ドワーフ
レストランの支配人が、そうアントニオさんへ告げると、アントニオさんは頷いてから言った。
「おお、いらっしゃっいましたか、早かったですな。お通しして……」
アントニオさんが、喋り切る前に開いていたドアから、小柄な髭もじゃの男性が勢いよく部屋に入ってくるなり、大声でアントニオさんへ食ってかかる。
「アントニオ!儂は暇じゃねえんだぞ!、舌っ足らずの兎っ娘が泣きそうだったから来てやったが、詰まらん用件だったら、儂は直ぐに帰るぞい!」
「おお、それは申し訳なかったですな。いやいや、テンダー殿には是非とも紹介しておきたい客人がおりましてな。急で申し訳ないと思いましたが、必ずや貴殿も興味が尽きないと思いましてな」
「客人?エルフの娘っ子は、昔から知っとるぞ。ちゅう事は、そっちの奇妙な柄の服を着ている小僧っ子が、お前の客人ってことか?」
「はいはい、テンダー殿。私めの客人、ジョー・ジングージ様です」
小柄な髭もじゃのおっさんは、俺をぎょろりと睨みつけた。
ドワーフだ。彼はドワーフだと俺は認識した。
身長は1m20cm前後だが、その身体は筋肉の塊だと直感的に判る。
顔を埋め尽くす程の長い髭は、彼の胸辺りまで伸びているが、逆に頭髪は殆ど無く所謂、禿頭だった。
俺は、眼力鋭いドワーフのテンダーさんに、少しビビリながら自己紹介をする。
「……初めてお目にかかります。自分はジョー・ジングージと申します。訳あって、アントニオさんとお近づきになりました。以後、お見知りおき下さいます様、お願い致します」
俺は、ドワーフのテンダーさんへ、頭をさげる。
すると、テンダーさんは少し落ち着いたのか、「ふんっ」と言ってから、俺への眼力を弱める事なく言葉を続ける。
「家名持ちって事は、貴族か……儂は貴族は好かん。で、何処の国の貴族様じゃい、お前さんは?」
「いいえ、自分は貴族では無い……と思います。実は、記憶を失っておりまして、気がついた時には、迷いの森を彷徨っておりました。そこで、アントニオさんと遭遇したのです」
「ふん。迷い人だったか。しかも迷いの森だと……よく森から出られたものじゃが、それにしても、見た事もない奇妙な柄の服をきとるという事は、遠方の国から女神の意思で迷ったちゅう事か。それは難儀じゃのう」
そうテンダーさんは言うと、やっと俺への眼力が弱まり、少しだけ目に慈愛の感情が浮かんだ様に思えた。
直ぐにアントニオさんが、俺への助け船を出す様に、俺の事を簡単に説明し始める。
対オーガ戦闘で三匹のオーガを瞬殺した事や、強力な爆裂魔法の事、そして2年間も保存が可能な缶詰の事。
ここで、テンダーさんが、驚きの声を発する。
「なんじゃと、2年も保存できる携帯食料じゃと!」
「そうなのですよ、テンダー殿。カンヅメという保存食で、製造方法をジングージ様が教えて下さると言われたので、これは是非とも生産ギルドの協力が不可欠と思いましてな。急ではありましたが、テンダー殿に起こし頂いたという訳なのです」
「それは、儂とて興味が湧くな……で、小僧……ジョーと言ったか。そのカンヅメとやら、持っておるのか?」
「はい、持っています。丁度、お昼ご飯ですので、一緒に食べられる缶詰を、一個だけ見本でお見せしてから、皆さんで試食してみますか?」
「うむ、そうしてくれ。儂は早く見たくて仕方がないわい」
俺の横の席に座っていた、ドワーフのテンダーさんは、先ほどの威圧した姿は何処に行ったのやら、新しい玩具を早く見たくて仕方がないという、まるで子供の様な目で俺を見てくるのだった。
俺は、座席の下に置いてあった背嚢を膝の上に乗せ、いかにも中から取り出すふりをして、無限収納から戦闘糧食Ⅰ型の沢庵缶詰を召喚して取り出す。
「ほおー、魔法収納鞄か……。これも変わった形じゃのう……。アントニオ、酒が無くなったぞい。追加を頼む」
「はいはい、お嬢さん、ワインの追加を頼みます」
「はい、アントニオ会長。少々、お待ち下さいませ」
ドワーフのテンダーさん、凄いな。
あっという間に、ワインを一瓶、飲んじまったよ。
ドワーフの酒好きって、事実だったんだな。
俺もグラスに注がれたワインを飲んでみたが、香りも良くて円やかな味だった。
安物ワインしか飲んだ事が無い俺でも、上等なワインだと判る。
きっと、高価で高級なワインなんだろう。
「これが缶詰です。中身は暖めて食べない、漬け物が入っています」
「うむ、ちょっと儂に見せてみろ」
そう言うがいなや、テンダーさんは、俺から沢庵の缶詰を奪い取ると、しげしげと観察し始めた。
と、何やら懐から取り出して、それを缶詰に近づけた。
それは、細長い石の様に見え、真ん中には革紐が括り付けられている。
石は缶詰に近づけると、カンッという音と共に、缶詰に引き寄せられてくっついた。
「磁石ですか……」
「ふん、知っておるのか……鉄で出来ていれば、この方位磁石がひっつくからな、鉄かそうで無いかが判る。この缶は、鉄で出来ておるのか。それにしては、塗装がして無い上下の部分は、鉄っぽくないな」
「鉄の全面に、別の金属で滅金してあります」
「なんとメッキとな……金や銀のメッキ以外、初めてみるわい……」
「それでは、その缶詰を開いてみましょうか」
「うむ、頼む」
俺は、ポケットからビクトリノックスのマルチツールを取り出し、缶切りブレードを出す。
するとテンダーさんは、それまで缶詰に興味津々だったのが嘘の様に、今度はビクトリノックスのマルチツールを俺から奪い取り、「なんじゃ!これは?!」と叫んで、全てのブレードを広げ始めてしまった。
「むむむ……小僧!これは鉄製のナイフでは無いぞ!しかも、この複雑な細工、並みの鍛冶職人では、絶対に作れわせん。……小僧、お主一体、何者だ?」




