レールガン
ナークの操縦で、ふわりと離陸したAH-64D アパッチ・ロングボウは、そのままサンダー・ドラゴンが飛来してくる真北へ向かって飛行を開始しする。
そして、ロックの操る指揮者ゴーレムは、かなりの加速で急上昇して行き、同じく真北へ飛行して行った。
やはり、飛行速度は指揮者ゴーレムの飛行装置には敵わず、アパッチ・ロングボウは直ぐに引き離されてしまう。
『ロック、あまり急ぐな。単独での接近は危険だ』
『すみません。速度を落とします』
『アン、聞こえるか? 送れ」
『こちらアン、良く聞こえるよ。送れ。……ザッ』
『そちらのC4I端末に、雷竜の反応は、見えているか? 送れ』
『うん、見えているよ。ジョー兄いのアパッチと、ロック兄いの指揮者ゴーレムも見えてるよ。送れ。……ザッ』
『了解。アンは手動の射撃で構わないけど、"九ノ一"の搭乗している16式機動戦闘車は、雷竜にロックオンして自動追尾で砲撃させろ。但し、発砲は俺が指示してからだ。送れ』
『了解だよ。えっと、16式機動戦闘車には誰が乗っているのかな。送れ。……ザツ』
『二号車には、車長としてユキが搭乗しております、主様。送れ。……ザッ』
『了解。センチュリオンにはサクラさんだね。それじゃ、ユキさん通信内容は判ったね? 送れ』
『主様、判りました。自動追尾にて雷竜を狙います。ただし、発射は主様の命があるまで、待機いたします。送れ。……ザッ』
『了解した。サクラさんのセンチュリオンには、自動追尾装置は搭載されてないから、手動砲撃で頼む。送れ』
『了解いたしました。主様。ご指示をお待ちいたします。送れ。……ザッ』
『了解。以上、通信終了。次の指示が有るまで目標を注視して待機だ』
『『『了解! ……ザッ』』』
ロングボウ・レーダーの捕らえているサンダー・ドラゴンの反応は、急速に此方へ近づいてきており、その姿が目視でも確認できる距離になる。
銀色の巨体は、正に伝説のドラゴンそのもので、両翼を広げると優に100mを超していた。
巨大な身体も50m以上はありそうで、銀色に輝く鱗に全身が覆われており、太陽の光を反射して目映く光輝いている。
更に、接近してきたサンダー・ドラゴンは、こちらの姿を確認するやいなや、急速に速度を落として、空中で停止した。
しかし、大きく広げた蝙蝠の様な翼の片翼には、大きな穴が空いていて、どうやら11式短距離地対空誘導弾の爆発によって、翼に損傷を与えた様だ。
サンダー・ドラゴンの翼には、全く鱗が無く薄い皮膜状なので、破れ易いのかもしれない。
だとすれば、翼へ集中攻撃してやれば、地上へ落とせるだろうか。
そして、も一箇所、損傷している部位がサンダー・ドラゴンには有った。
片足の鱗が大量に剥がれており、銀色では無く黒い肌が見えている。
これも11式短距離地対空誘導弾によって損傷したのだろうか。
よし、これなら、爆発系の榴弾だったら、サンダー・ドラゴンには効くかもしれない。
『地上部隊へ指示。砲弾は榴弾を装填して待機しろ。繰り返す、榴弾を装填しろ。以上』
『ベル、了解でしゅ。榴弾を装填しましゅ。……ザッ』
『サクラ、了解いたしました。……ザッ』
『ユキ、了解いたしました。……ザッ』
とその時、サンダー・ドラゴンの身体から、紫色の放電の様な光が多数発せられる。
ヤバイ! これは、雷撃の準備をしているに違い無い。
『ロック、雷竜が雷撃の体勢を取っていると思われる。雷撃に備えろ。指揮者ゴーレムの身体の部分には、絶対に触れるな。ミラも判ったな』
『了解です。床は大丈夫ですか?』
『床は大丈夫だと思う。ミラも判ったか?』
『判りました。ジングージ様』
「ナークも、アパッチの機体には、触るなよ」
「……判った。防御結界を張ろうか?」
「多分、雷撃を受けても大丈夫……な筈だ」
「……何故?」
「空中で雷撃を受けても、影響無いはずなんだ。ただ、通信装置やレーダーは、壊れるかもしれないけど」
「……ジョーさんを信じる」
「俺も、俺の知識を信じるしかないけどな」
落雷時には、車の中が安全だと言う。
そして、航空機の場合も同じで、機体を流れる雷のエネルギーさえ直接触れなければ、人体には影響が無いはずだ。
しかし、電子機器は、その限りでは無いので、アパッチの航行装置やロングボウ・レーダーや通信装置は、壊されてしまう可能性も有る。
そして、サンダー・ドラゴンの身体から発している紫色の放電が更に大きくなると、大きな口を開いたと思ったその瞬間、口から目映い稲妻が指揮者ゴーレムに向けて発射された。
サンダー・ドラゴンの雷撃を食らった指揮者ゴーレムは、一瞬だけ身体全体が青白く輝いたが、直ぐに元の漆黒の身体に戻る。
『ロック、ミラ、大丈夫か!?』
『だ、大丈夫です』
『私も大丈夫です。目が眩んだだけです』
『よし、レールガンを発射しろ。先ずはミラからだ。頼む!』
『はい、あっ、投影映像に十文字の印が現れました。これは何でしょう?』
『それが、攻撃目標への印だろう。その十文字を雷竜の身体へ合わせてから発射しろ』
『判りました』
すると、水平にホバリングしていた指揮者ゴーレムの身体が、微妙に上下左右に動き出す。
そうか、飛行装置に取り付けられているレールガンは、飛行装置自体が動かないとターゲットへ狙いが定まらないのだ。
『発射します!』
ミラの言葉と同時に、飛行装置の片翼に取り付けられていたレールガンが、まるでサンダー・ドラゴンの身体の放電の様に、紫色の放電を始めて、直ぐにピンク色をした弾丸が、もの凄い早さで発射された。
恐らく、音速の五倍以上の速度だろう。
弾丸は、ピンク色のレーザー光線の様な軌跡を残し、そのままサンダー・ドラゴンの身体へと命中した。
飛行装置のレールガンには、鋼鉄製の弾丸が装填されていたので、恐らくあのピンク色に輝いていたのは、鋼鉄の表面がプラズマ化した結果なのだろう。
レールガンの弾丸は、サンダー・ドラゴンの身体に命中すると同時に、ピンク色の爆発が起こる。
そして、雷竜の銀色をした鱗が四散して、まるで花火の様に地上へと散らばって行った。
よし、効いているぞ。
『ロック、神鉄弾を発射してくれ!』
『了解!』
ロックはそう返事をすると、手にしていたレールガンを、サンダー・ドラゴンへ向けて、照準を合わせる。
『発射!』
ロックが神鉄弾のレールガンを発射すると、先ほどと同様に紫色の放電がレールガンの周りに起こり、今度はプラズマ化しない状態の神鉄の弾丸が、勢いよく発射された。
どちらのレールガンも、発射から少しタイムラグがあってからの実発射だ。
このレールガンの発射のタイムラグは、経験を積んでいかないと、どうにもならないだろう。
発射された神鉄製の弾丸は、一直線にサンダー・ドラゴンへと命中し、そしてその身体を貫いて、身体の反対側から抜け更に遙か遠方へと瞬く間に飛んで行った。
これは……、注意して発射しないとターゲットの背後をも巻き込んでしまう。
サンダー・ドラゴンは、怒り狂って「グギャーッ!」と鳴き声を上げた。
その叫び声は、アパッチの機体を振るわせる程の音量で、キャノピーが割れるかと思える程だ。
レールガンの神鉄弾が貫通した身体の穴からは、かなりの血液らしき紫色をした液体が飛び散っている。
しかし、それでも致命傷には至っていない様で、再び身体から紫色をした多数の放電が発せられ始めた。
くそっ、また雷撃か。
今度は、こっちを狙って来るかもしれない。
その前に、こっちからも攻撃だ。
「AGM-114 ヘルファイア・ミサイル発射!」
俺は、片翼二発づつの合計四発のヘルファイア・ミサイルを、サンダー・ドラゴンに向けて発射した。
サンダー・ドラゴンは、翼を激しく羽ばたき、ミサイルから逃れようと高速飛行する。
しかし、その飛行した方向へヘルファイア・ミサイルは自動追尾で向かって行く。
恐らく、先に攻撃した11式短距離地対空誘導弾の威力を学んだのだろう。
どうやら、かなり知能は高い様だが、ヘルファイアからは逃れられるものか。
四発のヘルファイア・ミサイルは、次々とサンダー・ドラゴンの身体へと命中して行くのだった。




