共闘
俺の見る悪夢と言えば、あの日以来、毎回決まっている。
だから、人工頭脳に言われた時点で予め覚悟は出来ていたのだが、今さっき見た夢は余りにも現実的でリアルだったため、精神的に大分参ってしまった。
何しろ、忘れていた事までもが鮮明に蘇ったのだ。
俺は、意識を取り戻して直ぐに、両目から流していた涙を拭う。
そして、俺の周りに集まっている仲間達へ、無理矢理作り笑いを浮かべ言った。
「大丈夫だ。心配しないでくれ。ミラ、回復魔法を有り難う」
「いえ、中々ジングージ様の意識が戻らないので、私達も入室させて頂きました」
「そう……どの位、俺は意識を失っていた?」
「5分、いえ10分位でしょうか」
「思っていたよりも短い時間だな……人工頭脳は、全員を入れてくれたのか」
「はい。『我に害を加えぬ事を守れ』と私たちへ念話で言って、入れてくれました」
「そうか……」
どうやら、俺が人工頭脳と会話をしていた間に、俺の仲間も人工頭脳へ危害を加える存在では無いと認識した様だ。
俺は、立ち上がろうとしたが、足が少しふらついてしまい、身体がよろけてしまう。
直ぐに俺のよろけた身体を支えてくれたのは、側に居たナークだった。
「……大丈夫? もう少し休んだ方が良い」
「あっ、いや、大丈夫だ」
俺の顔の直ぐ側に、ナークの顔が有った。
その顔は、今し方見たばかりの悪夢では死んでしまった瞳と瓜二つ。
そういえば、瞳の亡くなった歳とナークの今の歳は一緒だった。
漂うナークの甘い香りは、瞳のそれと全く同じ香りで、俺の鼻を擽る。
俺の顔を間近で見つめるナークの目に、自分の顔が映っているのが確認出来る程、その距離は近い。
俺は、自分の感情が高揚して行くのが良く判り、激しく動揺した。
直ぐに、ナークから身体を離して、俺は「ありがとう」とだけ言ってから、何事も無かったかの様に人工頭脳に向かって言う。
「俺の知識記憶は、コピー出来たか?」
「うむ、上手く行った。情報の整理には暫く時間を要するが、非常に興味深い」
「そうか、それは良かった。俺の元居た世界と、この世界の違いも認識出来たか?」
「概ね出来た。科学技術と物理法則の解明では、お前の居た世界の方が優れている様だ。主達は、魔法技術の向上が基本で、物理法則の解明や科学技術の発展には熱心では無かった」
「魔法が存在する世界なんだから、それが正常進化だろう」
「そうだ。お前の記憶に有る『発達した科学技術は魔法と同じだ』と言う法則が、正しいのだろう」
「アーサー・C・クラークの第三法則か。俺も同感だ」
「さて、他にも我へ質問は有るか? 神宮司 丈よ」
「有る。俺が一番聞きたかった事だ。地上に有る巨大な魔法陣の事だ。あれは異世界からの召喚魔法陣なのか?」
「そうとも言えるが、そうで無いとも言える」
「それは、どういう事だ?」
「あの魔法陣は、異空間からの生命体複写魔法陣だ。故に、異空間には何ら影響は及ぼさない。唯一、複写時に複写対象生命体の意識が喪失し、同時にお前が体験した様に悪夢を見る」
「異世界の生命体をコピーしてくる魔法陣か……。では、複写対象は、元の世界に残っているのだな」
「そうだ。主達は、そうして優秀な生命体を、異空間に求めたのだ」
「だが、10年程前にも作動して、複写された人物は記憶を持って居なかったぞ」
「生命体複写魔法陣は、既に機能停止している。主達が都市から離脱する際に、機能停止を行って去った。だが……」
「だが?」
「雷竜の襲撃によって、雷撃を受けて誤動作してしまった。今から12年と1ヶ月3日と4時間38分17秒前の事だ」
「雷竜の襲撃?」
「そうだ。雷竜は、神々が主達を攻撃するために生み出した生物兵器だ」
「サンダー・ドラゴンの攻撃……。どうやって防ぐ?」
「雷竜の持つ攻撃力と防御力は非常に強力だ。だが、精神攻撃に対しては弱い。主達が作り出したセイレーン達による精神攻撃で、倒せはしないが撃退は可能だ」
「主達が作ったセイレーン達だと! あのセイレーンは古代人に作られた人工生命体なのか?」
「そうだ。だが、出来損ないだった。知能が低く過ぎたのだ。しかし、雷竜を撃退する事が出来る唯一の防御兵器として長い間、生かされている。故に雷竜の撃退と同時に、この都市から外へ出ない様に命令されているのだ」
「……セイレーン達が作られたのは、どの位前の事なのだ?」
「我の作られる遙か前の事なので、詳細な時期を我は知らぬが2500年以上前の事だ」
「も、もしかして……獣人族も、古代人が作り出した種族なのか?」
「そうだ。身体能力を強化した種族を作るために、主達によって遺伝子を組み換えられ、獣の遺伝子と合成して作られた種族だ」
「……そうだったのか。エルフ族やドワーフ族は?」
「彼らは違う。人族から進化によって魔族が生まれた様に、元は人族と同じ種族だった様だが、詳細は我の記憶情報には無い」
「判った。話しを戻す。雷竜が襲来すれば、再び魔法陣が誤動作する可能性は?」
「高い。しかも雷竜の電撃攻撃は、安定した電力では無いので、雷撃攻撃によっての誤動作では、不完全な複写になる可能性が高い。故に、複写された生命体は、記憶の欠落や身体部位の欠落などが発生するのだろう」
「俺達が、あの魔法陣を破壊しても良いか?」
「否、それは拒否する」
「セイレーン達の攻撃、いや彼女らが攻撃してきた場合、交戦して射殺する事は?」
「お前達の身を守るためであれば、仕方あるまい。しかし、セイレーン達を全滅させる事だけは拒否する」
「判った。雷竜を撃退する兵器は無いのか?」
「雷竜は翼を持ち、飛行可能だ。しかも高速飛行を行い、高々度まで上昇可能だ。身体は神鉄と同等の鱗で覆われており、守護者ゴーレムでは全く歯が立たない」
「そうか……」
「だが、主達は雷竜に対抗出来るゴーレムを試作した。それが指揮者ゴーレムだ」
「えぇ!? 指揮者ゴーレムだって? あれは、空を飛べないじゃ無いか」
「指揮者ゴーレムの試作品を試験途中に、主達は待避したのだ。あの試作品は、未だ未完成なのだ」
「未完成の試作品……。完成させる事は可能か?」
「お前の知識が有れば可能だろうと推測する。既に全ての部品や、武装は完成しているので、後は組み立てるだけだ」
「雷竜が次に、この都市を襲ってくる時期を予測できるか?」
「過去千年の間、約12年周期で襲って来ている。恐らく、近日中には再び攻撃しに此処へ来るだろう」
「近日中……。人工頭脳、一つ提案が有るが、聞いてくれるか?」
「何だ? 我に利が有る提案ならば善処しよう」
俺は、人工頭脳へ雷竜に対して、俺達と共闘する提案をした。
人工頭脳は、俺の提案を淡々と「受け入れよう」と答え、雷竜を迎撃するために必要な情報を、俺に教えてくれた。
この古代人が作った人工頭脳は、自分に敵対する存在に対しては、確実に防御行動を行う様にプログラミングされているが、自分以外の古代遺跡都市に残されているアーティファクトを守ると言う事には、全くの無関心だった。
だから、今まで古代遺跡都市に残されていた数々のアーティファクトや、金属素材などが探索者や冒険者に略奪されても、それに対して攻撃を加える様な行動も起こさなかったのだ。
この人工頭脳には論理的な、自分の身を守るための提案には、積極的に乗って来ると考えた俺の推理どうりだった。
人工頭脳との共闘提案が受け入れられたので、此処から引き上げる事にし「また来る」と言い、俺達は地下室から出て行く事にする。
元来た通路を通り、大きな地下空間へ戻ると、既に破壊した骸骨兵団の残骸は、綺麗に片付けられており、何も無い綺麗な地下空間になっていた。
まるで、ファンタジー世界の地下ダンジョンに湧き出る魔物の様に消え失せており、俺達の戦闘が夢だったかの様だ。
しかも、ご丁寧に俺達の銃から排出された空薬莢までもが、綺麗に消え去っていた。
恐らく、素材として回収されて、新たに何かを製造する際に再利用されるのだろう。
俺達が入ってきた扉は、既に開かれた状態だったので、そのまま扉を潜り、螺旋階段を昇って行き、外へと出る。
そして、俺達全員が塔から外へ出ると、隠し扉は自動的に閉じた。
巨大な魔法陣は、地下での出来事など無かったかの様に、その異様な姿を保ったままだ。
この魔法陣が、雷竜の攻撃によって、再び誤動作を起こさない様にしなければ、第二、第三のコロニちゃんの父親、ケミンさんを生み出してしまうかもしれない。
元の世界のコピー元は、何事もなくそのままだとは言え、コピーされた人は、そうでは無い。
しかも、動作が不安定で、記憶欠落や身体部位の欠落まで発生するとなれば、何としても誤動作を防がねばならないのだ。




