撃墜
『地上部隊へ、直ちに雷竜へ砲撃を開始しろ。繰り返す、撃てっ!』
『『『了解、砲撃開始します! ……ザッ』』』
『アン、可能な限り、雷竜の頭部を狙ってくれ。送れ』
『了解だよ! アタイは頭を狙うよ! ……ザツ』
『頼んだぞ。雷竜は今までの攻撃によって、かなり痛手を受けているから、此処で一気に畳み掛ける。以上、通信終了』
地上砲撃部隊への連絡が終わると同時に、16式機動戦闘車二輛とセンチュリオンからの主砲による砲撃が開始される。
砲弾は、次々とサンダー・ドラゴンの背後へ着弾して行き、背中の鱗が飛び散って行く。
また、アンの砲撃は何時もどおりに正確で、ものの見事にサンダー・ドラゴンの頭部へと着弾して行き、頭部の角が一本折れて地上へと落下して行った。
俺が放った、AGM-114 ヘルファイア・ミサイルの攻撃では、サンダードラゴンの右手が吹き飛び、もげた片腕が地面へと落下して行く。
既に、サンダー・ドラゴンの身体からは紫色の放電は止まっており、激しい叫び声を上げているだけで此方への攻撃は全く無い。
だが、相変わらずサンダー・ドラゴンの叫び声は凄く、叫ぶ度にアパッチのコクピットがビリビリと激しく振動している。
しかも、雷撃以外、サンダー・ドラゴンには遠距離攻撃の術が無いらしく、余程接近しない限りは此方に攻撃を仕掛けて来る様子も無い。
このまま、攻撃の手を緩めなければ、サンダー・ドラゴンを仕留められるかもしれないので、俺は更に次の攻撃を指示する。
『ミラ、レールガンで雷竜を撃て! ロックは、雷竜の背後に注意して、弾丸が貫通しても問題なければ撃て!』
『『了解。撃ちます!』』
『頼む。可能な限り連射してくれ』
『『了解!』』
ミラの乗る飛行装置から、レールガンによる鋼鉄製の弾丸が、ピンク色にプラズマ化してサンダー・ドラゴンへ命中する。
指揮者ゴーレムの持つレールガンからも神鉄製の弾丸が発射され、サンダードラゴンの身体を貫いて行く。
サンダー。ドラゴンは、身体から飛び散る鱗と、そこから体液を迸らせ、苦しそうな叫びを上げている。
俺も容赦無く、アパッチからの攻撃をサンダー・ドラゴンに向けて行う。
未だヘルファイア・ミサイルの残弾数は、12発も残っているので、此処で一気に片を付けてやる。
「ヘルファイア・ミサイル発射!」
今度は、両翼から四発づつ、計八発のヘルファイア・ミサイルを発射した。
ヘルファイア・ミサイルは、藻掻き苦しむサンダー・ドラゴンへ向かって飛来して行き、次々とその身体や頭部へと命中して行く。
そして、二発のヘルファイア・ミサイルが、サンダー・ドラゴンの片翼の付け根に命中し、爆発によって、ついに片翼がもぎ取られたのだ。
片翼を失ったサンダー・ドラゴンは、今まで以上に大きな叫び声を上げながら、地上へと錐揉み状態で落下して行った。
『地上部隊へ、雷竜を撃墜した。砲撃を中止せよ。送れ』
『判ったよ。やったね! ジョー兄い! 送れ。……ザッ』
『ああ、アンの狙いは何時もどおり正確だったな。送れ』
『雷竜の頭、身体に比べて小さいから狙うのに苦労したよ。送れ。……ザッ』
『いや、見事に命中した。角が折れたから、後で回収しよう。送れ』
『主様、我らもお役に立てたでしょうか? ……ザッ』
『ああ、もちろんだ。サクラさんもユキさんも初めての砲撃だったのに、大活躍だったよ。送れ』
『ありがとうございます。主様にお褒めいただけて、良かったです。送れ。……ザッ』
『主様、私は引き金を引いただけです。優れているのは、この鉄の箱車のお陰です。送れ。……』
『ユキ、さん、そんな事は無いよ。引き金を引く間合いが大事なのさ。後で、砲手が誰かも教えてくれ。以上、通信終了』
『『『了解』』』
地上へと錐揉み状態で墜落して行く雷竜を見ながら、俺は地上部隊との通信を終わる。
やはり、急ごしらえとは言え総力戦で望んで良かった。
後は、地上へ落ちたサンダー・ドラゴンへ止めを刺すだけだ。
既に、地上部隊からの砲撃は不可能な位に高度が落ちているのだが、未だ絶命はしておらず叫び声が聞こえて来る。
サンダー・ドラゴンは、相当にしぶとい生命力を持っている様だ。
しかも、片翼で錐揉み状態であるにも関わらず、未だに飛行を続けようとしているらしく、真っ逆さまには墜落していない。
サンダー・ドラゴンは、残った片翼を激しく羽ばたき、体勢を整えようとしているのだが、落下速度は緩まずに、そのまま古代遺跡都市へと落ちて行く。
落下する場所は、このままだと古代遺跡都市の中央に空いている穴、いや水溜まりになるかもしれない。
人工頭脳のある巨大な魔法陣へ落下しなくて良かったと言うべきだろうし、未だ避難が終わっていない冒険者や観光で訪れている人々にも影響は最小限で済みそうだ。
俺は、アパッチ・ロングボウの高度を下げつつ、サンダードラゴンを追尾して行く。
ロックの指揮者ゴーレムも、足を地面に向けて降下体勢を取っている。
サンダー・ドラゴンは、俺の予想したとおり、古代遺跡都市の中央にある巨大な水溜まりへ落下した。
激しい水飛沫を高く舞上げて、水中へと没したサンダー・ドラゴンは、藻掻きながらも再び水面へと身体を浮かせる。
俺は、更なる攻撃をすべく、アパッチの高度を更に下げると同時に、ロックとミラへ指示を送った。
『ロック、ミラ。飛行装置と指揮者ゴーレムの合体を解き、ロックは地上へ着地後に雷竜をレールガンで攻撃。ミラは飛行装置で上空より雷竜をレールガンで攻撃だ』
『了解しました。飛行装置との合体を解除します。ミラ、良ぃかぃ?』
『お兄ちゃん、大丈夫。飛行装置の合体を解除します!』
『了解、この高さなら、そのまま降りられるから、大丈夫だよ』
『うん。解除!』
ミラの合体解除命令と同時に、指揮者ゴーレムの背中から飛行装置が分離し、そのまま機首を上空に向けたまま上昇して行く。
一方、指揮者ゴーレムは、地上へと足から落下して行き、そのまま地上へ見事な着地を行った。
飛行装置が指揮者ゴーレムとの合体を解くと同時に、指揮者ゴーレムの背中に空いた飛行装置との連絡用出入り口は、直ぐに扉が閉じられる。
同様に、飛行装置の腹部に空いていた出入り口も、扉が閉じた。
ロックの操る指揮者ゴーレムは、地上へ着地するなり、直ぐに巨大な水溜まりの縁まで走って行き、レールガンをサンダードラゴンへ向けて発射する。
ミラの操縦する飛行装置も、上空から機首を急速反転して地上へと機首を向け直すと、そのままの姿勢でホバリングへ移行し、翼に装着されたレールガンを発射した。
巨大な水溜まりに浮いていたサンダー・ドラゴンへ向かって、再びレールガンの弾丸が上空からと同時に側面からも襲いかかる。
ミラの発射した鋼鉄製弾丸は、プラズマ化してピンク色のままサンダー・ドラゴンの残った翼へと命中し、大爆発を起こす。
同時に、ロックの発射した神鉄製の弾丸は、サンダー・ドラゴンの身体を貫き、対岸の地面へと着弾し、対岸は土煙を上げて崩れた。
やはり、神鉄製の弾丸は、相当な破壊力を持っている。
しかし、この場所であれば流れ弾に当たってもセイレーンにダメージを与えるだけなので、当面は問題ないだろう。
そう言えば、サンダー・ドラゴンを撃退するために、人工頭脳に眠りから起こされたセイレーン達の姿は、全く確認出来ていないのだが、一体どうしたのだろうか。
俺がセイレーンの事を考えるのと殆ど同時に、東西南北に空いた地下道の穴から、セイレーン達が飛び出してきて、サンダー・ドラゴンが水面で藻掻いている所へと集まって来た。
そして、多くのセイレーン達が、美しい歌声を発し始める。
これが、セイレーンの発する歌声による精神攻撃か。
その歌声は、心休まる音色で、聞き惚れてしまい程に美しかった。
俺達は、全員が飛行装置に搭乗するためのヘルメットをしているので、セイレーン達の歌声によって精神に異常を来す事は無いとは言え、情緒が著しく不安定になる感じがする。
俺とナークは、"女神様の加護"や"名も知れぬ神の加護"を持っているので、ヘルメットを取っても問題ないと人工頭脳から言われてはいるが、敢えて危険を冒したくは無い。
念のために、ロックとミラにも連絡をしておく事にする。
『ロック、ミラ。セイレーン達の精神攻撃が始まった。絶対にヘルメットを脱ぐな』
『了解です。それにしても美しぃ歌声ですね……』
『ああ、人を惑わす歌声だな。ミラも判ったね?』
『はい。こんな綺麗な歌声は初めて聞きました。まるで天女様の歌声の様です』
『絶対に、惑わされるなよ。暫く、雷竜への攻撃も一時止めておこう。待機してくれ』
『『了解しました』』
夥しい数のセイレーン達が、水面で藻掻くサンダー・ドラゴンの周りに集まり、そして美しい歌声による恐怖の精神攻撃を行っている。
サンダー・ドラゴンは、更に激しい叫び声を上げて、セイレーン達への威嚇と共に、歌声を妨害している様だが、セイレーン達の精神攻撃は全く止む様子はなかった。




