聖女と聖剣
新年、明けましておめでとうございます。
魔物のスタンピードを撃退し、魔獣クールマの子供を無事に帰した結果、親クールマの親子は樹海の奥深くへと姿を消した。
聖都トセンセーは悪魔族アナクロンの罠から守られたのだ。
俺達のパーティ"自衛隊"とパーティー"九ノ一"、ギルさん率いる"雛鳥の巣"の三人、そしてテンダーのおっさんは装備の回収などを行い聖都へと帰還した。
俺達が帰還すると聖都では、スタリオン教皇以下、聖都に住む住民が全員で出迎えてくれる。
正に聖都への凱旋パレードを図らずもしてしまったのだ。
帰還部隊の先頭は、テンダーのおっさんが操る旧日本陸軍の八九式中戦車。
俺としては、足の遅い八九式中戦車を真っ先に無限収納へ戻したかったのだが、テンダーのおっさんが「儂が聖都まで操縦していくんじゃ」と言い、勝手に聖都へ向けて走り出してしまったのだ。
仕方なく俺達は、ゆっくりとした速度で八九式中戦車の後を10式戦車、16式機動戦闘車、そしてセンチュリオン戦車と続く。
CH-47JA チヌークでならば全員が搭乗出来、聖都まではひとっ飛びなのだが……。
ロックの操る指揮者ゴーレムも、最後尾からゆっくりと歩いて帰還する。
唯一、飛行装置に乗るミラだけは一人聖都へと帰還したけど、羨ましい速度だ。
聖都の帰還パレードもどきも終わり、全員が教会本山前の"白の広場"へ到着したのは既に夕暮れ。
そのまま教皇主催の晩餐会となった。
豪華な食事ではあるのだが、やはり城塞都市や港湾都市での豪華さは無く、どことなく質素だ。
だが決して不味くは無く、また日本の精進料理のような肉抜きと言う事もなかったので普通に食べた。
加えてワインも提供されたので、宗教的に禁酒とう事もないようだ。
晩餐会はテンダーのおっさんがワインを飲み過ぎた程度で、無事にお開きとなる。
食後、飲み過ぎたテンダーのおっさんは、「儂は寝る」と言ってさっさと寝所へ向かう。
恐らくテンダーのおっさんだけで、ワイン樽を丸々飲み干したのではないだろうか。
それでも平然としてしっかり歩いて行くのだから、ドワーフ恐るべし。
食後のお茶を飲みながらスタリオン教皇やギャラン隊長、そして聖女セレステらと話をする。
特にマーガレット司教から話が出た、俺がこの世界へ降り立った女神様の神殿。
そう、迷いの森の中心部分にある神殿遺跡の話になりと、スタリオン教皇の顔色が変わる。
以前にマーガレット司教も、幻の神殿と言っていたのを思い出す。
そしてスタリオン教皇の決断は素早かった。
迷いの森の神殿遺跡への道を整備し、神殿を復活させるという決定をしたのだ。
俺もその事業には協力を約束する。
俺の言葉にマーガレット司教も喜んでくれたし、スタリオン教皇は俺の手を握り涙を流さんばかりに喜んだ。
俺達"自衛隊"には土木工事用の重機も装備に沢山あるし、守護者ゴーレムを使えば危険なジャングルの伐採も容易だ。
ちなみに今回、無限収納から出した守護者ゴーレム四体は、既に無限収納へ格納済みだ。
途中で北の保養地へ待避させた偵察者ゴーレム四体は、明日にでも回収へ行かねばならない。
更に話は、勇者コジローこと西住小次郎大尉殿の話題になる。
西住小次郎大尉殿の遺品となる八九式中戦車を俺が入手した経緯なども話し、自由交易都市スベニには一輛存在する事。
なので、今回召喚した一輛を聖都で保管管理して欲しいと言うと、スタリオン教皇はついに涙を流してしまった。
「よ、よろしいのでしょうか、使徒様……ジングージ様。勇者コジロー様の鉄の箱車は、狼人族の里とドワーフ族の里に現存するだけ。勇者コジロー様の鉄の箱車を聖都で民に拝観させていただけるとは、言葉に出来ないほどの喜びです」
「構いませんよ。まだ動きますから適当な保管場所へも移動出来ます。ただし、大砲……爆裂魔法用の砲弾などは危険なので回収します」
「おお、動く鉄の箱車とは……是非、動かし方をお教えくださいませ」
「はい、燃料の補給もしますので、明日以降に誰かに教えさせましょう」
「有り難うございます。聖都の民達も喜びますし、聖都を訪れる信者も感慨深いでしょう。……ジングージ様、一つ試していただきたい事がございます。宜しいでしょうか?」
「何でしょうか? 自分で出来ることなら何なりと……」
「有り難うございます。ギャラン隊長、勇者コジロー様の宝を此処へ持て」
「はっ! 唯今」
スタリオン教皇の命令でギャラン隊長が何処かへ走り去って行く。
そして、少ししてから大きな箱を抱えて戻ってきた。
箱は美しい装飾が施されており、神殿には珍しく華美な箱だ。
金や銀、そして宝石を多数鏤めて有る芸術品。
美しい箱には金色の錠があり、その錠にスタリオン教皇が首にぶら下げていた鍵を取り出し解錠した。
ギャラン隊長が抱えている箱の中には、なんと日本刀が鞘に収められた形で入っている。
箱はビロード製の鮮やかな緑色で、そこの黒い金属製の鞘に収まっている日本刀。
明らかにこれは旧日本軍で使われていた軍刀だ。
更に、箱の右下には拳銃が治められている。
俺も良く知る、これも旧日本軍の正式拳銃、南部十四年式拳銃だ。
どちらも70年から80年経っているが、錆び一つ無くよく手入れがされている風に見える。
「これは、勇者コジローさんの遺品でしょうか? どちらも祖国の武器ですが……」
「おお、やはりジングージ様もご存じでしたか。その通りでございます。この聖剣と爆裂魔法の発動体は、勇者コジロー様に使えた聖女に与えていただいた宝物です」
「聖女? 西住小次郎大尉殿にも聖女が同行していたのですか?」
「はい、そうでございます。ですので、ジングージ様の元へもミランダをお預け致しました」
「マーガレット司教……。そうだったのですか……」
「はははは……我が妹は、勇者コジロー様の伝承が大好きでして幼い頃は自分が同行するのだと言っていた位ですからな」
「兄上様……昔の話です。聖女が勇者に仕えるのは当然の事です」
「ならば、私も……」
「セレステ、貴方のお婆様の事、私も忘れはしません。でも今はその時ではありませんよ」
「……はい、マーガレット様」
「えっ? 西住小次郎大尉殿に同行されていた聖女って、セレステさんのお婆様なんですか?」
「そうでございます。母は、聖女として覚醒しませんでしたが、孫の私が後を継ぎました」
「そうだったのですか……」
「そうなのです。そしてセレステの祖母が賜ったのが、この宝物なのです。しかし、聖剣は鞘から抜けず、爆裂魔法発動体は、当然ながら起動しません。しかし、もしや使徒様……ジングージ様ならと思いまして、お持ちしました」
「判りました。試させて下さい。それにしても手入れが行き届いていますね」
「この箱は、魔法が施されており中の物は劣化しないのです」
「成る程。それでこんなに状態が良いのですね。では、失礼して……」
この装飾された箱は、無限収納と同じ時間経過が無いか、もしくは凄く遅くなるような魔法が掛けられていたのだ。
そんな西住小次郎大尉殿の遺品を俺は手に取る。
先ずは聖剣と呼ばれる軍刀。
左手で鞘を持ち、親指で鍔をを押す。
小さな音がして鞘から刀身が覗いた所で、右手で鞘から抜き取る。
独特の輝きを持つ日本刀の刃紋が美しい。
大量生産された旧日本軍の九五式軍刀とは違うようだ。
西住小次郎大尉殿の私物に違いなく、鞘だけが軍刀仕様の金属製になっているのだろう。
「おお! やはり使徒様。容易く聖剣を鞘から抜き出された……。それにしても、なんと美しい聖剣でしょうか……」
「本当に抜けなかったのですか? もう一度、試してみてください、ギャラン隊長?」
「はっ、私には恐れ多くて……スタリオン教皇、お願い致します」
「判りました。私がやってみましょう……」
俺が再び刀身を鞘へ戻し、それをスタリオン教皇へ渡す。
そして教皇が柄を持ち鞘から抜こうとしても、全く刀身は抜けない。
そうか……。
ある程度の長さの剣や刀だと鞘から抜けなくなるガード機能が働くのかもしれない。
試しに、隣に座っていたサクラに試してもらうと、何事も無かったかのように刀身が鞘からするりと抜ける。
89式多用途銃剣程度の長さであれば誰でも扱えるのだが、日本刀程度の長さになると人を選ぶらしい。
なんとも女神様もシビアなセーフティ・ガードを施したものだ。
同様に十四年式拳銃は、もちろん俺やパーティーの仲間で無ければ扱えないだろう。
十四年式拳銃のマガジンを抜いてみると、8mm南部弾が八発フルに装填されている。
ここで試射する前に、無限収納へ入れた方が良さそうだ。
自衛隊の装備では8mm南部弾の補充は出来ないから。
一度、無限収納へ格納して直ぐに取り出す。
無限収納の収納リストには、十四年式拳銃が残った。
これで何時でも召喚が出来る。
特殊な形をしたコッキングレバーを引き、弾丸をマガジンからチェンバーへと送り込み、安全装置を解除し、食堂のベランダまでへ行き誰も居ない事を確認した後、中庭の樹木目掛けて撃つ。
発射音と共に8mm南部弾が発射され、今まで味わった事の無いブローバックの反動を感じる。
「こちらも問題なく使用可能ですね」
「さ、さすが使徒様……なんの苦もなく勇者コジロー様の爆裂魔法をお使いになられる……」
「いや、勇者コジローさんの品を、完璧な状態で保管されていた教会の方々の努力の結果です。この爆裂魔法発動体は、手入れをしないと直ぐに動作しなくなるのです。もちろん、この日本刀……聖剣もですが」
「その聖剣は、どうぞジングージ様がお使い下さい。我らでは文字通りの宝の持ち腐れですので……」
「いや、そのお言葉だけで結構です」
俺は聖剣と呼ばれる軍刀も無限収納へ入れ、そして直ぐに取り出す。
収納リストには、旧日本軍軍刀が表示される。
これで必要があれば、いつでも軍刀を召喚できるのだ。
日本刀と十四年式拳銃を箱へ戻す。
一発撃ってしまったが、まあ明日になれば新しいマガジンを渡すこともできるから問題は無いだろう。
それにしても、西住小次郎大尉殿は聖女へどんな意味で、軍刀と拳銃を与えたのだろうか。
護身用なのかな……。
ならば、俺も先代に倣うしかない。
「セレステさん、これを護身用にお使いください」
「これは……。使徒様の短剣……よろしいのですか?」
「もちろんです。これからは身を守る刀も必要になるやもしれません。光の宝珠で悪魔族は近づかないでしょうが、悪意有る者達が光の宝珠を狙うやもしれませんから……」
「ありがたき幸せです。大事に使わせていただきます」
「その短剣は、錆びませんから水に濡らしても大丈夫です。刃毀れしたら、自分に言ってください。代わりを差し上げますよ」
「そんな……大事に使わせていただきます! 使徒様だと思って……」
俺と聖女セレステのやりとりを、ニコニコしながらマーガレット司教が見ている。
その隣で、自分も欲しそうな顔をしたスタリオン教皇の表情。
判りましたよ、教皇。
明日になったら、89式多用途銃剣を貴方にもあげますから……。
本年も宜しくお願いを申し上げます。




