路へと迷い込んで来ているようだ。
そこで、工事の計画を修正し、魔物達や肉食動物たちが"迷いの森"を自由に動き回れるように道路の構造を変更した。
"迷いの森"中央へ差し掛かる地点からは、トンネル構造のまま地下道としたのだ。
地下道へ降る道は階段では馬車や車輌が走れないので、なだらかな坂道とした。
重機を用いて土を掘り出す。
幸い地下水が湧き出る事も無かったのだが、降雨による浸水を考慮して排水構造もしっかり行っておく。
この地下道部分だけは、天井の明かり取りも作らない。
石畳への連結部分手前で、再び地上での防護壁構造へと戻す。
雨季などでは水の侵入は避けられないだろうが、比較的水捌け良い土壌なので地下道が水浸しになる事はないだろうと思いたい。
工事変更箇所の脇に茂っている樹木の伐採には、再び風の守護者ゴーレムの風刃を用いる。
加えて小さな草木の伐採には、災害復興用の装備の中からガソリン・エンジン駆動のチェーンソーを用いた。
そして、このチェーンソーにギルさんが飛びつく。
「ジョー、これは凄ぇな。何でも切れるんじゃねぇのか?」
「流石にその刃では金属を切れませんよ。でも木や皮なら簡単に切れます」
「って事は、十分に剣の代わりにはなるんじゃねぇのか?」
「なると思います……えっ? ギルさん、まさかチェーンソーを剣の代わりに使うのですか?」
「ああ、そうだぜ。俺は元々が大型の両手剣を使うからな。このチェーンソーなら同じ両手で扱えるからピッタリだ。これ、俺にくれ、ジョー」
「構いませんよ。燃料切れたら、刃が回転しなくなるので燃料の補充も忘れないでください」
「ああ、燃料の補充がいるのか……。後で補充の仕方を教えてくれ。これ、テンダー会長が見たら、絶対に欲しがるぜ」
「そうでしょうか……。幸い、テンダーさんは、別の玩具に夢中なので、此処には来てませんから良かったですね」
「そうだな。大砲の制作とマスケットだっけ? あのジューの再現に夢中だもんな」
そう、テンダーのおっさんは、ガウシアン帝国の軍艦から鹵獲した大砲とマスケット銃のコピーに夢中なのだ。
鹵獲した大砲とマスケット銃は、スベニの街と城塞都市タースの生産ギルドへも渡した。
もちろん、港湾都市イサドイベの生産ギルドへも渡っている。
加えて鹵獲して発射可能の大砲の多くは、そのままイサドイベの防衛用へと実戦配備された。
更に、それぞれの生産ギルドが総力を挙げて、コピー品の制作や火薬の生産にも取り組んでいる。
ガウシアン帝国の戦艦に積まれている事から、イサドイベとスベニでは海や河川へ向けての配備が進んだのだ。
そして、ギルさんは自分の剣の代わりとなる武器、チェーンソーに出会ってしまったのだ。
元々ギルさんは近接戦闘を得意としていたので、弓よりも剣が得意で自分の剣をより強化したかったらしい。
俺がスタリオン教皇から頂いた西住小次郎大尉殿の遺品である日本刀を使ってみるかと尋ねたのだが、細すぎて駄目だと言う。
日本刀と西洋の剣では、その構造も剣術も異なるので仕方がない。
ギルさんのように大剣で力によって叩き切るのには日本刀は向いていないし、恐らく刀身が折れてしまうだろう。
ならば、回転力によって切断が可能なチェーンソーは、ギルさんに向いているのかもしれない。
そしてギルさんの愛剣となったチェーンソーは、早速に大活躍を見せた。
はぐれオーガが襲いかかってきたので、試してみるとギルさんが単独で戦闘を行ったのだ。
全員が援護射撃の体勢の中、ギルさんは巨体の赤いオーガの首を見事にチェーンソーで落としてしまう。
「うわははは! 凄ぇぜ、ジョー。このチェーンソーは、魔剣や聖剣よりも強ぇぜ!」
「……確かに凄いですね……。まさか、チェーンソーでオーガに勝利してしまうとは……」
「リーダー! 凄ぇ!」
「うん、凄いねぇ~。流石、リーダーだよ~」
「はははは、もっと褒めて良いぜ。みんな、俺が単騎でオーガの首を落とした証人になってくれ!」
「「「「「はい!」」」」」
「ジョー、このチェーンソーなら、ゴライアスの鉄壁の盾にも勝てそうだぜ」
「多分、鉄壁の盾も真っ二つに出来ますよ……。ゴライアスさん、また泣いてしまうので絶対にやらないで下さいね」
「はははは……冗談だ、ジョー。俺はゴライアスみたいに馬鹿じゃねぇぜ」
「お願いしますね……」
なんだか、冗談にも聞こえなかったので念を押して置く。
ギルさんの身体は赤いオーガの返り血で、倒したオーガのように真っ赤だ。
チェーンソーを持ったその姿は、ホラー映画に登場しそうだった。
ギルさん、名前をギルバートからジェイソンに変えた方が良いかもしれない……。
そんな戦闘訓練をしながらの地下道工事も徐々にだが進んで行く。
古の神殿ではマーガレット司教やデボネア司祭らによる調査活動も進んでいる。
目新しい物などは発掘されては居なかったが、女神様の石像などは綺麗に補修されたり磨かれたりもした。
発掘調査は修復作業と同時に行われるようだが、神殿の周辺の調査は神官や聖騎士らによって勧められている。
俺達"自衛隊"や"九ノ一"も古の神殿エリアの調査を行った。
神殿から少し離れた場所にある池の畔。
一本の大きな枯れ木があった
その枯れ木はかなりの古木で自然に枯れてしまったようだ。
俺はその枯れ木の姿が、何故か凄く気になった。
近づいて根本付近を丹念に調べてみる。
そして、この枯れた巨木の表皮が俺の良く知る樹木だった事に気がつく。
更に枯れ木の根本に小さな葉が芽吹いているのを見逃さなかった。
この若葉、俺の知る樹木に間違いは無かった
この木は未だ完全に枯れていない。
まだこの木には生命があるのだ。
俺は直ぐにハンディー・トランシーバーで、古の神殿内に居るミラを呼んだ。
「何でしょうか? ジングージ様」
「ミラ、呼んでしまって悪いね。この古木に回復治癒魔法を掛けてくれないか?」
「この木にですか?」
「ああ、頼む」
「はい、判りました」
ミラは女神様に祈りを捧げる呪文を唱えながら古木に手を添え、首から提げている白い光の結晶を握りしめて回復治癒魔法を発動した。
「回復治癒!」
ミラの身体、光の結晶、そして古木が目映い光に包まれる。
すると枯れ木の状態だった古木の枝々に、みるみる内に萌葱色の小さな蕾が生えて、そして開花していく。
開花した可憐で淡く白い花、いや淡いピンク色の花が古木を覆い尽くす。
「「「「「おぉ~!」」」」」
周りで見ていた全員が歓喜の声をあげた。
そう、この古木は日本人なら誰でも知り、そして愛でる桜の木だったのだ。
この異世界では残念ながら見ることが出来なかった桜の木、そして花。
樹齢から考えると、ひょっとすると西住小次郎大尉殿と一緒に、この異世界へ来たのかもしれない。
女神様の贈り物だったのだろうか。
俺が死ぬ間際にも満開の桜の花が横須賀で咲き誇っていたので、今年二度目の桜の花だ。
「よし、今日は訓練は止めて花見の宴にしよう」
「花見とは、なんでございましょう? 主様?」
「俺や西住大尉の生まれた国では、この木に花が咲いた時に花を見ながら桜の花の下で宴会をするんだよ。そうそう、この木の名前は桜と言うんだ。サクラの名前の元になった花だよ」
「私の名前の元? ああ、先代勇者様にお婆さまがいただいた名前、この木が由来だったのでございますか……」
「そうだよ。そして、これは自衛隊のシンボルのマークにもなっているんだ。車輌に描かれているマーク、この花びらが元だよ」
「本当だ、花びらが五枚で花びらの形も同じだよ」
「こんな綺麗な花、初めてみましゅた」
「……可憐」
「あっ、もう散り始めています!」
「本当は、冬から春になる頃咲くんだよ。花が散り始めてから葉が芽吹くのさ」
「葉よりも先に花が咲くなんて、アタイ見た事がないよ」
「その潔さが、特に武人に好まれるんだ」
「ジョー、これは勇者の花だな」
「そうですね。古来から武士……剣士や騎士に好まれたのも頷けます」
「ジングージ様、このサクラの木、女神様が勇者様と共に、この地に植えて下さったのであれば、それは御神木でございます。"勇者の木"として今後保護いたしましょう」
「「「「賛成でございます!」」」」
「ま、まあ、それはさておき、既に花吹雪になっていますから、宴会をさっさと始めましょう」
「おう、そうだぜ、マーガレット司教。って、酒がねぇぜ、ジョー」
「大丈夫ですよ、ギルさん。ちゃんと収納に入れてありますから」
「おう、流石ジョーだぜ」
変な方向に教会関係者の思惑が進まない内、さっさと無限収納から食料や飲み物を取り出す。
"九ノ一"やベル達は、宴会の支度をテキパキと始める。
満開の桜の古木の周りをパサラとケサラが嬉しそうに飛び回り、風に飛ばされる花びらを元気よくコロニが追う。
その後を追う子犬状態のフェンリル。
それはまるで日本の桜の下で、花見の宴を行う家族の姿のようだ。
一本の蘇った桜の古木。
桜の木の礼だったか、一気に満開となった桜の花。
暖かな風に舞い散る桜の花びらの下、宴は始まるのだった。
当地、横浜でも満開の桜。
そんな桜の花の下、お花見をテーマにしてみました。
ちなみに、本日は「さくらの日」です。
読者の皆様も、お花見を楽しんで下さいませ。




