ランクアップ
働きに出ているパーティー"九ノ一"のメンバーを除いて。俺達は全員が徒歩で冒険者ギルドへと向かっている。
全員が乗れる車輌を無限収納から召喚し、それで移動しても良かったのだがスベニの街を久々にゆっくりと散歩するのも悪くない。
ただし例外も居る。
それは、大型の狼の姿になったフェンリルの背中に跨るコロニ。
白く大きなフェンリルに、黒髪の狼族の少女の姿。
しかもコロニは子供用の黒いメイド服を着ている。
白と黒のコントラストに加え、コロニの笑顔が眩しい。
最も、大型の狼であるフェンリルが危険では無い存在だと言う事を、スベニの街の住人へ知らせるには良い機会にはなるだろう。
事実、俺達が歩く姿よりも完全に住人の目はフェンリルとコロニに向けられている。
最初は驚き、そして直ぐに殆ど全員が微笑みの表情へ変わる。
小さな子供達は、自分も乗りたいと親にせがむ。
たしかに、あれは俺でも乗ってみたい。
今度機会があれば乗せて貰おうとは思っているのだが……。
俺達が冒険者ギルドへと到着すると、直ぐさま受付嬢が二階の会議室へと俺達を案内する。
もちろん、フェンリルは冒険者ギルドへ入る前に子犬サイズへ戻るように指示。
冒険者ギルド内では外とは逆にコロニがフェンを抱きかかえている。
外ではコロニの周りを飛び回っていたパサラも、ギルド内に入るとコロニの頭の上にちょこんと座って回りを見回す。
ケサラは、俺の肩に座って同じように周囲をきょろきょろと観察中。
妖精二人に加えてコロニとフェンは、スベニの冒険者ギルドが初めてなので観察中と言ったところか。
全員が二階の会議室へ入る。
椅子とテーブル有る会議室なので、椅子へ座って待つように受付嬢が言う。
言われるがままに、全員が椅子へ座りギルド・マスターのアルバートさんを待つ。
しばらく待っていると、ドアが開き見知った顔の三人が入って来た。
ギルさんをリーダーとするパーティー"雛鳥の巣"の面々だ。
「よう、ジョー。俺達も一緒に呼び出しだぜ」
「そのようですね。ハンナさん、先ほどはどうもでした」
「うん、ジョー兄さんの家は美味しいお茶とお菓子を貰えるから、こちらこそご馳走さま~」
「ガレル君、ミラは来られるって言ってました?」
「ああ、ジョー兄貴。孤児院の昼食を準備してから来るので、ちょっと遅れるってさ」
「成る程ね。昼前だと子供達の昼食の用意で孤児院は大忙しだからね」
ミラは遅れて来るとの事をガレルから聞く。
時間には几帳面なミラが先に来ていると思ったが、部屋には誰も居なかったので何かあったのかと少し心配した。
「それでギルさん、ランキングの件だとか?」
「ああ、今回の聖都での活躍の件が、教皇様から兄貴へ届いたんだ。それでランクアップだとよ」
「成る程、スタリオン教皇からは称号の金メダルまで頂いちゃいましたからね」
「そうだとも、俺達全員が聖騎士扱いの銀メダルを貰えるとは思ってもいなかったぜ。しかも俺の称号なんて"勇者の友"だ。おっ恥ずかしいぜ、またく……」
「ギルさん、自分なんかそのまま"勇者"ですよ……。返上したくても「それは許しません!」でしたからね……」
「はははは、ジョーは良いんだ。誰もお前が勇者じゃねぇとは言わねぇぜ」
そう、聖都から帰る直前にスタリオン教皇から俺達全員へ称号を登録したメダルが勲章代わりに授与された。
このメダルは王族などの地位などを記録するためのもので、教皇が認証して授けるのだと言う。
俺の頂いたメダルは純金製で王族などと同じ素材だ。
円形の小型メダルに大きく十字が刻んであるデザインで、身分票としても使用可能らしい。
俺以外の面々は、同じデザインの銀製で聖騎士や騎士、さらには貴族の地位などを刻むのだと言う。
ギルさんは"勇者の友"だったが、パーティー"自衛隊"と"九ノ一"のメンバーは全員が"勇者の従者"という称号だった。
ちなみにテンダーのおっさんは銀メダルで"勇者の友"。
ハンナさんとガレルくんも銀メダルだったが、何故か"勇者の従者"だった。
二人は称号よりも銀メダルが嬉しかったようで「早くメタル・ランカーへ昇格したいよ」と言っていた。
この銀メダルは、そのままでも聖騎士としての身分証明票にもなると言うので、聖都へはフリーパスになるのだとか。
もっとも、その場合は予め身分票の内容をメダルへも書き込んで置く必要があるとも教えられた。
しかしレザー・ランカーの場合は、身分票の情報を金属メダルへは書き込めないので、身分票も同時に掲示する必要があるようだ。
再び会議室のドアが開くと同時に大きな声が部屋に響いた。
「みんな、待たせたなぁ」
冒険者ギルドの会長、アルバートさんがニコニコしながら入室してくる。
更に受付嬢がその後に続いて入室。
そして最後にミラが少し俯き加減に入って来た。
「遅くなって申し訳ありあませんでした……」
小さな声でそう言うと、俺達の後ろへと素早く回り込む。
聖都では殆どが純白の飛行服姿だったが、もちろん今は修道女の質素な制服だ。
「すまねぇなぁ。急な呼び出しで……聖都からの知らせと前に来ていた港湾都市のシムカス伯爵と、古代遺跡都市の冒険者ギルド・マスターからの報告もあってなぁ」
「シラリアさんかですか?」
「そうだ、ジョー。お前、古代遺跡都市から帰って直ぐに聖都へ行っちまったから仕方ねぇけどなぁ」
「そうでしたね。港湾都市イサドイベや古代遺跡都市の報告は一切してませんでした。申し訳ありませんでした」
「いや、あの状況じゃ仕方ねぇさ。しかし、ジョーは本当に凄ぇ事をしてきたなぁ……」
「成り行きでしたので……。詳しい報告や説明が必要でしょうか?」
「いいや、いらねぇよ。それぞれの顛末が礼状と一緒に届いているからな。それでジョー、お前ランクアップの申請、最後にしたのは何時だったか覚えているか?」
「えっと、港湾都市へ出かける直前でしたか?」
「そうだ。そしてその後行った港湾都市、古代遺跡都市、そして聖都で活躍だ。お前のランクアップは誰も文句は言わねぇ……。今日からAランクだ、ジョー」
「「「「「おぉ~」」」」」
そして会議室内に拍手が響き渡る。
「やったな! ジョー! 俺より上になりやがったぜ!」
ギルさんが俺の背中をバシバシと叩く。
その表情は自分の事のように喜んでくれている満面の笑みだ。
「ギル、お前もワンランク昇格で今日からBランクだ」
「えぇ? 俺も?!」
「そうだ。聖都の教皇様からの礼状は、お前にも別に届いているんだよ」
「そ、そうか……。って事はガレルとハンナもか? 兄貴?」
「ああ、もちろんだ。二人とも2ランク昇格だ。良かったな」
「「やった! やったよリーダー!」」
「ああ、良かったな……ガレル、ハンナ……」
「と言う事は、パーティー"自衛隊"と"九ノ一"も全員ランクアップでしょうか?」
「当たり前だ。"ジエータイ"と"クノイチ"はレザー・ランカーは4ランク昇格で、メタル・ランカーは2ランク昇格だな」
「うわぁ~ アタイ4ランクも昇格だよ!」
「私も昇格でしゅ……嬉しいでしゅ!」
「……あたしも嬉しい」
「えっ、私も昇格ですか? 直ぐにマーガレット司教へお知らせしなければ……」
「僕も昇格ですか……嬉しぃです」
「皆の者、これも主様のお陰だ。喜んで頂だけ」
「「「「「はい、お頭様! 有り難く頂きます、主様!」」」」」
全員のランクアップが決まり、会議室は喜びで溢れる。
そん中、只一人だけ少しさけ寂しそうにしていた。
それはコロニだ。
彼女は、古代遺跡都市では特例で冒険者見習いとして扱って貰えていたが、ここスベニでは年齢が足らないので冒険手ギルドには登録も出来ない。
特別申請をアルバートさんへお願いしなければと思っていたのだが、未だしていなかったのだ。
「あと一つ、古代遺跡都市の冒険者ギルド・マスターから特例で、その狼人族の子を見習い登録してくれって要望があった」
「えっ? シラリアさんから?!」
「そうだ。だが、スベニの冒険者ギルドの規則は曲げられねぇ」
「……ですよね。仕方ないです」
「早合点するなジョー。でだ、商業ギルドとも相談したんだよ……冒険者ギルドでは登録出来ねぇが、商業ギルドなら見習い登録が出来るそうだ」
「成る程……そう言えば、パーティー"九ノ一"の面々とベルは、全員がメイド・ギルドの登録でしたね」
「そう言う事だ、ジョー。コロニのメイド・ギルドへの特別見習い登録はもう済ませてあるから、身分票を登録するだけだぞ」
「有り難うございます、アルバートさん。良かったなコロニ」
コロニは嬉しそうに笑う。
そして尻尾は激しく左右に振られ、ウメやヒタキらがコロニの頭を撫でている。
サクラも嬉しそうに彼女らの姿を見てから、俺の方へ振り返るとにっこりと微笑んだ。
よし、これでコロニをパーティーへ加えれば、何時でも居場所を知ることが出来る。
強力な危険察知能力を持つパサラも常に一緒だ。
そして最強のボディガードである神獣フェンリルも常に居る。
親馬鹿で過保護かもしれないが出来うる限りの事を、この子にはしてあげたいのだ。
会議室は喜びの笑い声が何時までも響き渡るのだった。




