表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/237

ステーキ・ソース

「すみません、記憶がありません……。身分証表示板の表示では、アズマ国の出身らしいのですが、それ以外は不明です」

(テンダーさん、申し訳ない。嘘です)

「うむ、そうだったか。迷い人だったな……すまん」


 ドワーフの生産ギルド長は、謝罪してくれた。

 いや、本当に謝罪したいのは俺の方なのだ。申し訳ありません。

 取り敢えず、テンダーさんも落ち着いた様子なので、ビクトリノックスのマルチツールを返してもらい、戦闘糧食Ⅰ型の沢庵缶詰の蓋を開けることにする。


 缶切りブレードで、最初の切り込みを入れる際に、皆さんには静かにしてもらう様にお願いしてから、缶詰にマルチツールの缶切りブレードで切り込みを入れる。

 プシュッと缶の中に空気が入る音がしたので、この音の意味を俺は説明し始めた。


「この缶詰の中は空気が完全に抜いてあり有ります。この状態であれば中の食物に熱が通してあるので、雑菌が繁殖せずに長期間の保存が可能となります」


 アントニオさん、エルドラさんは何となく頷いたが、流石に職人のテンダーさんだけは違った。


「缶の中の空気を抜いてあるのか。どうやって空気を抜くのだ、小僧……ジョー?」

「それは、幾つか方法がある様ですが、詳しくは自分も知りません」

「そうか……」


 それでもテンダーさんは納得してくれた様子で、腕組みをしながら蓋の開いた缶詰をじっと見つめる。

 丁度、沢庵缶詰の蓋を開けたところで、ドアがノックされ「失礼致します」と声がかけられ、ウェイトレス達が料理やスープなどをワゴンに乗せて入室してきた。


 缶詰の説明は、取り敢えずここまでとし、ウェイトレス達が料理をテーブルに並べ終わるのを待つ。

 料理が各自の前に並べられ、それを待っていたアントニオさんは、ウェイトレス達が退室するのを待ち、にこやかに言う。


「では、いただきましょう。ジングージ様、ささ、お召し上がりください」

「頂きます。缶詰の漬け物も、お召し上がり下さい」


 俺は、目の前のステーキに、まずナイフを入れてフォークで自分の口に運ぶ。

 何の肉だかは、見た目では判らなかったが、味から察するに牛肉の様に思えた。

 肉自体は、柔らかくもなく、霜降りの様な油が乗った肉でもない。

 アメリカで食べた事のある、少し固めの赤身肉だった。


 香辛料は、胡椒の味はせずに、塩と大蒜(にんにく)のみで焼かれている様に感じた。

 しかし、ステーキのソースは絶品で、フォンドボーの様な円やか、で重厚な深みのある味わいだ。

 これは、美味いと思う。

 正直なところ、保存食の干し肉が、あまり美味くは無かったので期待してはいなかったのだが、これは凄くいけてる。


 俺以外の三人はと言うと、缶詰の漬け物――沢庵――を、各自のフォークで口に運んでおり、「美味い」と口を揃えて言う。

 既に、沢庵を食した事のあるアントニオさん以外は、「これが保存食か……」と絶句している。

 特にテンダーさんは、「歯ごたえが溜まらんな。酒が進む」と、追加されたワインを豪快に(あお)っていた。


「アントニオさん、この焼き肉は美味しいですね。特に、この焼き肉のソースは絶品です。何の肉なのでしょうか?」

「おお、お気に召して何よりです。この肉は、スベニの南の牧場地域で飼育されている白牛の肉です。そして、お褒めいただいたソースが、スベニ自慢のソースなのです」

「そうですか、いや美味しいです。このソース、是非とも缶詰にしたいですね」

「おお、流石ジングージ様。このソースで肉を煮込んだスープは、スベニの家庭料理でもあります。私めも、これがカンヅメに出来ないかと思っておりました。はははは」


 確かに、このフォンドボーに似たソースで牛肉を煮込めば、極上のビーフ・シチューに仕上がるだろう。

 缶詰のメニューとしては、最高だ。

 これは何としても、アントニオさんと協力してビーフ・シチュー缶詰の実現をしてみたいと思うほど、美味しいステーキ・ソースだ。


 元の世界では、コース料理として、前菜、スープ、と順番にテーブルに並べられるのだろうが、ランチ・メニューだからだろうか、パンやサラダ、スープなどが、全て同時に並べられている。

 俺は、テーブルの上に、ステーキと一緒にだされていたスープを、スプーンで飲んでみた。

 これも香辛料の味は、殆どしなかったが、野菜や肉の出汁(だし)が効いていて美味しかった。


 やはり、この異世界では、元の世界の中世ヨーロッパ同様、香辛料の流通が殆どないのだろうか。

 この異世界でも香辛料を流通させれば、それだけでも食文化は、急激に進歩するだろうなと思う。

 パンも一つ食べてみる。保存食の乾燥パンは、硬くて食べるのに苦労させられたが、このパンは柔らかくて美味しい。

 しかも、焼きたての白いパンだ。不味いはずが無かった。


 俺は、二個めのパンに手を伸ばし、ステーキ・ソースに絡めて食べてみる。

 これは、いけると思い、思わず「美味い」と声に出してしまう程だった。


「アントニオさん、スープもパンも美味しいですね」

「そうですか、そうですか。それは良かった。ジングージ様のカンヅメも美味しかったので、お口に合うか心配しておりました」


 俺は、料理を作るのは得意ではないが、アウトドアでのバーベキューやキャンプでの料理は、防衛大学校時代の仲間たちと、よく集まっては、わいわいと騒ぎながらやっていた。

 しかし、グルメ三昧する程の経済力は、防衛大学校の給金では無理な話で、フランス料理のフォンドボーなどを作り出す事は、絶対に叶わない。

 だが、既存のソースを缶詰にする事なら、俺でも何とか出来そうな気がする。


 出されたステーキをメインにした食事が終わると、デザートらしき果物が盛られた皿がウェイトレスによって、各自のテーブルの前に出されてくる。

 これらの果物は、見たことも無い果実で、色とりどりのカラフルな果実だ。

 口に入れてみると甘い果実もあれば、酸っぱさ満点の果実もあり、食感も柔らかいものあり、しゃきしゃきとした心地よい歯ごたえのものもあって、どれも美味しかった。


「さて、後は食後のお茶だけです。お茶を済ませたら、ギルド本部へ戻ってから、カンヅメ製造についてのお話をしたいのですが、よろしいでしょうかな。ジングージ様?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

連載中:『異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~』

作者X(旧ツイッター):Twitter_logo_blue.png?nrkioy) @heesokai

  ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] ステンレスはクロムと鉄の合金でクロムは 赤い酸化鉛と一緒に出土しますが融点が1900度 以上でアーク電熱炉でないと溶けません!プラチナも 融点が高く製鉄所の鈍に多く含まれ出土しますよ ?香辛…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ