女神の神殿にて
本日、二話目です。
女神様は、にっこりと微笑みながら頷きこう言った。
「わかりました、私の提案を受け入れていただき、有り難うございます。では早速に……」
空間映像に映し出されている暴走ダンプカーは、俺の目の前30cm手間に迫っていた。
ダンプカーの運転手は、やっと自分の運転するダンプカーの状態を把握した様で、大きく目を開いて何かを叫んでいるのだが、その叫び声は聞こえてこない。
スマートフォンでゲームなんかしながら運転するなよと、改めて俺は運転手を呪った。
次の瞬間、空間投影されている俺の姿を目映い光が包み込むと同時に、空間に投影されていた映像が消える。
そして、別の空間映像が新たに投影されると、そこには先ほどと同じ姿の目を瞑ったままの俺が居た。
ただ暴走ダンプは、すでにその姿も無く石造りの神殿の様な背景の場所だ。
「今、見えているのは私が管理する世界です。この異世界は、神宮司さんの世界でいうならば、ヨーロッパの中世と同じ時代です。ですが、この世界では科学が全く発達していません。しかし、貴方の世界には無い魔法があります。でも、とても危険な魔物らも生息しています」
「魔法ですか……。自分も使えるのでしょうか?」
「残念ながら、神宮司さんの魂では魔法を使うことは出来ません。魂に魔力が少なすぎるのです」
「そうですか、残念です。魔法使いには、幼い頃に憧れていたのですけど。とすると、剣か何かで魔物を撃退するのですか?」
「そうです。私の世界では、魔法や剣、弓などの武器で魔物を退治しています。でも、神宮司さんには別の力がありますから、それを使って生きてください」
「別の力?」
「はい、これから神宮司さんの持つ能力について説明します。身体の複写・転移は、もう済んでいますので、ゆっくりと説明しましょう」
そう女神様は言うと、俺に授けてくれた能力"女神様の加護"の説明を始めるのだった。
■ ■ ■ ■ ■
女神様は、俺の能力"女神様の加護"を説明し終わると、微笑みながら俺に告げる。
「それでは神宮司さん、貴方の魂を私の管理する世界へ送ります。貴方に私から祝福を!」
「えっ、もうですか?」
俺の質問に答えてくれる事なく、目の前の女神様が消え、今まで居た場所も消えると同時に、目の前が真っ暗になり俺は目を閉じた。
ただ、その瞬間に女神様の声が聞こえた様な気がした。
「神宮司さん、願わくば……」
直ぐに俺が目を開けると、目の前には先ほど見た石造りの神殿の様な場所が飛び込んできた。
空を見上げると真っ青な空に、白い雲が浮かんでいる。
周りを見回すと、神殿の様な建物は長い間使われていない様子で、一部の石垣や石の壁が壊れていた。
自分の身体を見てみると、暴走ダンプに轢き殺される直前の姿で、手にはコンビニで買った品物が入ったポリ袋を、しっかりと持ったままだった。
ジーンズのポケットに手を入れると、使い慣れたスマートフォンが、そのまま入っていたので、それを取り出す。
画面を表示すると、俺の想像を裏切ることなく"圏外"と赤い点滅文字でステータスに表示されている。
やはり、この場所は日本ではないのだろう。
いや、少なくとも今まで居た横須賀ではなく、携帯電波の届かない人里離れた場所であることは間違いない。
スマートフォンの電池消耗を防ぐために、"フライト・モード"へ設定変更をして、再びポケットへしまい込む。
神殿の奥へ向かって歩いて行くと祭壇の様な広間があり、中央には先ほどまで目の前に居た女神様の石像が鎮座していた。
俺は頭を下げて、女神様の石像に感謝の意を心の中で祈る。
そう言えば、女神様のお名前を聞くのを忘れていた事を思い出す。
それに加えて、この異世界の名前も聞いておくのを忘れていた。
やはり自分が死ぬという恐怖感で、俺はテンパっていたのだろうと思わず苦笑いをしてしまう。
手に持ったコンビニのポリ袋を見つめ、女神様から頂いた俺の能力"女神様の加護"を発動してみる。
ポリ袋は一瞬光に包まれてから、その姿が俺の手から消えた。
俺が女神様から頂いた能力の一つは、無限収納だった。
しかも単なるインベントリー機能だけではなく、女神様の複写能力を併せ持つ召喚能力という特別仕様だ。
ただし、召喚できるのは、俺の仕事になるはずだった自衛隊の装備に限られる。
しかも、召喚可能な装備も階級が存在しており、ランクを上げて行かないと召喚できる装備も限られたままとなっていると、女神様は説明してくれた。
俺が元の世界で任官したとすれば、階級は曹長だったはずだが、この異世界ではどうなのだろうか。
取り敢えず、もう一度"女神様の加護"を発動して無限収納のフォルダーを表示してみる。
●自衛隊標準装備品
拳銃:9mm拳銃(弾丸x9)
同弾丸入りマガジン(x5)
小銃:89式5.56mm小銃(弾丸x30)
同弾丸入りマガジン(x5)
銃剣:89式多用途銃剣
擲弾:06式小銃擲弾(x5)
作業服:迷彩服3型
鉄帽:88式鉄帽
防弾衣:防弾チョッキ2型
長靴:戦闘靴2型
その他:戦闘装着セット
戦闘糧食Ⅰ型(x3)
水筒2型(飲料用)
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●災害救助支援装備
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●個人所有品
引っ越し荷造り品ダンボール箱(6箱)
コンビニエンス・ストア買い物品(ポリ袋内7品)
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目の前にホログラフィック表示されたリストには、陸上自衛隊の標準的な個人装備と俺の私物に加えて、先ほど収納したコンビニのポリ袋の中身が表示されていた。
これで当面の間は食料と水には困らないはずだし、装備品の戦闘糧食Ⅰ型や飲料水入りの水筒も有る。
元居た世界の俺の所有物は、"女神様の加護"によって無限収納へ収納してしまえば、食料は腐ることもないうえ、一日一回限りという召喚の回数制限はあるが、日付が変われば何度でも召喚して取り出す事が可能だ。
俺は、収納したコンビニのポリ袋を召喚して取り出し、取り敢えず腹ごしらえをすることにする。
取り出したカツ丼弁当は、コンビニの電子レンジで温めてもらっていたので、まだほんのりと暖かい状態だ。
一緒に買ったペットボトルのお茶を飲み、乾いた喉を潤してから大好物のカツ丼をほおばった。