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目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~  作者: 舳江爽快
第五.五章 帝国(序) 編
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勇者の約束

 勇者コジローこと、西住小次郎大尉殿が見つけたと言い伝えられている天然温泉の有る保養地。

 それを裏付ける証拠として保養地で売られている名物があった。

 それは何と温泉饅頭(まんじゅう)

 旅館の店先で出来たての温泉饅頭が湯気を上げている。

 見た目は元の世界の温泉饅頭と同じで、茶色の皮で包まれていたが小麦に何を混ぜているのだろうか。

 味を確かめるべく先ずは10個ほど購入して味見をする事にする。


 熱々の温泉饅頭の中身は、正真正銘の漉し餡で甘さ控えめで小豆の味が濃厚だ。

 懐かしい味……、そして美味い。

 冬場にコンビニエンス・ストアで売られる熱々の中華饅頭も美味しいのだが、和風の温泉饅頭も好きだ。

 特に土産物として売られる温泉饅頭は冷えても美味しいので大好物だ。

 白い饅頭と茶色の饅頭どちらも好きだし、漉し餡でも小豆の残った小倉餡どちらも美味しい。

 皆にも勧めると、やはり甘い物に目のない女性陣は大喜びだ。


「これは甘くて美味しいよ。中身が黒いのでアタイびっくりしたけど」

「本当に甘くて美味しいでしゅ。この黒い中身は何から作るのでしゅか?」

「それは小豆を砂糖で煮て、それを()した物だよ。餡子(あんこ)って言うんだ」

「……上品な甘さで美味しい」

「主様、甘くて美味しいのです」

「茶色のパンで出来た薄い皮も美味しいとコロニが言ってる」


 一つの温泉饅頭を半分に割って、ケサラとパサラが食べている。

 コロニは、尻尾を激しく左右に勢いよく振りながら嬉しそうに温泉饅頭を頬張った。

 "九ノ一"の面々にも全員へ行き渡るように追加で20個ほど購入。

 全員が美味しそうに温泉饅頭を頬張る。

 しかし、甘い物が好きでは無い者も居た。


「う~ん、甘いのは苦手だぜ……」

「ギルバート、お前もか。儂も一個が限界じゃぞい」


 ギルさんとテンダーのおっさんは、饅頭の甘さが苦手のようだ。

 しかし、"雛鳥の巣"のガレル君とハンナさんの二人は笑顔で食べている。

 やはり酒飲みには不評なのかもしれない。

 スタリオン教皇や聖女セレステの警護を行っているギャラン隊長以下の聖騎士達への食べるように勧めたが職務中との事で遠慮された。

 無理に勧めたら女性の聖騎士達だけが嬉しそうに食べ始める。

 どうやらギャラン隊長以下、男性聖騎士達も甘い物が苦手だったのかもしれない。


「保養地から戻ってきた方の土産として私も頂きますが、出来たてはこんなにも美味しいのですね」

「蒸す前の物を何度か貢ぎ物で頂いたが、このように美味くは蒸せなかったな」

「温泉の源泉から吹き出る蒸気は温度が高いので、美味しく蒸し上がるのだと思います」

「温泉の蒸気で蒸していたのですか……」

「西住大尉殿の出身地は、火の国とも言われる火山のある地方でしたから、それを思い出されたのでしょう」

「とすると、これは勇者コジロー様の祖国の菓子なのでしょうか?」

「自分達の祖国には温泉と火山が沢山ありました。温泉饅頭の発祥の地は確か違うとお思いますが、饅頭自体は全国的な食べ物です」


 スタリオン教皇の質問に答えてはみたが温泉饅頭で思い出すのは草津の湯。

 まあ、何処の温泉地でも饅頭は土産物の定番だし、恐らく饅頭は西住大尉殿の好物だったのだろう。

 スベニに戻ったら今度、小豆を茹でて餡子を作って餡パンでも作ってみよう。

 取り敢えずは、土産物用に売られている温泉饅頭を大量に買い込む。

 無限収納(インベントリー)へ収納して帰れば腐る事も無いからアントニオさんらへのお土産だ。

 出来たて熱々の温泉饅頭も大量に購入。

 こっちは、おやつ代わりだ。


「この饅頭、名前は無いのですか?」

「はい、特には……マンジューと呼ばれていますだ」

「そうですか。この温泉も単に保養地と呼ばれてますものね。どうですか、此処を"勇者の湯"と呼び、その饅頭は"勇者の饅頭"と呼んでは?」

「おお、使徒様……ジングージ様。それは素晴らしい呼び名でございます。今日よりこの保養地は"勇者の湯"、そしてこれは"勇者のマンジュー"と呼ぶ事にしますぞ。良いか店主、早速に他の旅館業者にも伝えよ」

「へへー。教皇様に名付けていただき大変恐縮ではございますが、嬉しい事でございますだ。早々に皆に伝えますだ」

「歴代勇者二人に愛された湯とマンジュー、これも記録に残して置くがよい」

「歴代勇者様ですか?」

「そうだ。此方のお方こそ、勇者コジロー様の遺志を継がれた新たなる勇者と成られたジングージ様だ」

「な、なんと! では、先日の魔物によるスタンピードを鎮めて下さった勇者様!」

「いや、自分一人では無いですよ。貴方の目の前にいる仲間達のお陰です」

「こ、このマンジューの代金は結構でございますだ。た、大変に失礼を……」


 温泉饅頭を売っていた旅館の店主は涙目になりながら、渡した貨幣を返そうとする。

 それを俺は受け取らずに、逆に一枚のA4用紙を渡す。

 A4用紙には日本語で「勇者西住小次郎大尉が愛した温泉饅頭」と書いておいた。

 加えて英語でも同じ意味をアルファベットで書く。

 もちろん、この異世界の言語でも「勇者の饅頭」とだけ書いてある。

 日本語と英語で書いたのは、何れ日本や元の世界から転生・転移した人の目に触れるかもしれないので、それを期待しての事だ。


「この言葉は、勇者小次郎さんの国の言葉と最も使われている言葉です。これを写してマンジューの販売を行っている店全てに貼ってもらえると嬉しいです」

「へへー、こんな綺麗な白い羊皮紙、初めて見ただ。必ず写しを他に店主にも伝えますだ」

「店主、勇者様自らの書面とは羨ましい限りだ。その書面、家宝とせよ」

「へ、へへー。教皇様のお墨付き、絶対に家宝として代々伝えますだ!」

「うむ、ではな」


 スタリオン教皇、本当に羨ましそうだ。

 既に89式多用途銃剣をホルダーと一緒に差し上げたじゃないですか。

 もっとも、城塞都市タースでは西住小次郎大尉殿の折った折り鶴が大公家の家宝だった例もある。

 そんなスタリオン教皇や俺の姿を見ながら女性陣達は笑顔で温泉饅頭に舌鼓を打っていた。

 セレステとミラの二人の聖女も、今日ばかりは甘味好きの普通の女の子だ。

 そしてマーガレット司教も、やはり幾つになっても女性なので笑顔で饅頭を食している。


 さて、そろそろ帰還の時刻だ。

 聖都トセンセーでスタリオン教皇と聖女セレステ、ギャラン隊長以下聖騎士の護衛隊を下ろし、俺達はそのまま自由都市スベニへと向かう予定。

 僅か一泊の保養地での休暇だったが、温泉に漬かると身も心も癒やされる。

 また必ず来ようと思わずにはいられない。


「それでは、皆さん空飛ぶ鉄の箱に乗って下さい。聖都までお送りします」

「有り難うございます。ジングージ様」

「セレステさんも、温泉を楽しまれたようで何よりでした」

「はい、初めて来られて本当に嬉しいです」

「それは何より。また自分達が来る時は、必ずお誘いしますね」

「絶対です。約束ですよ、ジングージ様」

「では指切りしましょう」

「指切りとは、私の指を切るのでしょうか?」

「違いますよ。自分や勇者コジローさんの祖国では、約束の際に行う儀式のようなものです。こうやります、ちょっと失礼」


 俺は聖女セレステの小指に自分の小指を絡め、そして上下に振りながら呟く。


「指切りげんまん、嘘ついたら針千本、飲~ます。指切った♪」

「えっ? これが約束の儀式なのですか?」

「そうです。子供の約束の儀式なので遊びに近いですけどね」

「ジングージ様が嘘をついて誘っていただけなかった場合、針を飲ます事ができるのですね?」

「そのとおりです。だから、自分は針を飲むのが嫌なので嘘はつきません」

「はいっ! 勇者様の約束、絶対ですよ。セレステは心待ちにしております……」


 聖女セレステは、指切りをした小指を大事そうに片方の手で包み、己の胸に押しつける。

 その頬はうっすらと桜色に染まる。

 それを見ていたスタリオン教皇は頷きながら笑い、マーガレット司教も嬉しそうに笑う。

 だがアンとベルは「又か……」と言った顔で溜息を着く。

 ナークは珍しく表情を変えて笑っているが、どこか険しい表情にも見えるのは俺の気のせいか。

 更には、サクラやミラまでもいつもの雰囲気と違っている。

 はて、俺は何か不味いことでもやらかしたのだろうか……。







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連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

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