鉄壁の冒険者
鉄壁のゴライアスと名乗った、大男の筋骨隆々――初見では、ゴリラの獣人にも見えた――男性はそう言い放つと、俺を睨みながら冒険者ギルドの受付ロビーで、ギルド・マスターのアルバートさんへ言葉を続ける。
「ギルマス、修練場での模擬戦闘を許可してくれ!」
「まぁ、待てゴライアス。ギルの話しではジョーは、凄腕の魔法使いだというじゃねぇか。お前は魔法の防御は出来るが、魔法攻撃はできねぇ。模擬戦闘もなにも、勝負が成立しねぇぞ」
「ふん、だからと言って、このまま引き下がったら、鉄壁の二つ名が泣いてしまう、後には引けねぇ!」
参ったな。対人戦闘を教練でやらなかった訳ではないが、実弾で模擬戦闘なんて意味がない。
ペイント弾とかBB弾が使える、練習用のエアガンが有ればいいのだが、そんな装備は今のところ無い。
仮に実弾でやれば、命を奪わないまでも重傷を負わせてしまうのは、間違い無いし……。困った。
すると、生産ギルド長のテンダーさんが、俺の脇に来て小声で言う。
「小僧……ジョー、ゴライアスの阿呆は魔法は使えん。しかし、奴の持つ鉄壁の盾は、殆どの魔法攻撃から、己を守る魔道具じゃ。儂が何度か修繕してやった事がある代物じゃが、厄介な相手じゃぞ」
「テンダーさん、助言を有り難うございます。鉄壁の盾の材質は何で出来ているのですか?」
「主体は神木じゃ。神木は、それ自体が魔法結界による魔法防御を持っとる。その神木の表側表面を1ミリー程度の鉄で覆っておるな」
「そうですか、ならば自分の攻撃で貫けると思います……しかし、ゴライアスさんは、間違いなく怪我をします。いや死ぬ事になるやもしれません」
「ふん、相当の自信よのう……ならば、儂があの阿呆に言い聞かせてやるぞい」
テンダー・生産ギルド長は、そう言うとゴライアスさんに近づいて行き、ゴリラの様に大柄のゴライアスさんを見上げながら、大きな声で話し始める。
「ゴライアス、お主が引けぬのは判った。ならば、その鉄壁の盾の力を小僧に見せつけてやるのはどうじゃな。儂の火炎魔法でも歯が立たぬことを見れば、小僧も考え直すじゃろうて」
「……テンダー・ギルド長、あんたには、この鉄壁の盾の修繕で世話になっている。あんたの顔を立てるならば、その提案に乗ろう。で、どうすんだ?」
「判った。では、修練場へ行くぞ。それで、いいなアルバート?」
「テンダーさんが、そう言うなら、俺は構わねぇ。修練場を使ってくれぇ」
「うむ、ゴライアス、小僧……ジョー、修練場へ行くぞい」
テンダーさんの後に続いて、俺は冒険者ギルドの修練場という場所へ歩を進める。
俺の直ぐ後には、アントニオさんと、冒険者ギルドのギルマス、アルバートさんが続く。
その後には、ギルバートさんやハンナさん、そして野次馬の冒険者達が、ぞろぞろと金魚の糞のように大勢ついて来た。
テンダーさんは、俺に小さな声で、俺とゴライアスさんが戦わなくても済む方法を伝えてきた。
俺は、その考えに納得して、「お願いします」とだけ答えると、テンダーさんはニヤと笑い、「お主の爆裂魔法とやらも見てみたいからのう」と言う。
ある意味、これは不味いと思ったが、誰も怪我をしたり、命を落とすことが無いのであれば仕方がないか。
恐らく、俺の89式小銃の射撃を見れば、テンダーさんは、それが魔法の攻撃では無い事を容易に見抜くだろう。
しかしここは、腹を括るしかない場面だ。
後の事は、テンダーさん次第となるが、このドワーフのおっさん、決して悪い人間ではないので、それに期待しよう。
冒険者ギルドの修練場は、ギルドの建物の裏手でテニスコート2面程度の広さがあり、地面から3m程度低くなっていた。
修練場へ階段で下りて行き、テンダーさんが、修練場の脇の方の壁にあった水の入った木製の樽を、少し移動してからゴライアスさんに言う。
「ゴライアス、お主の身につけている鉄鎧を、この樽に着せろ。そして、その手前にお主自慢の鉄壁の盾を、剣を支えにして立てろ」
「わかったよ、テンダーさん」
ゴライアスさんは、テンダーさんの指示に従って、水入りの樽へ自分の身につけていた金属鎧を外してから樽に着せる。
そして、背中に背負っていた大型の鉄盾――これが、鉄壁の盾なのだろう――を背中から外し、腰に下げていた剣を抜いて、それを地面に突き刺した。
地面に突き立てられた剣を支えにして、鉄壁の盾を水の入った樽の前1m位に立てる。
「よし、皆、樽からは離れておれ、火傷しても儂は知らんぞ」
テンダーさんの言葉で、樽の後方に居た野次馬冒険者達は、一斉に場所を移動した。
テンダーさんは、立てられた鉄壁の盾の正面へ移動し更に距離を取る。
約10m位だろうか、鉄壁の盾から離れると振り向いてから、何やら呪文の様な言葉を呟き右手を標的となる鉄壁の盾に向け叫んだ。
「火炎弾!」
テンダーさんが叫ぶと、右手から真っ赤な炎の玉が現れ、その火炎の玉が鉄壁の盾へと飛んでいく。
火炎の玉が鉄壁の盾に見事命中すると、鉄壁の盾にはじかれる様に拡散して、小さな炎の塊が鉄壁の盾の前や周辺へと飛び散った。
凄いな、これが本物の魔法か。しかし、鉄壁の盾の方も凄い。
全く燃える事なく、火炎弾をはじき返すのだから。
周囲の野次馬冒険者達からは、「おぉ~」という歓声が上がっている。
「ふん、相変わらずの防御力よのう、儂の火炎弾を容易く防ぎおる。さぁ、小僧……ジョー、次はお主がやってみろ。それとも、ゴライアスに詫びをい入れるか?」




